第17話 初心者ツアー

「おっ、あれがポロリネンス焼か」


 街で噂の名物を見つけた。

 うわっ、形があれだ。

 お椀型の上にちょこんと小さい具が乗っている。

 おっぱい饅頭じゃないか。

 女性も平気で買っている。

 突っ込まないでおこう。


「買っていこうよ」

「うちも食べたいわ」

「すいません」


「俺がおごってやるよ。でも、そろそろ金策を考えないと。いろいろと物入りだからな」

「風邪のお守りは、ほんまにぼろい商売や」

「ハンナは酒造りがあるから良いだろ」

「商品ちゅうのは、量が増えるほど旨味がなくなっていくもんや」

「そうだな」


「どうやろ、ここはひとつ。新しいネタをうちのために、考えてくれたりは」


 うーん、新しいアイデアと言ってもなぁ。

 味噌は外国人にはいまいちだからな。

 醤油ならワンちゃんあるか。

 味噌と醤油はそんなに難しくは無いんだよな。

 昔は農家が各家で作ってた。

 ただ菌を選別するのがな。

 味噌と醤油の保険なんて無い。

 発酵食品は菌の選別が難しい。

 専門でもないのに出来るかってところだ。


「駄目だなアイデアが出ない」


「なになに、商品のアイデア。そんなの壊れ物に物品保険かけたら良いんじゃない」

「ターラ、クレーム処理がうざいんだよ。結局いつもそれがネックだ。ゆすりを働く奴が必ず出て来る。全財産賭けたって良い」

「ぶちのめせば良いと思う」

「そんな脳筋思考だとトラブルばかりになるぞ」


「すいません、回復する保険を遅効性の回復魔法と、言い張ってみたら」

「うん、理由付けは十分だが、やっぱりクレームがな」


「うちはええと思う。ようは駄目だった時の言い訳やな。こうしたらどないやろ。遅効性の回復魔法は失敗する事もあると、最初に言ってみたらどないや」

「そんな不確実な魔法は誰も有難がらない。命が掛かってるからな」


「簡単だよ。良さを理解してないから、そうなるのよ。無理やり保険に入らせればいいのよ」

「えっ、強制加入させるのか」

「駆け出しの冒険者を集めて初心者ツアーをやっちゃいなよ。保険に強制加入でさ」

「ターラ、さえてるな。それなら保険の特性を理解したリピーターが増える。保険は絶対ではないからと念を押しておけばいい。保険はある意味便利だから、流行ること請け合いだ」


「カケルはんは、風邪保険の販売に精を出すとして。これなら依頼を待ってるあいだうちら三人で別個に働けるちゅう訳やな」

「ツアーを始めるのに、またミリーに借りができるな」

「ええやん。借りなんてもんは踏み倒してなんぼや。それより、ツアーの客がリピーターになったら紹介料がほしい」


「そうだな。ツアーの後に回復の保険を売った利益を山分けだな」

「よっしゃ、誰が一番顧客を捕まえられるか勝負や」

「負けないよ」

「自信はないけど勝負です。すいません」


 俺はミリーの所に行った。


「駆け出しにいろいろとレクチャーするツアーを企画したんだけど」

「また面白い商売を始めたわね」

「銅貨20枚ぐらいでどうかと思うんだ」

「分かったわ。新人が来たらツアーを勧めてみる。ところであなた達のパーティのランクが一つ上がったわ。Eランクよ。ターラのランクがDからCね」

「おう、ありがと」


 よし、これで良い。

 新人達が俺達の所に来た。


「うちら、三人がインストラクターや。誰がええか選んだらええ」

「あの皆さんの特技は何ですか」


「うちから言わせてもらう。うちは魔獣を空間に隔離できるんや。弱いの限定やけどな」


 ハンナの堆肥箱はそんな弱点があるのか。

 確かにドラゴンを収納出来たら最強だ。


「私は超怪力だから、倒せない魔獣はいないよ」

「すいません。魔法が撃てます」


 新人が迷って分かれた。

 ターラの人気が高いようだ。

 次にシンディ。

 ハンナはビリだ。


「うちがドベ。ちょっとショックやわ」


「分かれたな。じゃ今から遅効性の回復魔法を掛ける。これは怪我をするとその時に回復魔法が発動する。だが過信するなよ絶対はないからな。もしも、時の切り札みたいなものだと思っておけ。もし、遅効性の回復魔法を掛けて欲しくなったら、俺の所へ来い。強弱いろいろとあるから便利だぞ」


 今回使うのはこれだ。

――――――――――――――――――――

 軽傷プチヒール魔法保険

  怪我に対して一度だけプチヒール魔法が掛かります。


  保険料:銅貨10枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:プチヒール

――――――――――――――――――――


 保険の入門としては良いだろう。

 この上のクラスだと。


――――――――――――――――――――

 傷害ヒール魔法保険

  怪我に対して一度だけヒール魔法が掛かります。


  保険料:銀貨1枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:ヒール魔法

――――――――――――――――――――



 更に上のクラスだと。


――――――――――――――――――――

 傷害ハイヒール魔法保険

  怪我に対して一度だけハイヒール魔法が掛かります。


  保険料:銀貨10枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:ハイヒール魔法

――――――――――――――――――――



 最上位だと。


――――――――――――――――――――

 重傷エクストラヒール魔法保険

  重傷を負った時にエクストラヒールが一度だけ掛かります。


  保険料:金貨1枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:エクストラヒール魔法

――――――――――――――――――――

 などだ。


 ツアーは大当たりした。

 回復魔法の保険も大当たり。

 評判を聞いたベテラン冒険者も高額な保険に入ってくれた。


「すいません、指名依頼が来ました」


 シンディがそう言って来た。


「凄いじゃないか。なら、みんなでバックアップしてやらないとな」

「すみません」

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