愛妻弁当

あかりんりん

愛する妻が毎日作ってくれるお弁当

僕は愛する妻が毎日作ってくれるお弁当が大好きだ。


毎日炊いてくれるご飯は白ごはんばかりではなく、僕の健康を気遣って五穀米など脂肪分が少ないご飯を使ってくれる。

他にはコレステロールも気にして卵を使う頻度を減らしてくれて、その分野菜が多めであり、お肉も鳥の胸肉などをよく使ってくれる。


それだけではなく、時間を見つけて料理本やネットを活用し、日々料理の勉強をしてくれて、僕が飽きないような工夫をしてくれる。


こんな絵に書いたような素晴らしい妻だが、何を隠そう妻が作ってくれたお弁当が結婚の決め手になったのだ。


別に大袈裟に言っているわけでは無い。

本当の事なのだ。


それは今から20年も前の話だ。

僕は24時間稼働している工場で働いていて、交替制の勤務をしていた。


当時、今の妻となる彼女と付き合っていた頃、休日に彼女とディナーの約束をしていたが、会社でトラブルが起き、急きょ会社へ呼び出しを食らってしまった。


会社に行かなければならないという責任感や、行かなかった事の罪悪感などを考えたり、行かなかった人は他部署でも悪いように噂されてしまうぐらい有名になってしまうのだ。


だから僕は呼び出しを拒否する気持ちなど持てなかった。


それでも、彼女との約束を破ることにも、また大きな抵抗があった。

僕は少しだけ迷ったが、彼女に素直に会社から呼び出しがあったことを電話で伝え、僕は会社に行く事を伝えた。


すると、彼女は一言だけ焦ってこう言った。


「じゃあ、5分だけで良いから会えないかな?そっちに行くから」


僕は5分だけ会うためだけにわざわざ化粧もして来なくていいよ、と伝えたが、どうしても会いたいと言ってくれるので、僕は寮で彼女を待った。


寮生達は意気揚々としながら会社に向かう人もいれば、夜勤や夜遊びで寝起きの顔のまま会社へ向かう人もいた。


僕は少し悔しくなった。

仕事よりも彼女を選んでしまった。


そんな後悔をし始めて彼女を待つ数分間が、僕にとっては長い長い時間だったが、程なくして彼女が来てくれた。


そして彼女は、スッピンのまま手作りのお弁当を僕に手渡してこう言った。


「もし、このまま夜勤になっても、これ食べて頑張ってね!会ってくれてありがとう!じゃあね!」


それだけ言ってまた車で帰って行った彼女のことを、僕はさらに好きになった。


あの日、今でこそ簡単なおにぎりや卵焼きや冷凍食品やデザートの詰め合わせ弁当だったが、僕を励ます手紙入りのお弁当は、その後の人生においても最も嬉しいお弁当だった。


それから彼女に結婚を申し入れてから約20年。


僕は3人の子供に恵まれたが、相変わらず家族よりも仕事を優先したこともあり、それなりの役職へ昇進することも出来た。


全ては僕の努力と支え続けてくれた妻のお陰だ。

素直にそう思っていた。


だが、何もかも上手くいくはずも無く、40才を過ぎた頃、健康診断で引っかかった。


高血圧だった。


結婚した当初から血圧が140付近であったが、年齢もあり150を常に超えるようになった。


会社の健康診断で引っかかると詳細な診断と会社への報告が必要なため、仕方なく医者へ赴き薬も出されたが、医者も信用できないし、薬は好きではないから飲まずにいた。


念の為、妻へも相談したが


「薬は副作用もあるけれど、ちきんと説明が無いようなので、あまりお勧めしませんよ。それに、あなたはキライなお医者様からのアドバイスは聞きたくないでしょう?」


と笑って言ってくれた。


妻は本当に僕のことをよく分かってくれている。

僕は妻のことをより大切に思うようになった。


そんな妻が今でも作ってくれる健康的なお弁当も毎日食べているから、それ以外のものは信用出来ず、食べたくないという気持ちも多くあった。


それでも、血圧はどんどん高くなり常に180を超えていた。

だが、日本人は高血圧が多いから仕方ないことだろうと、半ば諦めていた。


そんなある日、とうとう異変が起きてしまった。


会社の忘年会で飲んでいた時に、急に激しい頭痛に襲われたのだ。


同僚たちは僕の異変に気付き、すぐに救急車を呼んで搬送してくれた。


だが、搬送先の病院で、僕は呆気なく死んでしまった。


原因は高血圧によるくも膜下出血だった。


これまでの人生に後悔が無いと言えば嘘になるが、愛する妻と出合い、3人の子供たちにも恵まれ、会社でも部下たちに尊敬され、十分充実した人生だったと思う。


強いて言えば、もっともっと会社で認められたかったし、定年後には妻と旅行をしたかったし、子共たちの結婚式は見たかった。


それでも、僕の人生は楽しかった。


心からそう思えた。


〜〜〜〜


「そうそう、○○さんのご主人、亡くなったんですってね」


「聞きましたよー、くも膜下出血ですってねー、私も血圧が高いので心配なんですー」


「でも、その奥さんは料理研究家なんでしょ?それならもっと健康に気を使えそうなのに・・・」


「聞いた話だと、あの奥さん、結婚してからご主人に随分恨みがあったそうで、かなり大きな保険までかけてたらしいですよ。なんでも今回の件で7,000万円も入ったとか」


「えぇー!?じゃあわざと塩分が高い食事でもさせていたのかしら。アハハッ」


「まさか、それはさすがに旦那さんも気がつくでしょう、アハハッ」


亡くなった僕の家の近くでばったり会った二人の主婦が、いつものように今日も楽しそうに話をしていた。


〜〜〜〜


「あなたは私の事が大好きでしたもんね。私の作ったものはなんでも食べてくれるし。ホント、ありがとうございました」


3人の子供を連れながら、喪服を着ている女性が微笑みながらそう心に思った。



以上です。

読んでいただきありがとうございました。

和食は健康に良いけれど塩分が高いとよく言われますよね。

自分の健康は自分で守りたいものですね。

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愛妻弁当 あかりんりん @akarin9080

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