君に殺される僕は

甘空

プロローグ

「六憶分の一か……」


 スマホを見ながらそう呟く俺、國井くにい春樹はるきに隣で文庫本を読んでいた美少女、双葉ふたば未侑みゆはいつもの調子でからんでくる。


「せーんぱいっ!何見てるんですか?」


 相変わらずのウザがらみだ。思わず、顔をしかめてしまう。


「えぇ……そんな顔しなくてもいいじゃないですかー!ほら、かわいい後輩ですよ~美少女の後輩に話しかけられてるんですよ~」


「うっとうしい……」


 そうやって雑に扱おうとすると、ウザさが五割増しぐらいになった。……うぜぇ。


「も~素直じゃないんですから。私のこと・・・・好きなくせに・・・・・・……。それで、話し戻しますけど、さっきの『六憶分の一』ってなんですか?」


 事実を突かれて言葉に詰まりそうになるが、そんなことすればまた絡まれるのは必至なので表情に出さないようにしつつ答える。


「ん……?ああ、ゴルフでホールインワンと、アルバトロスの両方を一日に達成できる確率だよ」


 スマホの画面に出ている動画を見せながら俺はそう言う。だが、彼女にはピンとこなかったようで、首をかしげている。


「ホールインワンは分かるんですけど、その、あるばとろす?って言うのは何ですか?」


 俺はそんな未侑の様子をみて大げさにやれやれと首を振って見せる。


「ゴルフの規定された打数より、三打少なくカップに入れることだよ。これ、豆知識な?」


 そう言うと、俺の態度が気に入らなかったようで未侑は唇を尖らせながら俺を睨む。


「べっつにそんなこと知らなくても生きていけますもーん。先輩はそんな知識つけるより先に友達を作ったらどうです?」

「おいコラ、都合が悪くなったからって正論で殴るのはやめろ」


 つーか、お前は生きてくんだからアルバトロスぐらい知っとけよ……。


「……で、その確率がどうしたんですか?」

「いや、それならさ、俺が今まで、殺人未遂の・・・・・被害者・・・になった回数って確率にするとどんなもんかなって」


 そう言うと、未侑はこちらの顔を見てきた。


「確か……21回でしたっけ」

「ん、そうだな。」


 21回。それは、生まれてから今日までに、俺が殺人未遂事件の被害者になった回数だ。……まぁ、警察も把握していないものまで含めると30を超えてしまうのだが。


「ほんと、先輩は前世で何やらかしたんですか」


 かなり引いた様子を見せる未侑。

 それも仕方ないだろう。本来ならば気持ち悪いと言われて縁を切られるところなのだ。実際、同級生に塩をまかれたこともあるし、それを考えると未侑の反応は優しい部類だろう。

 

 ……俺は悪霊か何かかな?


 ほんとに前世の俺、何やらかしてくれたんだ……。


 『殺され体質』とでも言おうか。まあ実際に殺されたらこんなところで後輩と話してることなどできないので、すべて未遂にとどまっているのがせめてもの救いだが。


 ……いや全然救いになってねえよ。


 そんな風に一人で心の中でツッコミいれていると、未侑が「はぁ……」とため息をつく。


「そんな状況に陥ったら、いっそのこと『殺されたい』って思うのも仕方ないのかもしれませんね」


 まあ、理解はできませんが。と付け足し、未侑は何が面白いのかクスクスと笑っている。


 お前が提案してきたことだろうが。という意味を込めて軽く未侑のことを睨む。


 ……どうしてあんな提案を受け入れてしまったんだろうか。俺は一ヶ月前に初めて未侑に出会った時を思い出しながらそんなことを思った。


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