第25話 瞬きもせず-25

        *


 「そう、そんなことがあったの……」

由起子は仙貴の言葉を聞いて呟くように頷いた。放課後の屋上、賑やかに話してる女子の集団の傍らで、金網にもたれながら、由起子と仙貴は話していた。

「詳しいことは聞いてないよ。でも…」

「でも?」

「ん、しのぶちゃんは随分、苦労してるんだね」

「そうよ。今は話せないわ。んん、あたしが話すことはないわ。いつか、本人から聞く機会があれば聞いてくれればいい」

「そうだね」

 仙貴は頷いて、風景を目で追っていた。緑地公園に続く緑道の向こうには、陽が傾きつつある。

「ね、そんなしのぶちゃんのこと、嫌いになった?」

「まさか。僕もたいてい悪いことはしてきたから」

「何人血祭りに上げたことやら」

「言わないでよ」

仙貴は少し照れるように由起子の言葉を遮った。由起子は、いつも冷静な仙貴が慌てているのがおかしくて、少し笑った。

「それは、あたしも一緒。そうね、しのぶちゃんも、一緒ね」

「え…?」

「あの娘も、修羅場を越えてきてる」

「…うん。そうだね」

「でも…、由理子ちゃんがね」

「うん、驚いた」

「驚いた?」

「だって、おとなしいお嬢さんだっていう印象があったから」

「そう?」

「さすがは、緑川家の一員だね」

「それはどうかは知らないけど、あの娘も、しっかり者だから」

「うん…」

「もしかして、仙貴君」

「な、なに?」

「なにって、あなた、由理子ちゃんのこと…」

「なんだよ、いったい」

「あら、焦ってるわね」

「なにが言いたいんだよ」

「言ってもいいの?」

「なにが?」

「由理子ちゃんのこと好きなんでしょ?」

「な、なにを」

「焦ってる焦ってる。へえ~、あの戦鬼が、ねぇ」

「そんな風に言わないでよ。まだ、自分でもよくわかんないんだから」

「そう。でも、意外ね、戦鬼も丸くなって、恋をするようになったんだから」

「本当に、まだよくわからないんだ。ただ、こないだの由理子さん、きっぱりしてて、良かったな、って」

「由理子ちゃんって、直樹君の理想の女性だって、知ってる?」

「あぁ、そう言えば、噂になってたな」

「そう。しっかり者で、男の後を付いてくるようなタイプ。仙貴君もなかなかいい好みね」

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