第65話_解決策
「今夜も飲みに行くつもり?」
翌日の夕飯時、私の食事量が少ないのを見止めてナディアがそう言った。昨日は「後でまた食べる」と言っていたが、その「後」が飲みに行くことだったと気付いたのだろう。
「うん、ちょっと約束もしてるし」
「アキラちゃんって本当に引っ掛けるの早いね」
「人聞きが悪いね?」
よりによってラターシャから言われてしまってぎょっとした。三姉妹も笑っている。
「いやいや。今回は女の子じゃないよ。うーん、昨日一緒に飲んだ、お友達かな」
それに昨日は私が引っ掛けられたようなものでしょう。意味は違うけど。意外そうに目を丸めるみんなを見て、私の印象がただの色魔か女狂いになってるんだなって思った。まあ、胸を張って「違う」と言えるかと言われたら、ちょっと口を噤んでしまうね。
「明日の午前には出るんでしょー? あんまり無茶に飲まないでね、アキラちゃん」
「ふふ。そうだね、今夜は早めに帰るよ」
この村には九泊十日。出発は明日と決めていた。いつも通りの時間に朝食を終えたら準備して、町の入り口にある
飲まないとは言わないんだけどね。だってあの店、食事もお酒も美味しいんだもん。
そういうわけで、私はガロが来るよりもずっと早く隠れ家のお店で飲み食いを始めていた。
「――ああ、もう来ていたのか。すまん、待たせたか?」
私を見付けて彼は少し申し訳なさそうにそう言うが、私はただこの店を楽しみたかっただけなので。そう返すと、彼は可笑しそうに眉を下げた。
「早速だけど、コレ。あ、此処で広げないでね、ちらっと見るくらいにして」
彼が隣に座ると同時に、私は膝に置いていた袋から取り出した布を彼に渡す。それは巻物みたいにくるくると丸めた形にしてあった。私の言葉に頷いて、ガロは少しだけ布を確認する。広げた時の大きさは一辺が三十センチに満たないくらいの正方形。生地はデニムのようなしっかりとして重たく、分厚いものを使用している。
「描かれているのは、魔法陣か? 俺が見せたものとは違うようだが」
「うん。それの使い方はね、昨日言ってた魔法陣の上にバサッと被せてくれたらいい。どっちが上でも良いけど、八割以上は問題の魔法陣が隠れるように」
ガロは几帳面にメモを取り始めた。でかい図体で可愛いところがあるね。彼が書き終わるのを待って、続きを喋る。
「発動したら布が光り始めるから、すぐに二、三歩分は離れてもらった方が良いね」
これは問題の魔法陣が持っている魔力に反応して発動する為、持ち歩いている間には何の効力も無いということも合わせて説明する。
「上手く行けば、ドン。軽い爆発が起こって、元の魔法陣も布も消し飛ぶよ。これは魔法陣を相殺するものなんだ」
私の説明にちょっとガロはびっくりした顔をして布を見つめた。しかしこれ自体に害は無いという言葉を思い出したのか、また私の話す内容を書き記していく。
「数時間後にもう一回確認して、魔法陣が復活してなければ破壊成功じゃないかな」
「……しかしこれは、高価なものではないのか?」
「今回は私にとっても実験だからタダで良いよ。その代わり、結果を報告してほしい」
とは言っても私は明日、この町を発つ予定で、当然、ガロが向かうそっちの村にもついて行かない。だから、次の目的地であるレッドオラムまで、報告に来てほしいとお願いした。
「承知した。それくらいお安い御用だ。何処で落ち合おうか」
「私はまだあの街に行ったことがないんだよね、知ってる宿屋はある?」
問えば、彼は何度かレッドオラムには滞在経験はあるものの、いつも利用する宿は安宿だけに女性が泊まるのをお勧め出来ないと言う。ただ、中央通りにある『ケイン』という宿、価格帯は中の上だが、食事が美味しいと評判らしい。それは最高。じゃあそこにします。
「私は『アキラ』。その街には長く滞在する予定だから、その『ケイン』に会いに来て」
「分かった。ひと月もあれば充分、結果をレッドオラムに報告しに行けるだろう」
それで良いと頷いて、後は二人でのんびり雑談しながら飲み食いした。
私達の馬車の旅が順調に進んでもレッドオラムまでは此処から十日くらい掛かる。そこから更に数か月は滞在しても良いと考えているくらいだから、のんびりと遊んでいる間にガロは会いに来てくれるだろう。
この布製魔法陣を思い付いたのは、元の世界の護符や破魔札からの連想だ。術を持ち運べて、誰でも使えるようにならないかなって。
魔法石でも似たことは出来そうだけど、あれは存在自体が希少過ぎて目立ってしまう。でもこの布製魔法陣はそこまで難しくないし、魔力もあまり要らない。だから多分、『ちょっと優秀な魔術師』程度で作れると思う。もし今回の試行が上手く行ったら、次に王様に会う時に教えてあげよう。彼らだけでも頑張れることが増えたらいいな。それすなわち、私の負担が減るのでね。
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