第6話 朝。其の2

 ……う〜。頬がくすぐったい。


「……はよ〜。朝ですよ〜」


 透き通る澄んだ女の子の声が聞こえる。天使の声か? ここは天国ですか?


「朝だよ〜。おきて〜」


 ……うん。静香の声だ。


 眠たい目をゆっくり開けると目の前に彼女はいた。顔が近い。


「やっとおきた〜」


 そう言って俺に微笑む。最高の朝だ。やはりここは天国だった。


 俺は上半身を起こし、


「おはよう」


 と挨拶。


「おはよ。あ、そうそう、今日から泊まっている間は私が朝ごはんは作るね。一階に行こっ」


 静香が朝ごはんを作るとは……嬉しすぎる!


 立ち上がった静香が俺に手を差し出す。その手を握りベッドから起きる。


「わ、わわっ」

「——うわっ。——ぐはっ!」

「きゃうん!」


 静香の引っ張る力が弱かった。俺の方へ逆に引っ張られる。彼女の豊満な胸が俺の顔を押し潰す。


 すぐに離れる静香。腕をクロスして胸を隠している。


「エッチ。絶対狙ってやったでしょ」

「イヤイヤイヤ。事故。事故です! 故意にやってないっ」


 ジト目で俺を見ている。天国から地獄になってしまった。……いや、ある意味天国だな。


「う〜。今回だけだからね。次はやっちゃダメだからね」

「ぐはっ! 故意にやったと思われてるぅぅ。信じてぇぇぇ!」

「……もう。バカなんだから。こういう事はちゃんと付き合ってからだよ」

「えっ⁉︎ つ、付き合う⁉︎」

「——あっ。えっと、えと、ほ、ほら、一般的な事を言っただけだから! か、勘違いしないでよ! 顔洗いに行こ。さ、先に行くからっ」


 静香は逃げるように部屋を出て行く。あの慌てようは……もしかして俺の事を?


 嬉しさが込み上がってくる。今まで静香からそんな雰囲気はなかった。朝一だから気が緩んでポロっと出た?


 一緒に住んでいたら、いい事があるかもと思っていた。ホントにいい事があった。肉体的にも精神的にもね。あひゃひゃ。


 ……落ち着いたらトイレに行きたくなった。


 俺は一階のトイレへ移動した。


 ——ガチャ、ガチャガチャ。


 ドアノブを回すと鍵が掛かっている。扉をコンコンとノックした。


「はい」


 トイレから父親の声。


「ごめん。小便したいんだけど、もう出る?」

「すまん。出るのはもう少しかかる」


 ぐはっ。マジかっ。漏れそうなんですが!


 トイレから『ブヒッ』とオナラの音がした。


「うんち?」

「……そうだ」

「父さんごめん。お店のトイレ使っていい? 漏れそう」

「そうしてくれると助かる」


 喫茶店は外に出なくても家から直で行ける。急いで行こう。


 トイレを離れる時も『ブブブッ』とオナラの音がした。


 移動中、台所を見ると静香はいなかった。洗面所で顔でも洗っているのかな?


 ◇◆◇


「ふう。すっきりしたぁ」


 お店のトイレで用を済ませ手を洗い台所へ。そこには静香と父親がいた。


 静香と目が合う。顔が少し赤い気がする。はは〜ん。さっき俺に言った事で照れてるんだな。


「すぐ朝ごはん用意するからね」

「はいよ〜。何か手伝おうか?」

「大丈夫、大丈夫。座って待ってて」


 静香は何事もなかった様に振る舞っている。俺は椅子に座った。テーブル越しに父親が座っている。


「珍しいね。父さんが起きてるなんて」

「静香ちゃんがいるんだ。寝てるのは悪いだろう」


 そう言って父親はテーブルに置いてある湯飲みを取り一口飲んだ。


 俺的にはいつものように寝ていて欲しかった。静香と二人きりで朝食を食べたかった。

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