召喚されし帝国
特等
全ての始まり
人は、様々な方法、理由で自らの中に潜む、内なる狂気を抑えている。
法律
道徳
教育
宗教
思想
大切な人
己の狂気を抑えるそれは、人により千差万別であるが、その存在があるからこそ、人は自らの、心の中に存在する、凶暴な野獣性に歯止めをかけ、封じ込めていると言っても過言ではない。
しかし、逆に…それら人間の狂気を抑えるそれが、本来人の内なる狂気を抑え込む役目を果たすはずのその存在が、人間の狂気的な行いを正義とし、又は大義の為の致し方無いことだと補償し、いわゆる狂気を正当化し、人間の狂気を抑える歯止めが外れたその時
人はおそらく何処までも狂い、あるいは狂えない人は自らとは関係無いと割り切り、見てみぬふりをするだろう。
もし、そんな狂気の中、或いは狂気により覆われた世界で、自らを律し、狂気を正当化する存在に対して立ち向かい、変えようと戦う事が出来る人物、もしくはその狂気の世界の中で、理性ある人としてあろうと最善を尽くす人間がいれば
その人物は恐らく、数百万の敵を撃ち破る名将を遥かに超える、勇敢で偉大な人物であるだろう。
「それでは新き良い人生を」
「よっしゃ!この力で冒険とハーレムに溢れた幸せな人生を掴むぞ!!」
全ての始まりとなる、世界と世界の狭間に存在する空間
その主人である世界の管理者の一人、人間が言うところの神様と呼ばれる存在の一人は、先ほど不幸にも命を落とし死んだ、一人の人間に特典を与え別の世界へと転生させた。
「ハーレムか…はぁ〜なんだかな…毎回毎回死んだ人間を転生させているけど、皆んなやる事がワンパターンなんだよな〜異世界でハーレム築いたり、勇者になったり。それに、転生させる人間も冴えない学生やオタクなど…あらゆる事がワンパターンすぎる。折角チート能力を与えて転生させたんだからもう少し面白い事を異世界でやってもらいたいよ。」
神は、正直転生者の種類と、転生後にやる事のワンパターン化に文句を言いうと、床にごろ寝し、自分の能力でポテチを生み出した寝転びながら食べ始めた。
「はぁ〜全く、やる事なす事ワンパターンじゃ、転生させるこっちも流石に面白みが欠けて来るよ」
寝転びながらポテチを貪るその姿は、神と言う神聖な存在とは思えない姿であるが、誰も咎める者が居ない為、神は平気な顔をしながら、、くつろいでいた。
そんな時、神の頭にある面白いアイディアが生まれた。
「そうだ…死んだ人間、つまり滅びた人間の魂を異世界に送るより、人間以外の他の滅びた存在…例えば、"滅びた国家"なんかを異世界に転生させてみたら、面白い事になるかもしれない」
突然閃いたアイディアに、神はすぐさま起き上がると、早速行動を始めた。
まず、異世界転生前に転生者に引かせる、転生者が行く異世界を決める、くじ引きの紙が入った箱を持ち出すと、神自身が箱の中から一枚のくじを引いた。
「転生先は…第131世界…世界観は魔法が発達した、文明レベルが中世〜近世のファンタジー世界…ハーレム物の典型的な世界だな」
転生者…と言うより転生国家の行き先の世界にざっと目を通したら神は、続いてこの世界に転生させる国を決める為に大量の資料を引っ張り出し、読み漁った。
「日本はもうテンプレすぎてつまんないし…この国は…なんか違うな…」
神は、ぶつぶつとそう呟きながら、あらゆる時代の色んな国の資料を読みながら、転生させる国を探し始めた。
そして10分後、数ある色んな国の中から、神はある一つの国家に目をつけた。
「よし、この国家にしてみるか。軍事力も高く強いし、文明も発展しているし、何より、滅ぶ運命にある国家だし…ふっ、面白いことになりそうだ…」
神が選んだ国…
それは、何とよりにもよって1944年6月4日、ノルマンディ上陸作戦二日前のナチスドイツ、又の名をドイツ第三帝国であった。
「あとは転生特典だけど…独ソ戦で損失した全戦力と兵員を転生と同時に復活、そしてチェコスロバキアで死んだハイドリヒを含め1941年〜1944年までに死んだ親衛隊将校や軍人も復活させる…後、死んでなくても捕虜になっている軍人も、全員異世界行き、そして爆撃などで破壊された全ての街は異世界転生と同時に元通りすると。後は…せっかく転生させるんだから、ナチスの高官や軍人達には勢力的に活動してもらいたいし、年齢を5歳ほど若返らせよう。それと、折角だし、イタリアと日本を除く枢軸国、ついでにスペインも異世界行きと…実質、ヨーロッパの殆どの地が異世界に行く事になるけど…まぁ良いか、それじゃあ!」
神様がそう言うと同時に、神は地獄の帝国である、ナチスドイツを異世界へ飛ばす為に、自身の膨大な魔力を使い、転送の準備を始めた。
すると
「あっそうだ…流石の私も慈悲の心はある。現在進行形で酷い目にあっているユダヤ人達は、ドイツの異世界への転送と同時にアメリカやイギリスなどの国へ、自動転送させよ〜っと」
先程までポテチを寝転びながら食べていた、正直神とは思えない、良い加減な神にも慈悲の心はあったのか、アウシュビッツやダッハウなどの、ナチスが運営する収容所で、ホロコーストと呼ばれる、虐殺や虐待を受けているユダヤ人達は、ドイツ及びその占領地域、イタリア以外のヨーロッパの枢軸国及び、ファシズム国の転送と同時に、アメリカやイギリスなど、連合国へと転送させる事とした。
時と場所は変わり
西暦1944年6月4日
フランス
ラ・ロシュ・ギュイヨン村B軍集団司令部
「閣下、最新の気象予報です」
「ご苦労…成る程、しばらく悪天候が続き天候が安定するのは来月の7月までか…これなら連合軍の上陸作戦は、少なくとも来月までは、無いと見ても良いな」
西ヨーロッパの防衛を担うドイツ軍B軍集団総司令官、そして、かつてアフリカ戦線で砂漠の狐と恐れ、連合国側からも尊敬の念を抱かれた、第三帝国随一の英雄、エルヴィン・ロンメル元帥は、将校の一人から渡された天気予報が記載された書類を受け取り、その内容に満足した様子でそう言った。
その日フランスには大風が吹き、波が比較的立つなど、最悪の天気と言っても過言ではなく、しかもこの様子がしばらく続くと書いてあった。
その為ロンメル元帥は、近々行われると言われている、米英そして自由フランス軍他、連合軍の大規模作戦はしばらく無いと判断し、これなら愛する妻の誕生日を本国に帰ってゆっくり祝えると思い内心喜んでいた。
「おはようございます閣下」
「あぁ、シュパイデル中将おはよう」
すると、そんなロンメル元帥の元に、B軍集団参謀長であるハンス・シュパイデル中将が現れた。
「これから休暇ですか?」
「あぁ、気象予報の結果、この悪天候は暫く続くとのことだからな。常識的に考えて天候が安定する来月まで連合軍の上陸作戦は無いとみて良いだろう。私はこれからパリに行って妻の誕生日プレゼントを購入して来る。」
「はい、承知しました」
「ついでに本国に帰った際は、総統閣下に装甲師団の指揮権を譲渡してもらえるよう交渉して来る。そうすれば、上陸して来る連合軍の対処も格段と楽になるだろうからな」
「そうですな、是非ともお願いします閣下」
当時、世界最強の分類に入る、ドイツ軍自慢の戦車部隊である装甲師団は、国防軍最高総司令官と陸軍総司令官を兼任する、ナチスドイツの最高指導者である独裁者、アドルフ・ヒトラー及び、彼の支配下にあるドイツ国防軍最高総司令部、通称OKWの指揮下にあり、前線司令部では運用が出来ずにいた。
しかし、近々フランスに上陸して来る連合軍に対して、有効かつ速やかな迎撃を行えるようにする為に、ロンメル元帥は、休暇でドイツへと戻るついでに、ヒトラーに直談判し、装甲師団の指揮権をヒトラーやOKWではなく自分達に譲渡してもらえるよう交渉する事とした。
「留守中、私が帰って来るまで暫く頼むぞ」
「了解しました。しかし閣下、連合軍の上陸が近い為、ここ最近レジスタンスの活動が活発化しております。閣下も道中お気をつけて」
「安心しろ、これでも私は地獄のアフリカ戦線で兵士達と戦っていたんだ。自分の身は自分で守れるさ」
ロンメル元帥は、心配するシュパイデル中将にそう言うと、待たせてあった車に乗り込み、パリへと向かって行った。
その夜
ナチスドイツ
首都:ベルリン
総統官邸
このヨーロッパの地を、恐怖と軍事力により支配する地獄の帝国、ナチスドイツの政軍の中枢であり、独裁者アドルフ・ヒトラーの仕事場である総統官邸では、ヒトラーが重苦しい様子でヨーロッパの地図を睨みつけていた。
同盟国イタリアには連合軍が上陸し、東部戦線は膠着しているものの、スターリングラードの戦いで敗北してから戦況は明らかに劣勢。
しかも、そんな情勢の中、ドイツ占領地ではレジスタンス活動が活発化し始めているなど、日に日に旗色が悪くなっている祖国ドイツに対して、ヒトラー自身も祖国が、破滅へと着実に向かっていることを、薄々と感じ取っていた。
「何とかせねばならない…少なくとも天候が安定すると予測されている、来月に行われる可能性が高い、キャピタリスト共によるフランスへの上陸作戦は何としてでも阻止せねば…でなければ我が帝国は‥」
破滅…ヒトラーは、その二文字を口に出すのを抑えると、睡眠薬を飲み就寝した。
そしてヒトラーが眠りについたその直後、ヨーロッパは謎の光に包まれ、そして光が収まる頃にはフランス、ドイツ、ポーランド、バルカン半島、ノルウェーなど、ヨーロッパの大部分がこの世から永久に消滅した。
謎の空間
「おぉ、上手くいったな。第三帝国は原作開始の4年前くらいに飛ばしたが、果たしてどんな活躍を見せるものか…まてよ、ナチスドイツだけを飛ばすのは少し面白みに欠けるかもしれないな…魔法が存在しているとは言え、この世界の技術は中世レベル…そんな世界だと、ドイツ軍の無双で終わってしまいそうだからな…そうだ、いい事を考えた」
そう言うと、神は少し笑いながらまた新たに何かを始めた。
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後書き
エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメル
生年月日:1891年11月15日
階級:ドイツ陸軍元帥
渾名:砂漠の狐
第二次世界大戦期に数多くの名将を輩出したドイツの中でも、飛び抜けて知名度が高い軍人。
ロンメルの名声を不動の物とした北アフリカ戦線では
トリポリ市内で行った軍事パレードで戦車を周回させ、敵に自軍の戦車の数を本来の数の約5倍である約1000両の戦車が攻めて来たと誤認させる。
フォルクスワーゲンを使ったハリボテの戦車を砂煙を上げさせながら、進軍させ敵の大群が攻めて来たと誤認させる。
などなど、数々の奇策によりイギリス軍を出し抜き、多くの勝利を掴んで来た事から、砂漠の狐の異名と共に讃えられ、敵であるイギリス兵、さらには時のイギリス首相チャーチルから、ナポレオン以来の偉大な戦術と尊敬される程の名将である。
同時に、捕虜となった敵兵に敬意を払いドイツ人兵と同じ様に扱う。
部下に無謀な命令は出さない。
自分も前線に立つ
住民を巻き込まず、食料の徴発も自重した
さらにはユダヤ人の軍人を捕虜にした際、ヒトラーよりユダヤ人の捕虜を始末する様命令書が届いた際には、書類を燃やしユダヤ人を庇うなど、戦場という狂気に呑み込まれず、騎士道精神に則った勇敢な戦いを行うなど、人格的にも優れた軍人であり、今でも高い評価を受けている人物である。
また、初期はヒトラーに忠誠を誓っていたが、ナチス思想の根幹である、人種差別に対しても否定的であり、息子がナチスの代表的な思想の一つである、アーリア人優越論を語った際には、「私の前で、その様な話をするな」と叱ったほどである。
因みに、作者が人生で初めて尊敬した歴史的偉人でもあります。
ロンメル将軍の有名な名言としては
"血を流すな、汗を流せ"
が多くの名言の中でも比較的有名であり、この名言からも、ロンメル将軍がどの様な人物であったかは、想像がつくだろう。
現在では、北アフリカ戦線での補給軽視の姿勢から、名将であったかどうかと、論争になってはいるが、個人的には当時の北アフリカ戦線はただでさえ、敵に比べて戦力が少ない上に、そもそも北アフリカ戦線自体、イタリア軍に対する政治的パフォーマンス要素が強かった事から、ロシア戦線に比べて国防軍最高司令部からも、戦略敵に軽視されていた為、敵の体制が整う前に、戦えるうちに一気に戦う所謂短期決戦に活路を見出していた結果、補給軽視であったと見られていたのでは無いかと推測する。
ハンス・シュパイデル
1897年10月28日
階級:ドイツ陸軍中将
1944年6月14日から、ロンメル元帥が率いていたB軍集団の参謀を務めている将校、フランス侵攻作戦時には師団長、その後は駐仏ドイツ軍司令部参謀長、第5軍団参謀長、南方軍集団参謀長の職を歴任して来た。
史実では後に、ロンメル元帥をヒトラー暗殺計画、所謂ワルキューレ作戦に参加する様、呼びかけた。
因みに今回この作品で、異世界へと飛ばされた国は以下の通りになります
ナチスドイツ及び東方生存圏を除く同国の占領地
スペイン
ルーマニア王国
ハンガリー王国
ブルガリア王国
スイス
クロアチア独立国
セルビア救国政府
などです。
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