お母さんオーディション
西園寺 亜裕太
第1話 謎のオーディション開催!
「さあ、始まりました! 野々宮
そう言って白井早希は野々宮夏香の方に手を向けて紹介するが、当の夏香はただただ困惑していた。
「……ねえ、早希、これなに?」
「なにって、お母さんオーディションだけど?」
「いや、だから、そのお母さんオーディションが何かって聞きたいんだけど……」
突然”お母さんオーディション”なるものの審査員に抜擢された夏香は困惑していた。
放課後に近くの大きめの公園に呼び出されたかと思うと、胡散臭いマジシャンみたいにキラキラした派手なスーツと派手なマジシャンハットを着用した友人の白井早希がいて、試着室みたいな、カーテンが付いて中が見えないようになっている怪しい個室が5つ連なったような物があったのだから。
その個室の連なる上の部分には横向きの横断幕に【第1回野々宮夏香ちゃんのお母さんオーディション】とでかでかと書かれていた。
箱根駅伝とか甲子園大会みたいに、日本人なら誰でも知っているでしょ? と言いたげなニュアンスで謎の”お母さんオーディション”の話を進められているが、そんなオーディションの存在は当然初耳である。
「もしかして夏香ちゃん、お母さんオーディションで呼ばれてるって知らずに来たの? 呼ばれた理由もわからないのに何で来たの?」
「いや、私は早希に呼び出されたから普通にどこかに遊びにでも行くのかと思って来たんだけど……」
「呼び出された理由もわからずによく来れるね? そんなほいほい言われたまま信用して来ちゃって、将来詐欺とかに騙されない? 大丈夫?」
「毎日学校で会ってる友達からの誘いを、詐欺とか胡散臭い勧誘並に警戒する子の将来の方が私は心配だけどね」
なんだかこのまま言い合っていても不毛な話が進んで行くだけの気がするので、夏香の方から尋ねてみることにした。
「お母さんオーディションって、私が5人の中から一番良かった人を選んで、選ばれた人が私のお母さんになるとかじゃないわよね?」
夏香が名前から適当に推測する。お母さんオーディションという言葉と怪しい5つの試着室みたいなブースから適当に想像してみただけだが。
「なんだぁ、知ってるじゃん。やっぱり夏香ちゃん、知ってるうえで来たんだね?」
「いや、当てずっぽうで言っただけ。ていうか、何でそんなこと始めるの? 私は今のお母さんに何の不満もないんだから、勝手にお母さんを決め直されても困るんだけど!」
そもそもお母さんオーディションというものの選考結果の効力であったり、そんな変なオーディションの存在の信憑性であったり、疑問に思うべきところはたくさんあるのだろうけど、すべてをイチイチ指摘していたらキリがないので、お母さんオーディションという得体のしれない企画が存在する前提で話を進めることにした。
「そんなことしたらお母さんが可哀そうだからやめてよね。私は審査員なんてしないから」
「えー、ダメだよ。そもそも夏香ちゃんのお母さんも了承してくれてるんだから」
「一応ちゃんと許可は取ってるのね……でも、なんでうちのお母さんそんな変な企画了承しちゃってんのよ!」
つい先ほどお母さんに対して何の不満もないと言ったが、こんな変なオーディションを了承してしまっているという不満が今生まれてしまった。
「まあ、夏香ちゃんのクレームをイチイチ気にしていたら、せっかくの企画が始まりませんので早速始めていきましょう!」
言葉遣いを司会者のように直した早希が明るく元気よく宣言する。
夏香は真っ当な指摘をクレームという形で流されてしまってなんだか納得がいかなかった。
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