神という幻想
バブみ道日丿宮組
お題:冷静と情熱の間にあるのは痛み 制限時間:15分
神という幻想
冷やして熱する。そうすると鉄は鋭くなる。心も同じ。情熱と冷静さを伴わなければ痛みが襲う。それに耐えてこそ、心は強くなる。
その理念を元に、姉さんは自分の体を捧げた。
一族を守るために、信者の暴走を防ぐために、僕の代わりになるためにーー悲鳴に、奇声、とても人の声じゃないものがそのたびに耳に入ってきた。
とても耐えられなかった。助けたかった。けれど、僕は信者に封じ込められた。身動き1つさせてもらえなかった。
『お館様は神の道へとお進みになられるのです』
そんな世迷い言を繰り返して、儀式中僕を一度だって放してくれなかった。
姉さんにこんなことはやめて2人だけで自由に生きようって提案してみても、
「……跡取りがいなくなったこの一族が暴走しないようにするには誰かが犠牲にならなきゃいけないの」
と、笑顔で頭を撫でられて誤魔化されてしまう。
暖かい眼差しが、本当は僕の役目なのにと言い出すきっかけを作ることさえ許してもらえなかった。
「私はあなたと違って、いろんなものを見ることができないし、作ることもできないの」
だから守らせてーーそれが姉さんと話した最後の言葉。
抱かれた僕は冷たさしか姉さんから感じなかった。
暖かみを持ったのは言葉と目だけで、もう全てが壊れてしまったんだと僕は泣くしかなかった。
姉さんが死ぬと僕の一族は、姉さんの遺体を神に捧げるために一生原型を留める秘術を施した。
きれいな姿だった。
体が焼け落ち冷やされて磨かれたのか、僕が最後にみたときとは別人のように感じた。
姉さんの言うとおり、一族の信者は姉さんを神と崇めはじめて僕のことを視線に入れなくなった。いてもいなくてもどうでもいい存在。
神の片割れは災いをもたらす。そんな噂まで広まりつつあった。
僕は姉さんの部屋にあるものと自分の部屋にあったものを引越し業者にお願いすると、一人暮らしを始めた。
お金だけは困ることはなかったから、学校の手続きをしてみて行ってみたけれど独学で勉強してたことでなんとかなった。
友だちもできた。
ただ家に帰っても、姉さんの部屋があるだけで誰もいない。
ちくりと心に穴があきつづけた。
「……ただいま」
神という幻想 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます