第161話_生息状況

 依頼の方に話が戻るが、今回は希少な薬草の採取が目的だ。

 王様と従者らの説明によれば、現在は五つの探索用部隊を組み、それぞれが森を端から探している。いずれにも一人から二人の薬草の専門家が入って、残りは護衛として兵士が付いているような十数名の隊らしい。探し終えた地域と、まだ探してない地域を示してくれるが、森が広すぎてあと一か月程度で洗い切れないのは間違いない。

 その為、地図上でこの森を二十の区画に分割し、私の真偽のタグを利用して探索範囲を絞りたいとのこと。既に地図上には区画を分ける為の線が引かれていた。そういえばこの国で地図って貴重じゃなかったっけ。ま、いいか。王様が良いなら。

「では一番から順に」

 問答開始。私がコイツらの問いに『はい』って答えるのは癪だったので、王様と従者が問答しているのを眺めながら、結果が『本当』か『嘘』かを答えてやった。これで少しは探索が楽になると思って始めた問答。続けるほどに彼らの表情が険しくなる。最後の一つを終えて、私は笑った。

「全~然、絞れないねぇ」

 呑気な声でそう言って紅茶を傾ける。あら空になっちゃった。カンナ、おかわりちょうだい。ちらりと視線を向けたら、カンナがすぐにお代わりを淹れてくれた。その横で、王様が険しい顔をして黙り込んでいる。ベルクやコルラードも微かに身を乗り出して、地図を見ながら眉を寄せていた。

 結果として、『リガール草が生えていない』と判断できたのは一つも無い。二十の区画全てについて、『生えている』とタグが出た。

「王様、調べ終えた地域も番号振って」

「は……、い、承知いたしました」

 何故、と言う顔をしつつも、王様はすぐに対応してくれた。探し終えている地域も、五つの区画に分けられ、追加の番号が入る。同じ要領で確認したら、全ての区画に『生えている』。

「一体どういうことなんだ」

 王様は私ではなく、ベルク達を振り返ってそう告げる。全員、一様に困惑を示していた。誰も答えないので、仕方ない、私が答えてあげよう。

「どうもこうも。生えてはいるんだよ。数が異様に少ないとか、見付けにくいんじゃないの?」

 つまり、今みたいに生えてるか生えてないかって質問じゃ役に立たない。まあ彼らが問答を始めた時点から「それはダメでしょ」って思ったのを黙ってただけなんだけどね。

「どの程度が生えてるか、株数になるのかな? とにかく何か比較対象になる数字を出して、多いか少ないかって質問に変えた方が良いよ。基準になる数を考えて」

 私では基準なんて分からないのでね。そもそも今回、目標が何株なのかも知らない。王様とその愉快な仲間たちは私の提案に「なるほど」とか言って相談を始めた。

 漏れ聞こえる言葉から、例年では合計で二千株ほど採取していることを知る。そして森の各区画の広さと合計数から、平均で一区画に八十株が取れるのが理想である為、彼らは八十を基準にしようと結論を出した。お茶請け美味しいなーって食べながら聞いていた私は、正直に言うと、次の展開が予想できていた。

 一つ一つ確認して、予想通りの展開に途中で既に私は笑っていた。対象の区画は、ゼロだった。

「ははは、一筋縄では行かないなー」

 他の人達は当然、頭を抱えている。

「さっさと最悪の場合を想定した方が良いね。十株で確認してみよう」

 私の言葉を聞いて王様達は一斉に緊張の面持ちをした。怯えた顔に近いかな。だけど私が君らに気を遣うことは無いですよ。

「予想通りだとしたら、対応方法の変更まで視野に入れなきゃいけないよ、王様。思ったより、時間ないんじゃない?」

 つまり、躊躇っている場合ではないんじゃないかな。言外に私が込めた意味に気付いた王様は、ゆっくりと呼吸を挟んだ後、提案に応じた。

 そして、十株以上が取れると判断された区画は、一つだけだった。更にその一つも基準を二十株に変更したら否になった。

「最悪だね」

 そう言うものの私の口調は軽い。一方で、応接間は重苦しく静まり返る。全員、すっかり顔面蒼白だ。

 残りの区画、既に確認済みの区画も含めて九株が残っていたとしても、合計で二百二十五株。そして現在、既に採取を終えられたのが五十数株だっていうから、足しても三百に満たない。しかしまあ、間違いなくそんなに生えてない。そもそもあったとして、全部刈り取ったら来年以降どうすんだって話。種も薬に必要だって言うので、最悪の場合、本当に絶滅してしまう。

 さっきも聞いたが例年では約二千株を採取するわけだから、単純に考えれば今年は流行病で十倍近くが亡くなるねぇ。いや、規模はもっと酷くなるか。患者数が増えれば、感染者数もまた増えるんだから。十倍程度で済むなら、むしろ奇跡だ。

 しかし王様と側近らが集うこの場所、この国の頭脳ブレーンが集まっているはずなんだけど。何か案が出てこないもんかねぇ。お葬式の方がまだみんな喋ってるよってくらい静かになっちゃったなー。

 そんな彼らを見ながら紅茶を傾けて、ふと、カンナを見る。目が合うと、カンナは小さく会釈をした。侍女としての振る舞いの一つでしかないんだろうが、反応があると嬉しいし、可愛い。

 ふむ。

 この件が解決したら、可愛いカンナとゆっくり二人の時間が過ごせるんだったな。

 現金な私はそう思うことでようやくこの件について解決を前向きに考えてあげられそうだ。ちょっと頑張るか。そういえばリコットにも格好いいこと言って出てきたんだった。よし、解決しましょう。

「――まず」

 そう言って私がカップを置くと、呆然としていた部屋の人々がぽつぽつと此方へ視線を向け始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る