第17話 エヘッ! 17 玉藻の前
「なに? 酒呑童子がやられただと?」
玉藻の前に酒呑童子が倒されたと情報が入る。
「いったいどこのどいつが酒呑童子を倒したんだい? 武士? 侍? 伝説の人斬りかい?」
玉藻の前は興味津々だった。
「この子の様です。」
手下の狐が玉藻の前に1枚の写真を渡す。
「女の子!? こんな可愛い女の子が酒呑童子を倒したというのかい!?」
写真に写っているのはおみっちゃん。
「仕方がないね。この子も日本の大妖怪と言われたいんだろうけど、酒呑童子を倒せても、この私は倒せないよ! こっちから血祭りに出向いてやる!」
玉藻の前はおみっちゃんを倒しに出かけようとする。
「それはそうと、うちの子を見かけなかったかい?」
玉藻の前は子持ちだった。
「探しといてね。」
今時の育児放棄の我儘な母親でもあった。
「カワイイ! 狐さんだ!」
おみっちゃんは迷子の子狐を見つけた。
「おいで。おいで。油揚げをあげよう。エヘッ!」
どこからか油揚げが現れる。
「コンコン。」
おみっちゃんと小狐は仲良くなった。
「誰だい? 私の茶店できつねうどんを出してるのは?」
何でも出せるファミレスの様な茶店。
「儲かるからいいじゃないですか? エヘッ!」
銭勘定ができるようになってきたエヘ幽霊。
「そうだね。所詮、この世は銭次第だからね。イヒッ!」
守銭奴な女将さん。
「あれ? 狐じゃないかい?」
女将さんは子狐に気がついた。
「コンコンです。コンコン鳴くので。」
子狐の名前はコンコンに決まった。
「コンコン。」
カワイイ子狐のコンコン。
「そいつ、狐じゃなくて妖狐の子供じゃないかい?」
女将さんは良い所に気がついた。
「妖狐ってなんですか? 羊羹の略ですか?」
真顔なおみっちゃん。
「あ、頭が痛い。」
大ダメージを受ける女将さん。
「妖狐っていうのは九尾の狐の玉藻の前の狐一族の子供ってことだよ。そのうち、こどもを探して玉藻の前がやってくるかもね。日本三大妖怪の一人だよ。」
優しく説明してくれる女将さん。
「コンコン。」
コンコンは何かを言いたそうだった。
「どうしたの? コンコン。もっと油揚げが食べたいの?」
おみっちゃんはまだコンコンの言葉が理解できていなかった。
「すいません。きつねうどんを下さい。」
茶店のお客さんが注文してくる。
「は~い! 喜んで!」
おみっちゃんはきつねうどんをお客様に持っていく。
「美味しい! 特に油揚げが!」
女性のお客さんはきつねうどんを気にいった。
「ありがとうございます。良かったら油揚げだけでも追加注文できますよ。エヘッ!」
商売に抜け目がないエヘ幽霊。
「あんたがおみっちゃんかい?」
お客さんはおみっちゃんに名前を確認する。
「はい。茶店のカワイイカワイイ看板娘のおみっちゃんです。エヘッ!」
可愛いを強調するエヘ幽霊。
「酒呑童子を倒したのもあんただろう? おみっちゃん。」
お客さんの目の色が変わる。
「なぜそれを!?」
裏の顔がバレて驚くおみっちゃん。
「私は九尾の妖狐、泣く子も黙る玉藻の前だ! ワッハッハー!」
お客さんは玉藻の前だった。
「きつねうどんが大好きな玉藻の前さんですね。エヘッ!」
笑って誤魔化すエヘ幽霊。
「そうそう・・・・・・って、違うわい!」
ノリつっこみもできる玉藻の前。
「おみっちゃん。あんたが日本の大妖怪に挑戦しているって聞いたので、こっちからわざわざ来てやったのさ。殺してやるから感謝しな。」
玉藻の前は妖力を高める。
「ええ~誰も挑戦していないのに。」
ありがた迷惑なおみっちゃん。
「ストップ。やるなら外でやってくれ。茶店を壊したら弁償してもらうからね。」
おみっちゃんの心配より茶店の心配をする女将さん。
「そんなこと知らないよ。私に請求できるもんならしてごらん。」
強気な玉藻の前。
「表に出ましょう。女将さんは本気です。日本の大妖怪とか気にしないで高額な弁償を請求する人ですから。抵抗すると妖怪裁判も起こすような質の悪い人です。」
ボロカスに言うおみっちゃん。
「そうなのかい。怖い人だね。あんたも大変だね。ヤクザな女将さんにこき使われて。」
おみっちゃんに同情する玉藻の前。
「実はそうなんです。私って可哀そうな子なんです。シクシク。」
迫真の演技を見せるおみっちゃん。
「勝負だ! おみっちゃん! 私を倒したら大妖怪だと認めてやろうじゃないかい!」
茶店の外で世紀の対決が始まる。
「別に私は大妖怪になんかなりたくないんですけどね。私がなりたいのは歌姫なんですが。」
おみっちゃんの声は届かない。
「問答無用! くらえ! 妖術! 狐火!」
玉藻の前は狐火を飛ばしておみっちゃんを攻撃する。
「ギャアアアアアアー!」
おみっちゃんは倒された。
「たわいもない。こんな小娘に酒呑童子はやられたのかい? 情けないね。ワッハッハー!」
勝ち誇る玉藻の前。
「本当ですね。きっとアルコール依存症だったんですよ。エヘッ!」
隣で一緒に笑うエヘ幽霊。
「ギャアアアアアアー! お化け!」
倒したおみっちゃんが現れて驚く玉藻の前。
「失礼な。私はお化けではありません。カワイイ幽霊です。エヘッ!」
幽霊にプライドを持っているエヘ幽霊。
「なかなかやるじゃないかい。私の攻撃も効かないってかい。これなら酒呑童子を倒したっていうのも納得だよ。」
玉藻の前はおみっちゃんの恐ろしさを実感した。
「それほどでも。エヘッ!」
褒められて喜ぶエヘ幽霊。
「褒めてない! こうなったら私の全身全霊の妖力で燃やし尽くしてやるよ!」
玉藻の前はおみっちゃん相手に真剣モードに入る。
「私にも歌姫になるという夢があるので、こんな所で成仏する訳にはいきません。私の歌を聞いてもらうしかありませんね。」
おみっちゃんも真面目に戦う気になった。
「いけ! 狐火たち! そこの怨霊を燃やし尽くせ!」
玉藻の前は大量の狐火を出しておみっちゃんを攻撃する。
「私は怨霊ではありません! 私は幽霊です!」
おみっちゃんは歌を歌い出す。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。
「ギャアアアアアアー! なんだ!? この酷い歌声は!? 私の狐火をかき消していくだと!?」
恐るべし! おみっちゃんのデスボイス。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
更に歌い続けるおみっちゃん。
「いいだろう。こうなったら私の妖力が尽きるか、あんたの喉が渇くか勝負だ!」
狐火の連続攻撃を続ける玉藻の前。
「ダメだ。これ以上、歌を歌い続けられない!? もうダメだ!?」
おみっちゃん最大のピンチ。
「だいぶん声量が弱くなってきたね。これでとどめだよ! 特大狐火!」
玉藻の前がとどめにかかる。
「コンコン。」
その時、コンコンが鳴いた。
「坊や!? どうしてここに!?」
コンコンの姿を見て驚く玉藻の前は攻撃をやめる。
「コンコン。」
迷子になった所をおみっちゃんに助けられたというコンコン。
「どうやら私は戦いに勝っても母親としておみっちゃんに負けたみたいだね。」
おみっちゃんも歌を歌うのをやめ、玉藻の前も攻撃をやめた。
「コンコンが助けてくれたの? ありがとう。コンコン。」
おみっちゃんはコンコンに尋ねてみた。
「コンコン。」
ありがとう。おみっちゃんとコンコンが言っている。
「私の負けだよ。おみっちゃん、あんたには日本の大妖怪を名乗る資格があるよ。」
玉藻の前は子供を助けてくれたおみっちゃんを大妖怪と認めた。
「いえいえ。私は大妖怪になりたくありません。私がなりたいのは歌姫です。」
おみっちゃんの夢はお江戸で歌姫になることである。
「うちの子も懐いているから面倒をしっかり見ておくれ。じゃあね。」
玉藻の前は去って行った。
「ええ~!? 育児放棄ですか!? それでいいんですか!?」
おみっちゃんは玉藻の前に振り回される。
「コンコン。」
コンコンはおみっちゃんに懐いている。
「仕方がありません。コンコン。私のペットになりますか?」
おみっちゃんはコンコンを飼うことにした。
「コンコン。」
コンコンも玉藻の前に育てられるより幸せそうである。
「これからよろしくね。コンコン。」
「コンコン。」
おみっちゃんとコンコンは仲良く暮らすことにした。
「おみっちゃん、コンコンの食べた油揚げ代は給料から引いておくからね。イヒッ!」
守銭奴な女将さん。
「そ、そんな!?」
おみっちゃんの夢が叶う日はやってくるのか。
つづく。
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