第24話 瞬きもせず-24


 仙貴は建物の陰からその様子を見ていた。ただ、微笑みながら。そして、間合いを見計らって、声を掛けた。

「おい、こんなとこにいたのか?」

 仙貴の声を聞いて、しのぶと朝夢見は慌てて振り返った。しのぶは、すぐに顔を隠して、涙の跡を消そうとしていた。

「なんだ二人ともいたのか。ミキがぶつくさ言ってるぞ。夕飯の支度ができないって」

「あ、そう。すぐ行くわ」

 朝夢見は仙貴の視界からしのぶを隠すように立ち上がった。そして、仙貴の背を押しながら、行きましょ、と言った。

 しのぶもゆっくり立ち上がった。そして、由理子に、赤くなった瞳で礼を言った。由理子は微笑みでそれに応えた。しのぶには、そんな由理子が由起子先生のように見えた。

「じゃあ、あたしも、行きます」

「うん。またね」

そう応えたものの、去ろうとしたしのぶは、立ち止まってちょっと振り返った。

「なに?」由理子が問い掛けると、しのぶは恥ずかしそうに言った。

「また、話聞いてくれますか?」

「ええ、いつでも」

 しのぶはにかっと笑みを見せて、ありがとう、と言って、仙貴と朝夢見を追って行った。

 後に残された由理子は、ほっとしながら、空を仰いだ。空に浮かんだ雲は、もう紫がかっていた。


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