第45話

「それから」

 だけどナディアの説明はこれだけで終わってくれない。私も分かっていた。まだ話題に出ていない種類の魔法があるってこと。

「あなたが当たり前に毎日使っている結界魔法。これは回復魔法と同じく『特殊魔法』って呼ばれているのだけど、扱える人は本当に少なくて、レベル1でも扱える時点で宮廷魔術師が確定するわ」

「ふふ」

 もう段々楽しくなってきちゃったな。

 私が笑ったことで、ナディアがちょっと釣られて笑いそうになったらしくて、顔を背けていた。釣られたくらいでも良いから偶には私にも笑顔を向けてほしいんだけど? 彼女は笑みを完全に抑え込んでから私に向き直る。悲しい。

「最後に、ルーイを治してくれた回復魔法。真偽は分からないけれど、使える人はこの国に一人も居ないそうよ」

「わー、『本当』ってタグが出てる、最悪」

 ナディアが真偽を知らなくても、タグはそれを教えてくれる。つまり本当に、現在ウェンカイン王国内に回復魔法を使える魔術師は居ないってことだ。そりゃ、王様を回復させることが誰にも出来なかったわけだよ。

 いよいよ私は頭を抱えて項垂れた。それこそ当たり前みたいに使ったけどめちゃくちゃ危ないじゃん。回復魔法を使う人が居るだけで大騒ぎだし、即行で王様に発見されるやつ。人前で使うのはもう止めよう。

「教えてくれてありがとう、すごく助かったよ……」

 買った本は既に一通り読んでいるけど、魔法に関しては内容が多過ぎて、初級編だけではやはり足りない。

 生活魔法とか、地水火風の属性魔法の他に、氷と雷の属性魔法があって、その二つは地水火風よりも上位の属性魔法と呼ばれていること。あと、結界魔法と回復魔法が『特殊魔法』と呼ばれていることは、初級編でも説明があった。そしてそれぞれの魔法の例はあったが、各レベルがどんな魔法かということまでは記載されていない。魔法の起こりとか歴史みたいなことばかり妙に細かく書いてあったので、『魔法学』という学問は、私が求めていることと観点が少し違うのだろう。二つ目の本屋で見付けた魔法に関する基礎知識も似たような内容だった。

 ちなみに私が男達を火山に連れて行った転移魔法については、記載すらなかった。一応『特殊魔法』の分類になるだろうけれど、これについては唯一無二の可能性も感じている。

 何にせよこの世界、魔法が存在するファンタジーではあるものの、私が思っているほど『魔術師』が闊歩している世界ではないらしい。単に魔術師であるだけでも目立つのだ。そして生活魔法すらも、便利と感じるレベルを扱えば目立ってしまう。

「あ、そうだ」

 しかし憂えてばかりいても仕方が無い。気分を変えるように、私はちょっと話題を変えることにした。

「三人は今まで魔力を封じられていたんだよね。今は何か使える?」

「封じられる前に使っていた収納空間や、レベル1の生活魔法なら、少し」

 ナディアがそう答えると、リコットとルーイも同意するように頷いた。そういえばみんな、下着類は私に預けないで自分の収納空間に入れてるもんね。預かる服は直接じゃなくて収納袋ごと預かっているんだけど、念には念を入れられている気がした。流石に下着に欲情したりしませんが? いや、本人達が恥ずかしいだけという可能性もあるな。此方を信じておこう。

 閑話休題。

「そもそも魔法ってどうやって覚えるの?」

 私はこっちに来た瞬間、初めから知っていたことを思い出すみたいに使えたんだけど。そう話すと、最早みんな驚く様子は無く、感心するように声を漏らした。あ、そろそろみんなも私に慣れ始めているな。これには笑いながらリコットが答えてくれた。

「生活魔法の簡単なレベルは、それこそ物心付く頃にいつの間にか使うんだけどさ。属性魔法みたいなのは、よっぽど適性が強い天才以外、誰かに教えてもらうんだよ。だから使えるのは魔術師の講師を雇える貴族様とか、親が魔術師の二世くらい」

 その説明に、ナディア達が頷いている。それが常識なのか。学べる場が少ないことも、魔術師が少ない要因の一つであるのかもしれない。聞けば、自分にどんな適性があるかを調べる方法も見付かっていないのだという。あらゆる属性を徹底的に、使えないかもしれないのに満遍なく練習した結果、知ることになるのだと。

「ほー。それは面白いね。つまり私なら、みんなの調ってことだ」

「え?」

 三姉妹が目を丸める。私は既にうきうきし始めて、口元が緩んだ。

「真偽のタグ、忘れた?」

「……あっ」

 彼女らにも私のタグの能力は教えてあるし、ラターシャをハーフエルフと判断した経緯も話してある。今の言葉でそれを思い出した三人は、更に大きく目を見開いた。するとそこへ、テントの影からラターシャが加わった。

「戻ってこなくなったからびっくりしたよ、何を盛り上がってたの?」

 三姉妹はどうやら最初から私の後ろに鎮座していたわけではなく、ちらちら覗いては向こうに戻る、という行動を繰り返していたみたいだ。けど途中から楽しくなってみんな留まってしまったと。今更、彼女らがラターシャに説明している言葉で知った。

 リコットが「魔法の珍しさとアキラちゃんの異常さを話してた」と言った。異常さとか言うんじゃない。私だって傷付く時はあるんですよ。そのまま、属性魔法の適性を調べられる話まで、簡潔に説明してくれている。それを横目にして、私は正面に座るナディアに向き直った。

「ナディアから調べてみよっか? 私の言葉に全部『はい』で答えてね!」

「え、ええ、分かったわ」

 少し緊張したみたいな顔で私を見上げている顔、珍しくて可愛いね。

「君は『火属性』に適性がある?」

「『はい』」

「ふふ」

 ねえ。めっちゃ面白いこれ。私が笑うと、ナディアがちょっとムッとした顔をする。いや、私へ素直に『はい』と答えるナディアも確かに可愛かったんだけど、それで笑ったわけじゃないよ。

「ごめん、いや。早速、見付かったから面白かったんだよ。ナディア、火属性の適性あるよ」

「え!?」

 本当に楽しくなってきた。もしかしてこの五人で、貴重な魔術師集団を結成できるのでは?

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