召喚学園の最弱飼育師~最強目指すつもりが最弱召喚したから、私自ら闘います!!~

お花畑ラブ子

第1話

「わっはっは!!」


 高らかに笑う少女の声が学園に響き渡る。今日は新入生の魔獣召喚の日。召喚者以外立ち入りが禁止されている魔法陣は、複雑怪奇な様々な文字や模様で、カラフルに彩られていた。

 一生を共に過ごす魔獣を異界から呼び出す儀式の日である。多くの者が不安と期待の入り交じった様々な表情を浮かべる中、彼女の自信に満ち溢れた姿は異様な空気を放っていた。


「なぜ、不安がる!なぜ、ビビる!自分に自信を持ちなさいよ!強い魔獣は強き心の元にくるって習ったじゃない!」


 その場にいる新入生たちに啖呵を切るその目付きはするどく赤茶色の瞳や、口元から少し見える八重歯に、獣のような凄みを感じる。


「わたしは、自分を、恥じないし!悔いないし!蔑まない!この九条 烈火は必ず最強って言われてる竜種を引き当てるのよ!」


 数十名の新入生が固唾を呑んで魔法陣を囲む中、烈火は杖を指揮棒のように振るう。魔法学園の闘技場。古き時代のコロッセオを模したその場所は校舎からもよく見え、上級生たちも自分の使い魔とともに見物している。石造りのその中央は広く空間が広がり、巨大な魔獣が召喚されても十分収容できる。その中心で、九条烈火は赤みがかった髪をひとつにまとめ、真新しいローブをたなびかせている。


「我が心根を写し、魂の絆を持ちし、異界の獣よ。いたれり、いたれり、いたらせたまえ!我が呼び掛けに答えたまえ!」


 なにやらポーズを決めながら叫ぶ。


 魔力が収束していく。


 爆音とともに閃光がほとばしり、巻き上がる土埃。


 上級生たちが不思議な表情を浮かべる

「なぁ、おい。召喚の儀式、呪文なんかあったか?」

「いや、魔法陣にただ手を当てて、召喚って言うだけだぞ。」

「だよな」


 新入生の方は聞いていた儀式とは違った様子に不安が込み上げてきて、半泣きの者もいた。


「なぁ、おれ、なんにも言うこと決めてきてないんだけど…」

「めっちゃ色々光ってんだけど」

「ば、ばか、パパ上もいっていたけど、普通に魔獣が魔法陣に浮かびあがるだけだって」

「…あれは…召喚とは関係ない、自分で魔法使ってるだけ…」


 様々な魔法光が流星のように散らばる中、様子を見守っていた教師陣は絶句していた。


「こんな、ことは、我が校、始まって以来の、恥ずべき!」

「神聖な儀式は粛々と行われるべきであるからにして」

「ふっひっひ!ば、バカがいる!バカがいるぞ」

「教師たるもの言葉遣いに気をつけなさいませ」


 召喚者以外が召喚の儀式に立ち入れないことをいいことに彼女は仰々しいセリフや派手な演出をしているのだ。

 爆煙の最中、彼女は跪き、呟くのだ。


「来い!来い!来い!来い!竜種!ドラゴン!飛龍よ!来い!わたしはこの世界で、1番になってやる!惨めな思いはたくさんだ!今度は器用にやってやるわ。今度は柔軟に対応してやるわ。今度こそわたしは自分の気持ちに素直に生きるのよ!!」


 祈るように重ねた手を開き、地面の魔法陣に重ねる。つぶっていた目を開き、彼女は覚悟を決めて唱える。


「召喚!《サモン》!!!!」


 渦巻く魔力は一気に中央の魔法陣へ吸い込まれていく。烈火の出した魔法の数々も一緒に集まっていき、あたりは静けさに包まれた。


「…は?」


 目の前に現れたのは、ふよふよとゆれる巨大な水滴。まるで、特大なゼリーのようなそれは、プルプルとゆれる。


「す、スライム?」


 誰が呟いたか、その言葉は瞬く間に会場へと広がり、ざわめきは大きなうねりを生む。


「ぷっ」

「ふふっ」

「あは」

「ぎゃあははは」


 小さな気持ちの緩みが大爆笑として、闘技場を揺らすまで、時間はかからなかった。召喚主は茫然自失真っ白に燃え尽きていた。


 そう、九条烈火の召喚した魔獣は最強には程遠い、学園史上最弱のスライムだったのだ。

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召喚学園の最弱飼育師~最強目指すつもりが最弱召喚したから、私自ら闘います!!~ お花畑ラブ子 @sonic0227

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