PASTIME!!!
暮
1~100話
第1話_召喚
夏。ぎらぎらとアスファルトを照らす熱があちこちから跳ね返ってきて、うだるような暑さを感じていた。スマートフォンが熱くて、手の平がじんわりと汗ばんでいく。滑り落としてしまわないように握り直し、そこから零れる甘ったるい女性の声を聞いていた。
「うんうん、いいよー、好きに呼んじゃってー」
私の快諾に相手は機嫌良さそうな声を上げると、『皆』にも連絡すると言って慌ただしく通話を終わらせてしまう。
「はは、可愛いな」
帰省の予定もないお盆休みまであともうひと月ばかり。そんな中、日頃から仲良くしている女の子の一人が「一緒に遊ぼう」と誘ってくれたのだ。他にも女友達を紹介したいと言われ、二つ返事で受け入れた。女の子なんて、居れば居るほど良いに決まってる。断る理由は微塵もない。
しかし約束の詳細が全く決まらないままであることに、相手は気付いていない様子だ。その内また気付いて掛け直してくるんだろう。そんなところも私にとっては愛らしく、口元の笑みは中々消えない。スマートフォンをポケットに突っ込んで、別のポケットを探って家の鍵を取り出した。まだ真っ昼間なのにやけにアパート内が静かで、人の気配が無かった。
「お昼は何にしようかな~、豚肉と、あー、大根もまだ残ってたっけ……えーと、それじゃあ」
献立を頭の中で組み上げて、玄関扉の鍵穴に鍵を差し込もうとしたその瞬間。私の足元が光り輝く。
「は? う、わっ!?」
そのまま光は私を飲み込むように強まって、思わず目を閉じたら、ぐにゃりと平衡感覚が歪んだ。私の身体は一回転したんだか、二回転したんだか。それとも回ってないのにそう思い込んだだけなのか、とにかくよく分からない浮遊感が数秒続いてから、私の身体が壁に激突した。いや、実際は床だったんだけど、壁だと思った。さっきまで立っていたはずなのに、それは私の右側にあったから。
「――成功しました!!」
すぐ傍で男性の大きな声が聞こえて、目を瞬く。私は今の今まで自分のアパートの部屋の前、無人の廊下に居たはずなのに。目を開けると周囲には人が集まっていて、一定の距離を置いて私を取り囲んでいる。そして耳鳴りがするほどの歓声を上げていた。
「は……はぁ……?」
状況にまるでついて行けない。ここ何処? 今何が起こった? こいつら誰?
とりあえず、大事に握り締めている鍵を差し込むべき穴が近くに無いことだけは、はっきりとしていた。
これが、私が『異世界』とやらに呼び出されてしまった瞬間の思い出だ。
何度思い出しても結構、腹が立つよね。問答無用すぎやしないか? 可愛い女の子に囲まれるはずだった私のお盆休みを返してほしい。それに、アパートの冷蔵庫の中に残してきた大根が気になって仕方が無いんだけど。金沢のお祖母ちゃんが送ってくれた美味しいやつ、大事に食べてたのにさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます