白百合の咲く庭園で

木根間鉄男

第1話―プロローグ Day???「庭園に囚われた少女」―

「あぁ、私はいったい何やってるんだろうか……」

 少女は何度目かわからないほどに繰り返した言葉を、また呟いた。

 真っ白な百合の花が一面に咲き誇るこの巨大な庭園で、少女は一人、何年も、いや、何十年と囚われ、戦い続けてきた。

 彼女は真っ白なフリフリとしたドレスのような衣装を身に纏い、その身に似合わない青白い炎を思わせる銃剣を持っている。

「だめだ、こんな弱気では……」

 少女は自分に喝を入れ、目の前の敵を睨みつける。

 山のように巨大な大男、だがその頭は牛、神話に出てくるミノタウロスそのものだ。

「こんな調子じゃ世界を守れない!」

 少女はミノタウロスに銃剣を突きつけ、引き金を引いた。

 ぱぁんっ! と、鋭い音が反響し世界を震わせる。

 その直後、大量の血しぶきが少女に降り注いだ。銃弾がミノタウロスの胸元を貫いたのだ。

 だが、ミノタウロスは死んではいない。自身の胸元に巨大な風穴を開けられてもなお、大木のように太い腕を振り回し、少女に襲いかかったのだ。

 少女は身を躱すが、長々とした腕のリーチからは逃れられず直撃を受けてしまう。

 重たい一撃が彼女のか細い身体を吹き飛ばす。それと同時、ぼぎり、と嫌な音が彼女の左腕に響いた。

「ぐあぁっ!? うぐぅ!」

 彼女は何とか受け身をとったが、痛みに顔を歪める。左腕が逆向きに折れ曲がってしまっている。

 痛々しげなその腕を彼女は無理にねじ曲げ、元の形に戻す。

「はっ……はぁはぁ……こんな傷……」

 こうして強がってはみたものの痛いものは痛い。何度も体験したこの痛みに、慣れるはずもなかった。

「こんな程度じゃ、負けられないの!」

 彼女は鬼気迫る声で叫び、銃剣をミノタウロスに構えた。

 そして引き金を引く。

 まばゆい光を帯びた弾丸が撃ち出され、ミノタウロスの頭部を吹き飛ばした。

 頭部を失った化け物は糸の切れたマリオネットのようにがくり、とその身体を地面に崩し二度と動くことはなかった。

「はぁはぁ……今日も、勝てた……後どのくらい戦えばいいの? どれだけ戦えば世界を守れるの?」

 しかし彼女のその問いに答えるものはいない。

 世界が放つ無音だけが、びりびりと彼女の鼓膜を震わせるだけ。

 この世界には彼女ただ一人。彼女は明日も、戦い続ける。


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