§3信頼できる人

 七海は昨日の母親の話を、頭の中で反すうしていた。千宙と結ばれたいという思いが先行して、心が通じ合っていたかどうかを考えていた。また、信頼し合って高め合うのが本来の恋愛の姿だ、という母親の言葉が胸に刺さっていた。

「中学の時に、立松君とは中学生らしい交際をしてねと言ったのを覚えてる?でももう子供じゃないもんね!本当に信頼できる人ができたら、キスするのも関係を持つのも自由だけど、自分の行動に責任を持つことよ!」

「わたし、何か焦ってたみたい。千宙君が好き過ぎて、彼が思い通りにならないのが気に入らなかった。自分の思い描いていた恋愛を追い求め過ぎてた。」

 私は中途半端な恋愛感情を抱き、場当たり的に抱かれようとしていた。彼も私を求めていたが、心よりも体のつながりを優先していたのだと思った。いずれにしても彼と元に戻るのは容易ではなく、私の心から締め出す覚悟をした。


 七海は正月の5日間を静岡で過ごし、東京の寮へ戻った。千宙には連絡せず、恥ずかしい所を見せた黄川田きかわだ肇に会っていた。彼は北海道には帰らず、正月を一人東京で過ごしていた。

「この前は、御迷惑を掛けてすみませんでした。未成年なのにお酒を飲んで、先輩たちに絡んで、とんだ失態をお見せしました。」

「梅枝さんの様子が変だなと思って、いつもは行かないけど、心配して二次会に付いて行ったんだ。あのマンションは、女の子の連れ込み部屋みたいなんだよ。」

 私はよく意味が分からなくて、彼に詳しく教えてもらった。

「僕が言うのも変だけど、このサークルは真面目な人もいる一方、風紀を乱す奴らもいてやばいんだよ!だから、僕は合宿にも行かないし、気を付けた方が良いよ!」

「そうなんですね!黄川田さんは、そうと知ってて在籍しているのは何故ですか?」

「やばいのは、この間マンションにいた男子2名だから。僕は友だちがいなくて、勧誘されたのが嬉しくて、それで入ったんだ。梅枝さんとも知り合えたしね。」

 私は繕わない彼の言葉に胸を打たれ、千宙との事を相談してみようと思った。

「実は、あの日、付き合ってる彼ともめて、自棄になっていたんです。」

「梅枝さんでも、そういう事があるんだ。僕で良ければ、話を聞くよ!」

 私は千宙との出会いから再会、約束をすっぽかされた経緯を、支障のない範囲で話した。私たちがどういう仲だとか、肉体的な関係については黙っていた。

「約束を破って、別の女の子とはひどいな!事情はあったにしろ、僕だったらばメールではなく、約束の場所に会いに行って理由を話して謝ると思うな。」

「そうですよね!それで邪険にされ頭に来て、連絡もしなかったんです。そしたら、寮の前で待ち伏せして、黄川田さんといる所を見られて誤解されたんです。」

「そうか、僕も少し責任を感じるな。でも、梅枝さんを放って置けなかったし。」


 親身に相談に乗ってくれる彼に、七海は好感を抱いていた。恋に発展するかは未知数だが、黄川田を信頼している事は明らかだった。

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