第71話:このあとどうするの?

 俺とエルフリーデは宿へ荷物を取りに戻る道すがら、この後のことを少し話した。


「タナカはこのあとどうするの?」


「どうするの、って……城を見に行くよ。エルフリーデは途中にあったのを見た?」


「ううん、見てない。朝起きて、タナカがいないと思って窓の外を見たら、出て行ってるのが見えて、速攻着替えて追いかけてきたから……」


 まったくもって猪突猛進娘だな。


「しかたがない。後ろ見てみな?」


 まだ武家屋敷風の通りだったので、後ろを振り返させた。


「な、に、あれ??」


 道の先に崩れている石垣。ここから100メートルより先にあるが、はっきりと見える。


「たぶん、あれが城……というか城跡だろうと思う」


「城跡?」


 石垣の積み方が独特だ。オイレンブルクで見てた建物のほとんどがレンガ造りで、いわゆる洋風。欧州の昔の建築物のようなもの。


 しかし、この国・ビンデバルトはそのレンガ造りと和風建築が混ざっている。時代によって違うのか、それとも住んでる人の趣味か。


 そして、おそらく城は和風のようだった。エルフリーデは初めて見るのだろう。驚いている。ただ、残念ながら、石垣は崩れいてるので美しくない。


「あれを見に行くの?」


「そう、たぶん、ジョバンニが言ってたのは、あの崩れ方を見て、他国の物として客観的にどう思う? ってことなんだろうと」


 それを語ったところで、ジョバンニが何を感じるのかわからないけど。


「面白そうだよね」


 未知のものを見る目がまたキラキラし始めている。でも、今は、ソフィアさんの体力が回復するまで、エルフリーデの仕事はその手伝いである。


「でも……私は当分この街、首都にいるから、手が空いたときに見に行ってくるよ。何か逆に情報があったら教えるね」


 ちゃんと理解をしているようで良かった。自分で言い始めたことなので、優先すべきことはわかっていた。


「俺はあの石垣を見に行った後は、ジョバンニが言ってたようにグレンツェという村に行ってみることにするよ。歓迎されない、って言ってたから、少し怖いんだけど……」


 包丁を作ったり、輸送できる金属の水槽を作ったり、気になる技術の集団。しかしそうそう会ってもらえないということはジョバンニから聞いている。


「俺の持っている情報というか、美味しい物を作ったことがあるってことに興味を持ってくれたら良いんだけどね」


「念のため蕎麦を持っていく?」


「う~ん、この国は食にどん欲だから、珍しくもなさそうだしなぁ……」


 実際、それで気を引けるならありがたいんだけど、エルフリーデの時のようにはならないだろう。


 職人集団と聞くと、気難しいオヤジってイメージがある。認められるか、られないか。たぶんファーストインプレッション次第な気がするから、余計に緊張する。


「当たって砕けろでどうかな? ダメだったらダメで、他のところに行けば良いんだし」


 そりゃそうだ。俺たちは旅人だった。無理にこだわる必要はない。嫌われてもめごとになるほうが他国民としてマズイ。


「そうだね。包丁の技術とか、ちょっと気になる感じだったから、活かせると良いんだけど……。ダメだったら他に何か扱えるものを探すことにするよ」


「ん? 扱うものとは?」


 これもまた旅の目的だったのだが、エルフリーデは少し忘れているみたいだった。


「いや、俺、職業は商人なんだけど」


 ベン国王からもらった通行手形をあえて見せると、エルフリーデも「あぁ、忘れてた」と舌を出した。本当かどうかわからないが、かわいい。


 それはさておき、せっかくビンデバルトの商業ギルドでも何かできるアイテムを探さないと、来た甲斐が薄れる。


 商業ギルドは国の繋がりではなく、ギルドの繋がりなので、所属していると基本的にどこでも同じように商売ができる。


 オイレンブルクで仕入れて納めて、ビンデバルトで売る。逆もしかり。なので、簡単に言うと各々の特産を見つけて、扱うことができ、その差額を利益として得ることができる。


 よく切れる包丁……あれは欲しい料理人は多いだろうなぁ。合羽橋に来ていた海外料理人はたくさん買って行ってたなぁ。う~ん、何としても手に入れることができないだろうか……。


「う~ん……う~ん」


 しかめっ面で悩んでいたが、気が付けば宿屋の前だった。「おーい、タナカ!」とエルフリーデの声で気が付いた。


 この世界でのあきんどとはどうすればよいのか模索中である。というか、前の世界でも元々あきんどではない。よろず雑誌の契約社員の編集者。企画を考え、アポ取りから現場の雑用までこなし、ウケた企画は社員の手柄。つまり使い捨てされるような存在。


「その世界のことを考えると、今は頼られているし、全然良い身分だと思う。実家から捨てられたようなものだけど」


「どうしたの? また独り言?」


 あぁ、また内心の言葉が漏れてしまっていたみたいだ。


「まぁそんなもんだね」


「ふぅ~ん」


 あまり気にしなくなってくれているのは、本当に助かる。でもいずれこの子には本当のことを、言わなけれなならないのかもしれない。これからずっと旅をするのであれば。


 部屋に入り、簡単に片づけをした。なんだかんだ俺は旅慣れているので、サクサクっと荷物をリュックに詰めていく。


 エルフリーデもバッケスホーフの小屋や野営で少し手慣れてきたようだ。気が付けば、荷物はまとまった。1泊しかしてないし、部屋も綺麗なもんだ。


「じゃあ、行こうかな――」


 そう言って、リュックを掴もうとしたとき、背中にドンと衝撃が当たった。


 エルフリーデがもたれ掛かってきた。

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