第2話

 肩につかない程度の長さの、白っぽい金色に染めたパーマヘア。キツめのアイラインに盛モリのまつ毛。赤いカラコンを入れて、お気に入りのバンドのTシャツにレオパードのミニスカートにパープルのカラータイツと網タイツを重ねばきする。10ホールのピンクのショートブーツを履いて、ラムスキンのピンク色のライダースジャケットを羽織る。

 美紅と桔梗にはダサいってバカにされるけど、アタシのお気に入りのスタイルだ。アタシは、パンクロックが好きだ。仕事の途中で入った古いレコードショップでかかっていたガチャガチャした音楽が気に入って、店員にパンクロックというものを教えてもらった。世の中に対する怒りを音楽とファッションいう平和な方法で表現する可愛らしさが、とっても気に入ったのだ。


 フランキンセンスの真っ赤な扉を開くと、大音量でテクノミュージックがかかっている。目まぐるしいライトは話や気配をかき消すため。ここで殺戮はご法度だ。


 カウンターにはマスターのリッキーさんとバイトのジンくんがいて、仕事帰りの同業者たちがそこらかしこにいる。みんな今だけは仲間と、あるいは一人でプライベートな時間を過ごしている。


 奥のテーブルで立ち飲みをしている美紅と桔梗を発見した。アタシは手を振って駆け寄る。

 やっぱり格好が微妙と言われたけれど、こんな場所で着物を着ている桔梗もどうかと思う。美紅はシンプルな黒シャツにデニムパンツ。オーバーサイズのジャケットというどこにでもいそうなスタイルだ。


「久しぶりだね、八重子。彼氏できた?」

「まだだよ! 出会ってもない。そういう美紅は?」

「大学生のヤリサー仕切ってる半グレ潰してみたけど、理想の子はいなかった」

 と美紅は肩をすくめる。彼女はチャラ男系のか弱くて可愛い男を守ってあげたいらしい。

「にしてもさ、八重子より強くて八重子を守ってくれる男なんてそうそういないと思うよ」

 と美紅が続ける。

「やっぱり外部に強い男を求めるのが良くないのよ」

 桔梗が割って入ってくる。

「桔梗はボス一筋だもんね。ファザコン」

 とアタシがからかえば、桔梗はぷうっと頬をふくらませた。彼女はボスの秘書の一人だ。

「ボス以上の殿方なんていませんもの」

「あーね。はいはい」

 と、いつもの挨拶やりとりを交わす。

「そして八重子ちゃんにボスからのお達しがあります。新しい仕事よ」

 とにっこりと微笑む。

「えー。なに?」

「ヤマトタケルってご存知?」

 ピクっと身体が反応する。

 ボス直属の精鋭たちにはそれぞれ神話に因んだ名前が付けられる。三貴神のアマテラス、ツクヨミ、スサノオのほか、ニニギ、コノハナサクヤ、オオクニヌシ、スクナヒコナ、そして、ヤマトタケル。

「もちろん。見たことはないけど」

「そうね。私たちみたいな一般的な名前持ちじゃまず会うことはないもんね」

 と美紅が言った。そうなのだ。神話の名前持ちは文字通り雲の上の存在。スキルのレベルも雲泥の差で違う。しかも、ヤマトタケルは少し事情が違っていて、アタシ達のように生まれてすぐに組織に引き取られたのではなく、五歳の頃にボスに連れられてきたそうだ。

「で? そんな大物がどうしたの?」

「八重子ちゃんとペアを組んで仕事をしてもらうみたい。地方に行ってそこで潜入してなるべく普通に過して仕事をするのよ」

「アタシと!? どんな?」

「まず、ヤマトタケルと同棲カップルっていう設定でアパートに住む。ターゲットは彼が知ってるから八重子ちゃんは彼のサポートをお願いね」

「……サポート?」

「仕事をして帰ってくる彼の身の回りの世話ね」

「……それだけ?」

「そう」

「アタシの仕事が? ヤマトタケルっていうヤツの、身の回りの、世話??」

「そうよ」

「アタシが、その、ヤマトタケルってヤツの家政婦?」

 冗談じゃない! と言おうとして、右隣に立った男に気づいて、驚いた。桔梗がテーブルに資料を出したのと同時だった。美紅も桔梗もアタシに遅れること0.8秒で男の方を見た。

「お前らもう死んでるぞ。町田八重子。お前弱いな」

 アタシのほっぺたに男の人差し指が刺さっていた。

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