第40話:今後どうしようか

 念願の蕎麦! 村民にも回る十分な収穫量。食べまくれる!


 醤油ではなく、塩味優先の麺つゆなので、少し趣が違うが、これはこれで良い。すする時に感じる蕎麦の香りは、前の世界のものよりも上質。


 ズルズルすすって食べる姿は行儀が悪いが、これは蕎麦の香りを感じられる良い方法だ。関係ない。と思ってたら、周りの村民も真似をし始めている。


 ゆで汁も捨てずに、つけ汁に入れて蕎麦湯として楽しむ方法を伝えた。「ほっ」と安どの声が漏れた。美味しい。これは、絶対流行る。喜んで食べている村民を見ても確実だ。


 わんこそばスタイルを教えたところ、大食い自慢の村民は早速勝負している。座ってそれを眺めながら、ポッコリ出たおなかをさすっていたところ、エルフリーデが声をかけてきた。


「良かったね」


「うん。みんなが喜んでくれている」


 事件の後、国王が護衛を送ってきたこともあり、2人だけで話す機会は減っていた。ちょっと懐かしい感じがある。


「そうだね。それに、タナカはこういう蕎麦が食べたかったんでしょ?」


「うん、俺の知っている蕎麦ってのは、こういうスタイルだからね」


「またそうやって知らないことを言うんだね……」


「あ、いやそれは……」


「今日は深く聞かないよ。また今度教えて」


「うん。そうだね」


「タナカはこの蕎麦に関しても、あまり利益を取らないとか?」


「そのつもりだよ」


「商人なら、もう少し、強欲くらいになったほうが良いと思うよ」


「それ、薬局のオーナーにも言われたよ」


 そう、俺はあまり求めなかった。


 この村での功績については、エルフリーデのものにしてほしいと国王に伝えた。実際に、国王の出資があったわけだし、それを引き出したのはエルフリーデの功績だ。俺は食べたかっただけ。また、あまりしゃしゃり出てしまうと、実家から何か言ってこられそうで、まだ目立ちたくない。もう少し自由気ままに旅をしたいと思っている。


 俺が得られるのは、商業ギルドから得られる蕎麦の手数料だけでよい。それも今後の生産量で莫大になる可能性もあるが、当面はお金を気にせず旅を楽しめる額があれば事足りる。商業ギルドは国をまたいで使える関係なので問題ない。


 また、店舗ができたときの販売に関する手数料は取らない。利益は村民と国王が得る。


 そう考えると、俺は結構頑張ったと思う。10万ベルだけ持たされ追い出され、使い切っちゃうそうになった俺も悪いけど、ほぼ文無しになりそうなところから、商人という立場になり、前の世界の記憶を使って何とか生きていける形を作れた。


「これからどうするの?」


 そう聞かれて改めて考えるが、やっぱり旅に出る。


「旅に出るかな」


「フリッチュの街で美味しいものを開発するとかは?」


「それは俺じゃなくても、誰かがもうやれるようになってるだろう。それに俺は料理人じゃない」


「……そうね」


「じゃあ、どこに旅に行くの?」


「う~んたぶん他の国かな。今回のことで他国とのつながりってのも気になったし、商業ギルドが本当に他国でもつながっているのか気になるし」


「そっか……」


 エルフリーデは今回の活躍を見ても、良い領主になれるだろう。末っ子とはいえ王籍に身を置くもの、いずれはどこかの領主になる。


 村民と生活を共にでき、同じ目線で考えることできるエルフリーデはみんなに支持されている。少なくともこの後、この村の領主になるだろう。統治まではできないだろうが、貴族なら学生で15歳でも領地があるのは変な話ではない。


 問題があるとするなら、いざという時、非常な決断ができるかどうかというのも領主のさだめである。優しさだけではどうにもできないときもあるだろう。


 ただ、俺とエルフリーデの旅はこの村で終わりとなる。なかなか楽しい旅であった。


「そういえば、ちゃんとお礼を言えてなかったよね」


「そうだっけ?」


「うん……助けてくれてありがとう」


 今更感もあり、照れ臭そうにしている。


「そばにいてくれてありがとう」


 なかなかこそばゆくなってしまう。俺はこういう青春時代を送ってこなかったから、対応に困る。なのでオヤジ臭さで乗り切ろうとしてしまう。


「そば……うん、蕎麦は美味かったよね」


「……タナカ、それ、つまらないよ」


 一気に冷静になって、冷たい見下す目になっている。


 そうそうかっこよく決められるものではない。大丈夫、俺も「つまらない」と思っている。

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