第4話 母親の部屋。

 かなり遠い所に住む親戚に不幸があり、静香の両親は彼女をウチに預けた。着替えなどの必要な物は両親が用意していた。


 一週間同じ家で過ごす……父親から突然の話に驚きはしたけど、同時に嬉しさがこみ上がる。


「悪い。この部屋しか空きがなくて」

「いいよ」

「週一で掃除しているから綺麗だと思う」


 静香が使う部屋へ案内した。二階の母親の部屋。今は使っていない。


 使っていない理由は、両親が離婚して母親が出て行ったから。俺が中学三年の時に。


 母親は仕事の昇進で海外の本社に栄転になった。父親は行かないと拒否した。母親は家族より仕事を選んだ。


 俺は父親の方に残った。静香と離れたくなかった。


 俺はかなり落ち込んだ。両親の離婚は思っている以上にダメージがデカかった。


 高校受験も失敗すると思った。だけど……静香がいつもそばにいてくれた。あの頃の心の支えだった。


 父親は離婚しても落ち込んでいなかった。いや、落ち込んでいたのかも知れない。日常生活はいつもと変わらなかった。


 当時は夫婦仲が悪かったとは思えなかった。だけど、いま当時をの事を思い出すと両親に笑顔がなかった。夫婦生活は淡々としていた。


「先に風呂入る?」

「うん。そうしようかな」


 尋ねると静香は頷きながら答えた。俺は正面の自分の部屋に戻る。静香の次は俺。父親は現在入浴中。


 ◇◆◇


 ……はっ! 寝てた。


 久しぶりの仕事に疲れたのか、うっかり寝てしまった。寝ていた時間は……四十分くらいか。


 おそらく静香は呼びに来ていない。寝ていても気づくはず。まだ入浴中かなと。


 ……寝起きで小便がしたくなった。トイレへゴー。


 風呂場のそばにある、トイレで用を済ませて廊下に出る。洗面所は照明がついている。静香はまだ入浴中か?


「あうっ」


 扉越しに静香の声が聞こえた。廊下にいる俺は洗面所の扉をノックする。


「静香、どうした?」

「えっ……だ、大丈夫。水とお湯を間違って出しただけ……だから……」


 途切れ途切れの声。これは——


「もしかして、指火傷してない? 入っていい?」

「だっ、ダメッ! 大丈夫だから!」


 ぐはっ。思いっきり拒絶された。


「ごめん。今お風呂上がりで……暑くて……パジャマ着てないの」


 パジャマを着てない……だとっ! それってつまりは下着だけか! もしくは全裸ですか!


 妄想が爆発する。扉を今すぐガチャっと開けたい!


 ……と思っていても、扉は開けない。そんな事をしたら立派な犯罪者だ。


「そっか! 分かった。大丈夫ならいい。俺居間にいるから」

「着替えたら……呼びに行くね」

「頼む」

「うん……行く……行くね」


 俺は扉の前から離れ居間に移動した。しばらくして静香か現れる。暑いからかTシャツに短パンとラフな格好。


 お風呂上がりだからか顔が少し赤い。


「ごめん。お待たせ」

「はいよ。じゃあ風呂入ってくるわ。あ、パジャマ持ってきてなかった」


 静香はクスクスと笑う。俺は二階の部屋に一旦戻る。静香も一緒に移動。


「じゃあまた明日。おやすみ〜」

「おう。おやすみ」


 そして各自部屋へ入り扉を閉めた。


 う〜ん。何故だろう。家のシャンプーとボディーソープのはずなのに……静香の体からめちゃくちゃいい匂いがしたぁ。

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