悪縁

道茂 あき

第五章

第1話

 臨床実験、レベル、英雄、人災、兵器、魔物。


 おとぎ話を聴いて、納得している自分がいる。


 世の理が反転してしまった事実を耳にして、そうなんだと納得するほかに行動を起こさなければならないのだろうか。何も力がないから諦めて傍観者になれているだけなのか、大きな力があれば何か感情が湧いたのだろうか。


 誰かが泣いていた姿が思い出される。


 殺意がない俺を誰かは賞賛してくれるけれど、ホントにそれはよいことなのだろうか。殺意がない俺が人間ではないのではないだろうか。


 何も変われない。

 何も変わらない。


 俺は何故、逃げようと思う?


 逃げた先には何があるのか?


 そこから逃げ続けて来たのに、その場所へ逃げているのは何故だろう。

 記憶でしか近づけない幼いその場所は、桃源郷みたく夢のよう。


 逃げると言いながら私の足取りは気づけばのその場所へ。

 知りたかったのだろう、ホントの僕が居た故郷を。

 確かめたかったのだろう、ホントに自分の想い出があるのだと。

 ああ――、信じ切れるぬ手前よ。

 我は、誰だ?

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