第878話_再生
瘴気を抜いた途端、身体が少し楽になった。長い息を吐いて、軽くなってしまった右腕を見下ろす。
「このまま、怪我も治すね」
腕が無いのは普通に不便だから早めに元に戻したい。改めて意識と魔力を集中させ、再び大きな呼吸をした。
「
この魔法を、自分に掛けることになるとはなぁ。
「ふむ。違う生き物になった気分」
トカゲとか。いや、トカゲもこんなにシュッとは再生しないし、骨や神経までは元に戻らないと聞いたことがあるので、新種のトカゲだ。違うな。
「言ってる場合……?」
ナディアも呆れていらっしゃる。寝起きに手厳しいところも好きです。
「お疲れのところ申し訳ございませんが、状況の説明をさせて頂いて宜しいでしょうか」
「うん、お願い」
モニカの言葉に頷く。何となく察することは出来ているが、きちんと説明してもらえる方がありがたい。
ちなみにその説明を受けている間に、レナの診察を受けた。自分のタグでも諸々の数値が安定していることや他に呪いなどを受けていないことは確認できているけれど。医師にも改めて診てもらえると安心だ。私より、多分、周りのみんなにとってね。
私の予想を超えていたのはあれから既に四日も経過していることだった。すんごい寝ちゃったらしい。その間、ずっと女の子達が交替しながら私の瘴気病を治療してくれていたってことは、……とんでもない負担を掛けてしまったな。女の子達は勿論のこと、村のみんなにも、モニカにもレナにも。
しかも、女の子達が心配だから持たせておきたいと思って作った回復魔法札が、まさか自分の命を救うとは。五枚全てを使ったらしい。ものすごく苦労して作ったあれ、もう一枚も残ってないんだ……。本当に言っている場合ではない。自分の命を繋ぎ止めたのだから。
「で、王子様がわざわざ、コルラードも付き添わせずにこんなところまで?」
「はい、おそらく騎士団長は今もマディス王宮の対応をなさっているのでしょう」
なるほど。魔族という脅威を取り除いたところで、魔物らの大群はまだ王都周りにいるのだろうし、私が王宮の西門をぶっ飛ばして、西の庭も
なお、マディス王宮で起こったあれこれは、既にカンナがみんなに話してくれたみたい。
「うーん」
額を押さえる。まだ寝起きで頭がぼうっとしている。
「落ち着かれるまで、お休みされてはいかがですか? アキラ様がご無理をなさる必要は一切ございません。殿下は幾らでもお待ちになるでしょう」
冷たくてちょっと笑っちゃった。モニカ、何か怒ってない? 「殿下」と呼んだ声に、彼女らしからぬ棘を感じた。
「無理はしないよ。お風呂に入って着替えて、軽く食事を取りたい」
めちゃくちゃお腹が減っているわけじゃないけど、エネルギーが足りていない気がするので補充を要する。
そして、自分がそう感じるせいだろうか。こんなところまで来たベルクと兵らのことも気になってしまった。
「二時間くらいそのまま待つように伝えてくれる? それと、簡単なスープだけでいいから、炊き出しをしてあげて。私が後でちゃんと、食材を補填するからさ」
「……畏まりました。アキラ様のご意向であれば」
あんまり気乗りしないのかな。少し申し訳ない気持ちになったものの、了承してくれたモニカは足早に立ち去って行った。
私達の会話が終わるのを待っていたレナが、診察結果を伝えてくれる。
容態は安定しているし、もう怪我も治っている。でも意識を失っている間に女の子達が施してくれた補給だけじゃ、すぐ日常生活に戻れるほどの状態は維持できない。消化器系もすっかり弱っている可能性が高いから、食事は優しいものから少しずつ増やすように。運動も気を付けて、急に動かず徐々に増やすようにと、病み上がりの時みたいな注意を受けた。気を付けます。でも多分これ、私じゃなくて女の子達に注意を促している気がする。これから監視がガッチガチになるだろう。
とにかく今は色々弱っているから、滋養強壮の薬を三日ほどは飲むようにと処方してくれた。はい。大人しく頷いたら、レナも辞去して行った。
改めて、女の子達を振り返る。
「何処から謝ったらいいか分からないくらい、心配と負担を掛けてごめんなさい。もう少しお世話になります」
ベッドに座ったままで頭を下げる。本音を言えば「もう大丈夫だからみんなも休んで」と言いたいが、絶対に怒られるし、今の自分の体調を思えば料理をする体力もない。流石に寝ずの番までは必要ないが、食事などの世話は甘えるしかないだろう。
怒られることを覚悟で頭を下げている私に降ってきた幾つかの「うん」の声は、少し甘かった。
「ご飯は用意しておくから、お風呂に入ってきて」
「着替えもこっちで出しとくよ、カンナ、お風呂の方はお願い」
「はい。アキラ様、すぐにご準備いたしますので、五分程お待ちください」
「うん」
みんな優しいな。でも復調後に改めて絞られる覚悟はしようと思う。今回掛けてしまった心配と負担は、今までの比じゃなかったから。先程までそこに無かった自分の右腕を見下ろして、少し撫でる。その様子を全員が見守っていたことも、何も知らなかった。
お湯に浸かる体力は全く無かったので、洗ってもらうだけで我慢。
しかし湯を貯めないのにカンナが何の準備をするんだろうと思ったら、洗われている間の私が寒くならないようにと、洗い場の周りに湯を流して温めてくれていたらしい。この風呂場の床はあんまり冷たくならない材質なのに、大事にされているね。
風呂椅子までの道のりも、カンナはぴったり寄り添って私の身体を支えてくれた。長く寝ていたせいか、本当にちょっと足取りが頼りないんだよな。カンナなら身体強化で支えてくれるんだろうけど、巻き込んで倒してしまわないかとても不安。転ぶ時は一人にしてくれ……いっそ一人で歩かせてくれ……。
念じながら慎重に歩いた。幸い、転ぶことはなかった。
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