第408話_魔道具の開発
「みんな、その場から動かないでねー」
守護石を身に着けている女の子達がなになに~って傍に来ちゃうと訳わかんないことになるからね。みんなは私の言葉に首を傾けつつも、了承してくれた。
一メートルほど離れた位置で、テスト用魔法陣を発動。じりじりと、虫除け魔道具に近付いてみる。
「ぐぬ。失敗」
四十センチくらいの距離で早くも反応して焼き切れてしまった。十センチは誤差と呼んでも良いかもしれないが、できれば誤差を五センチ未満まで持っていきたい。眉を寄せつつ、いそいそと机の方に戻る私を、女の子達が目で追う。
「……紙が燃えたんだけど、アキラちゃん熱くなかったの?」
「大丈夫、魔法で守ってた~」
「あぁ……」
何も言わずにやるからみんなが心配そう。ごめんね、後で説明するから待ってね。でも、うろうろしている私をひたすら目で追っている女の子達が可愛くて、私はちょっと楽しいよ。
さて少し魔法陣を修正して、リトライ。
「よっし、三十センチちょうどだ!」
「センチってなに?」
「さあ」
独り言のうるさい私に対し、女の子達が小さく会話している。ウェンカイン王国の長さの単位に「センチ」「メートル」は存在しない。これも後でね。
「あー、ラタ」
「うん?」
「ちょっとの間だけ守護石を貸してください」
「いいよ、待ってね」
既に朝食を食べ終えているラターシャにお願いする。すぐに首から守護石を取り外して渡してくれた。虫除け魔道具を停止して収納空間に入れて、受け取った守護石をさっきとは少しまた違う位置に置いた。
そして再び、同じ魔法陣を使って実験。すると同じ距離できっちりと紙は焼き切れてくれた。よしよし。魔道具の強弱に関わらず、距離で反応しているね。
「あとは、うーんと、あれか。変則の魔法陣」
有効範囲を限定して距離を伸ばしたり、上空にも影響を伸ばしたりしていたやつ。あのような魔法陣でも全方向で同じように反応してくれるかは確認しなければ。有効範囲と範囲外で反応が違うと困るからね。
私の持っている魔道具にはそのような設定を施したものがないから、これも突貫で考えて作らないといけないなぁ。
「ラタ、ありがとう、返します」
「うん」
守護石を持ち主にお返しして、あれこれと思考を巡らせながら机の方に座る。そして椅子の位置を整えようとしたところで、ハッとして後ろを振り返った。
「ごめん、もう好きに動いて良いよ」
忘れていました。みんなも忘れられていたのに今ので気付いたらしく、苦笑していた。そしてそれぞれ立ち上がって、動き始める。私の言葉でしっかり縛り付けていたようだ。申し訳ない。
とりあえず、私も一旦手を止めて、食べかけのサンドイッチ食べよう。
「ふふーん、ふーん」
「コーヒー要る?」
「ん、ほしい」
焦る気持ちを紛らわせるように鼻歌を歌いながら食べてたら、ナディアがコーヒーを淹れてくれた。わーい。
その後も私が朝食を終えた瞬間、見張られていたのか、するっと傍に来たナディアが空いたお皿などを回収してくれる。ありがと~。しかし愛しい気持ちを込めて尻尾に手を伸ばすと睨まれてしまい、すぐに引っ込めました。お触りはダメらしい。
仕方なく、また魔道具開発に取り掛かる。
有効範囲を限定して、前方だけに有効な虫除け魔法陣。そして上にだけ有効な虫除け魔法陣の二つを作り上げる。結構、難しかった。参考となる魔法陣を一度見ているとは言え、魔法陣のどの部分が範囲の限定を意味するのかまでは分からない。機能を教えてくれるタグはあくまでも全体としてしか教えてくれないせいだ。全体だけでも教えてくれるのは勿論ありがたいんだけども。
とにかく、分かっていることは限られている。まずは知っている部分と知らない部分を切り分け、次に知らない部分の内のどれがその機能に当たるのか予想を付ける。そしてちょっとずつ書き出して虫除け魔法陣に組み込んでは、タグの表示を確認。あれじゃない、これじゃないと試行錯誤してようやくだった。
それもタグがあるからこの程度で済んでいるだけで、他の人達が魔法陣を解析するのは相当に難しいだろうなぁ。
しかしこの魔法陣を作り出すことが私の目的ではなく。勉強にはなったが、これはあくまでも探索対象としてのテスト魔法陣だ。結果。有効範囲と範囲外、どの方向から近付いてもきっちり三十センチに反応してくれることが判明。完璧だ。この理論で魔道具を作ろう。
まず、探索対象の魔法陣または魔道具が、強力なものであるほどに強く光るようにして。
次に、さっきテストしたやつを応用して、近付くほど点滅が早くなる機能にした。三十センチ以内の範囲に入ったら、点滅じゃなくて点灯状態となる。探索対象の方角を見分ける仕組みは分かんない。残念だがその機能は無し。頑張って歩き回ってくれ。
なお、これは地中深くに埋まっていたら同じく「遠い」の判断になってしまうが、逆にそれで大体の深さも分かるから、そのままにしよう。
最後の問題は、魔道具の形状と大きさ。
私の魔法石だったら小さく作れるんだけど、流石に魔法石を使った魔道具を渡すとガロがびっくりするよねぇ。でも普通に魔法陣を描くと、あんまり小さくは出来ないな。
そもそも、使いやすいフォルムってどんな感じだろ。杖型だとあちこちに向けやすいけど、ちょっと嵩張るよね。収納空間に入れるのも難しい人が多いだろうし。
取っ手付きの水筒くらいの大きさが限度かな。筒状で、高さ二十五センチ。直径六、七センチ。上部から鉱石が四センチほど飛び出る形状。ガロの大きな手でも握りやすい取っ手を付ける。ふむ。これでどうだ。簡単にイメージ図を作成した。
「よし」
小さい声でそう呟いた私は徐に立ち上がり、いそいそとテーブルの方に座る。テーブルでのんびりお茶をしていたナディアとルーイが目を瞬き、既にテーブルを離れていたリコットとラターシャが振り返った。
「順を追ってお話しますと……」
「急に始めるじゃん、待って待って」
思った通りのツッコミをリコットが入れてくれたのが嬉しくてニコニコしてしまう。私が
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