とある宇宙飛行士の事情
土蛇 尚
ついにこの日がきた。
「こちら宇宙船アーク、目標の星に到着。これより地上への降下準備を始めます。」
上も下もない真っ暗な宇宙での長い船旅に耐えた宇宙船はようやく目的の星に到着した。作業のほとんどはロボットがやってくれる。だから船には宇宙飛行士一人しかいない。地球へと到着の知らせを送ると宇宙飛行士は未知の星へと降りる準備を始める。
「星の大半は海。しかしわずかに陸地がある。事前の観測通りです。まずは貨物カプセルを投下します。」
星に降りる時は三つのカプセルを順番に宇宙船から降下させる。宇宙船がまるごと降りたりはしない。巨大な船体がバラバラになってしまう。
まずは星で生きるのに必要な物資と折り畳みドームを積んだ貨物カプセル。これが失敗しても念のために物資は多めにあるから問題ない。だから最初に落とす。宇宙船からカプセルが分離して突入コースに入る。鯨の出産みたいだ。
「よし、貨物カプセルのパラシュートを展開を確認。無事に地表に着いたみたいだ。」
二つ目からは重要度がグッと上がる。この星での調査を終え宇宙にある母船に戻るための帰還カプセルの順番だからだ。このカプセルはただ落ちる貨物カプセルと違って重力を振り切る為の強力なロケットエンジンが付いている。もし失敗すればその時点で降りるのを諦める事になる。強力なロケットエンジンと燃料のせいで貨物カプセルよりも重い。
「落下速度が予想よりも早い。エンジン点火、減速を開始。」
帰還カプセルはエンジンの噴射で周囲の土を巻き上げながら無事地表へと到着した。ここまでは順調。次が惑星降下の最大の山場だ。宇宙船をロボットに任せて宇宙飛行士自身が降下カプセルに乗るからだ。
宇宙飛行士は狭いカプセルに乗りながら訓練の時に聞いた教官の話を思い出す。
「帰還用カプセルと降下カプセルが別々になっている理由を説明する。それは要求される性能が大きく違うからだ。安全に落ちるカプセルと安全に打ち上がるカプセルを一つにまとめようするとどうなる?カプセルがデカくて重くなる。これは宇宙活動では最大のリスクだ。だから二つに分けるんだ。」
宇宙飛行士は降下カプセルに乗った。ハッチを閉めて2回チェックする。モニターには降下ポイントが表示されている。いよいよだ。緊張してきた。
「おーいご飯だよ〜降りて来なさい〜。」
その声で宇宙は電気を消した子供部屋に、宇宙船は段ボールの箱に、カプセルのモニターはパパから借りたスマホに戻った。
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