第1話ー③ 初任務 

 初任務当日。キリヤは研究所の入り口で、優香とゆめかを待っていた。


 そしてキリヤはふと、


「外に出るのっていつぶりだろう……」


 そんなことを思い、口に出していた。


 研究所と施設の移動は今まで何回かしていたが、街という街に出るのは施設にいたころに暁先生が誘拐されたとき以来だったなと思うキリヤ。


「またあれから街はいろいろと変わっているんだろうな」


 これからは任務で外に出ることがきっと多くなる。今まで見たことのない景色が見られるのはちょっと楽しみかもしれない――そんなことを考えながら、キリヤはふっと笑った。


「なんだか楽しそうですね、キリヤ君」


 1人で笑っているキリヤの顔を変に思ったのか、優香は目を細めてキリヤにそう言った。


 そしてその後ろにはゆめかもおり、微笑みながらキリヤのことを見ていた。


「あ、優香もゆめかさんもおはようございます! 優香さ、なんか僕のこと引いてない?」

「そんなことないです。ただ、1人でニヤニヤしていて、怪しいなとは思いましたけど」

「ちょっと! 僕が変質者みたいな言い方しないでよ!!」

「2人は今日も仲良しだね。その調子で、任務の方もよろしく頼むよ」


 ゆめかは笑顔でキリヤたちにそう言った。


 そしてキリヤたちはゆめかの運転で、事件の起こっている場所へと向かった。




 車に乗って数分後。キリヤたちは、目的地の墓地へ到着した。


「じゃあ、私は仕事があるから先に帰っているよ。また20時くらいに迎えに来るから、それまでに事件の糸口を掴んでおくように。じゃあね」


 そう言うと、ゆめかはキリヤたちだけを残して、研究所へと戻っていった。


「本当に僕たちだけの任務なんだね……」


 走り去るゆめかの車を見ながら、キリヤはそう呟いた。


「そうみたいね。まあ人手不足だから、簡単な事件に人員を割いてる場合じゃないんでしょ。じゃあ、さっさと事件を解決して、この辺の探索でもしよう!」


 楽しそうにそう言う優香。


「ちょっと!? 遊びに来たわけじゃないからね?」

「わかってるよ! だからさっさと事件解決しようって言ってるでしょ? ほら、つべこべ言っていないで、調査を始めるよ!」


 キリヤは優香に手を引かれながら、調査を開始したのだった。


「まずはどうするの? こういうときってやっぱり聞き込み?」

「そうね……。聞き込みももちろん重要だけど。それよりもこの墓地からよく見える窓はどこだと思う?」

「え?」


 優香にそう言われて、キリヤは周囲を見渡す。


 この場所は墓地といいつつ、郊外にあるわけではなく、民家がちらちらと立ち並ぶ住宅街。優香からどこの窓が見やすいかを問われたキリヤは、今見える場所から懸命に窓らしいものをピックアップしていく。


「うーん。あの家とあっちのアパートかな。……でもなんで?」


 優香の質問に疑問を抱いたキリヤは、首をかしげながら優香に問いかけた。



「簡単なことだよ。この事件の犯人は何らかの能力を使って、この墓地に怪奇現象を起こしている」


「所長から聞いた話だと、そうだったね」


「うん。そして事件が起こる場所のほとんどがこの墓地なら、いつも同じところで能力を使用して、見ている可能性が高いじゃない? だからこの墓地を見やすい場所にいる人が犯人だと思ったってわけ」


「そうか……なるほど! 確かに、そうかもしれないね!」


「目星はついた。まずはその2か所の家にポイントを絞って、聞き込み開始だよ!」


「うん!」



 そしてキリヤたちは聞き込みを開始した。




 キリヤたちは道行く人に、目星をつけた家のことを問う。


「あのアパートに住んでいる人のことってわかりますか?」


 キリヤがそう問うと、不審そうな表情で「わからない」とその一言だけ返された。そんなことが続き、キリヤの聞き込みは一向に進まず――


「はあ。聞き込みって案外難しいんだな。優香はどんな感じだろう」


 キリヤは気になって、優香の様子をひっそりと見に行った。そこには驚きの光景があった。


「あの、あの家に住んでいる人のことってわかりますか? ……実は、生き別れの兄妹がいるかもしれなくて……。もう何年もあっていないんです! だから、私……。今度はちゃんと会って、話したくて! だから、何でもいいので、あの家のことを教えてくれませんか!!」


 目薬を使ってウソ泣きをしながら、道行く人々に自分が悲劇のヒロインであることを訴えかける優香。


「あんなので本当にうまくいくのかな……?」


 キリヤがそんなことを思っていると、優香の周りに人々が集まる。


「大変だったんだねえ。できることがあれば、何でも協力するからね!」

「俺の知っていることなら、何でも教えるよ!!」


(嘘だ!? あれで本当に人が集まるなんて――)


 再び目薬で目を潤ませながら、優香は集まった人々に言葉をかける。


「皆さん、ありがとうございます! 私はなんとお礼を言えばよいか……」

「お礼なんていらないさ! 嬢ちゃんが幸せになれるならな!」


 そして優香は、情報を聞き出しているようだった。


「す、すごいな……。僕もあの方法でやれば、うまくいくのかな……?」


 いや、あれは優香だからできるやり方のような気もする……。僕は僕のやり方でやってみよう――。


 そしてキリヤは優香の聞き込み方法を多少は参考にしつつ、再び聞き込みを行った。


 数時間後。キリヤたちはそれぞれの聞き込みで得た情報を共有することになり、近くにある児童公園で落ち合った。


「何かいい情報はあった?」


 キリヤたちは公園のベンチに腰を掛けながら、集まった情報を整理する。



「アパートの方はきっとシロね。大学生の一人暮らしで、夕方はクラブ活動やバイトでいない時間が多いってことでしょ。だとしたら、頻繁に事件なんて起こせない」


「そうだね。じゃあ優香が調べたあの家に犯人が……?」


「ええ、たぶんね。4人家族で父は普通のサラリーマン、母は専業主婦をしていて、息子君は小学3年生。そして1歳になる娘さんいる……。おそらく事件を起こしているのは、小学3年生の息子君の可能性が高い」


「そっか……」


「じゃあさっそく、家に乗り込もう」



 そう言って立ち上がる優香。


「え!? ちょっとそれは強引すぎじゃない?」

「だって、こんな事件を起こす悪ガキだよ? 早く更生しないと、ろくな大人にならないよ」

「そうだけどさ……」


 優香の言い分も理解できないわけじゃなかったが、キリヤはその少年が事件を起こすのには何か理由があるような気がしてならなかった。


「もう少しその子のことを調べてみない? 犯人がその子だってわかっていれば、事件が起きる前になんとかすることはできるわけだし」


 キリヤは必死に優香を説得する。そして優香もそんな僕の気持ちが伝わったのか、軽くため息をつき、キリヤの意見を認めてくれた。


「タイムリミットは19時までだよ? それまでに何ともできなかったら、家に突入して、その子を取り押さえるからね?」

「ありがとう、優香!」


 それからキリヤたちはその家の周辺で張り込むことにした。

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