第20話こいつ!(アミィ視点)
「ここならあたしとふたりきりよ」
灰眼の男……異国の大使であるジルを部屋へと押し込む。名前を聞いたらすぐ教えてくれたし、聖女を放ってあたしの言うがままについてきたし、異国の大使とは言えやはり男は簡単だわ。
「外にいる騎士は?」
「あぁ、あたしの護衛よ。あなたが何かしてあたしが叫ばない限りこないわ。……でも、あたしの機嫌を損ねたらどうなるかわからないけどね?」
クスクスと笑いながらそう言ってやれば、ジルはにこりと微笑みながら「なるほど……」とあたしの髪を指先に絡ませた。あら、もうその気になったの?なぁんだ、もしかしなくてもとっくにあたしの事を狙ってたわけね。
「ジルはあたしの事をどう思う?」
「美しい方だと思いますよ。ですが隣国の王子の婚約者が部屋で他の男とふたりきりになるのはよくないのでは?」
「大丈夫よ。あたしが言わなければバレないもの。この世の男はみんなあたしの言いなりなんだから。ねぇ、あたしが欲しいんでしょう?だったらあたしの望みを叶えて」
ジルは指先に絡ませた髪に唇を寄せ、すん。と匂いを嗅ぐ。その行為に“これで堕ちた”と思った。
あたしに興味を見せた男は、必ずあたしに夢中になると知っているから。
「……望みとは?」
「あたし、聖女になりたいの。あんな冴えない不気味な女なんか今すぐ切り捨てて、あたしを新たに聖女にしなさい。この美しいあたしが聖女になれば異国だってきっと喜ぶわ」
そう言って今までの男たちがうっとりと見惚れた笑みを浮かべてやると、ジルは腕を回しあたしの体を抱き寄せる。首筋に顔を埋めキスしてくるのかと思ったら、またもや匂いを嗅いできた。
あれ?ちょっとしつこくない?
「へぇ……聖女になりたいと?」
さっきの微笑みからは想像がつかないような低い声が聞こえ、なにかを確かめるようにやたらと鼻を鳴らし出す。
「そ、そうよ。だってあたしの方が聖女と言う呼び名に相応しいでしょ?」
くんくん。くんくん。くんくん。
え、なに?なんであたしの体の匂いを嗅ぎまくってるの?こいつ変な性癖でもあるのかしら。
「ね、ねぇ、さっきから何をーーーー「臭い」なぁっ……?!」
そう言ってジルは自分の鼻をつまみ、ぱっとあたしから距離を取る。眉根を歪め不快な顔つきを見せたのだ。
「あんた、とんでもなく臭いね」
こいつ、何を言ってるの?!
それは生まれて初めての屈辱の始まりだった。
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