第7話 登校。

 今日も学校へ歩いて行く。だけどいつもと違う。隣に静香がいる。今朝彼女から、『一緒に学校に行こう』と言われた。


 普段は行きも帰りも別々。それが……くぅぅぅ。嬉しすぎる。静香と学校に行くという、俺の夢が叶った。


 雲ひとつない空の様に俺の心は晴れやかすぎるぜ。この幸せな空間を誰にも邪魔させないぜ!


「今日は十キロマラソンだね〜。頑張ろ〜ね」


 隣にいる静香が言った。夏休み前の超めんどくさい全生徒参加の学校行事。夏の暑い時期にやるなっての。


「元陸上部さんなら十キロは余裕だよね〜」

「いや無理。俺は短距離だったから。それに今は全く運動してないし」

「私も頑張るぞ〜」

「いや、おまえは給水係だろ。頑張る必要あるのか?」

「ないかも〜」


 そう言って、静香は楽しそうに『あはは』と笑った。


「おーい。おはよー」


 横断歩道の赤信号待ちをしていると、遠くから聴き慣れた声がする。無視無視。


「おはようって。おはよ、おはよーさん」


 挨拶を連呼する馬鹿が俺の隣に来た。空気の読めない奴め。


「下根君、おはよ」


 俺達に挨拶したのは友達の下根太陽。登校中、この辺りで必ず会う。


 俺が無視していると静香が太陽に朝の挨拶をした。


「ちぃ〜、ちっ、ちっ。ちがうぜ、近藤。俺の事は苗字ではなく名前呼んでくれ」

「うん。分かった。おはよ。太陽君」

「おはよう。近藤は今日も可愛いな」

「ありがと」


 静香は太陽に『可愛い』と言われても動じない。太陽も平然としている……。


「……太陽、おはよう。今日も元気だな」

「ああ、元気さっ。俺は毎日ビンビンさ」


 俺は二人の会話に割り込んだ。二人の空気感が、ちょっぴり悔しいから。


「先輩。おはようございます」

「由奈ちゃん、おはよ」


 由奈ちゃんとは下根太陽の妹。いつも二人仲良く登校している。体型は小柄でショートの髪型。


 俺の事を由奈ちゃんが先輩と言うのは、中学の陸上部の時の後輩だったから。


 高校になっても、そのまま俺の事を先輩と呼んでいる。


「はぁ〜。マラソン、めんどくせよ」

「そうだよな」

「なぁ、親友」

「親友じゃないけど、なんだ?」


 俺を真ん中に太陽と静香が隣にいる。後ろに由奈ちゃん。


 静香と由奈ちゃんは顔見知り程度の仲。仲がいいとは言えない。


「今日のマラソン一緒に走ってくれるよな? 最後尾で」

「別にいいけど」

「さすが心の友。男の友情、万歳!」


 太陽はかなり喜んでいる。その程度で喜ぶとは、大袈裟過ぎないか?


「ところで気になっていたんだが、なんで二人で仲良く登校してるんだ? 今までなかったよな?」


 太陽からの質問。当然と言えば当然だな。中学の頃から、一度も静香と登校した事ないし。


「私達、いま一緒に暮らしてるの」

「えっ⁉︎ マジで! それって同棲⁉︎」


 静香の返答に、太陽が驚きアホな事を口走る。由奈ちゃんも驚いている。


「ちがう。静香の親戚に不幸があって、一週間だけウチに泊まっているだけだ」

「ちっ! つまらん。ラッキースケベイベントは起きそうにないな」


 太陽の言っている意味が分からない。そんなイベントそうそう起きる訳が……あっ、今朝あったな。


「お兄ちゃんの変態……先輩、ごめんなさい。静香さんも、ごめんなさい」

「イヤイヤイヤ。由奈ちゃんが謝る事はないよ。それにいつもの事だから気にしてないし」

「私も気にしてないから大丈夫だよ」


 変態お兄ちゃんを持つ妹は大変だな。


「なぁ、心の友。頼みがある」

「……断る」

「まだ何も言ってないだろうが」


 太陽の頼みなんて言わなくても分かる。


「おまえの考えなんて分かる。一週間ウチに泊めてくれだろ?」

「はっはっは〜。残念。違う」


 絶対そうだと思った。他に何があるんだよ。変態お兄ちゃんのお願いは。


「おまえに頼みたい事、それは——」

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