第16話 エヘッ! 16 酒呑童子

「善行を返せ!」

 おみっちゃんは酒呑童子の待つ大江山に向かう。

「助けてください! 鬼が暴れて困っているんです!」

 行く先々で人々に助けを求められる。

「善行チャンス! 困っている人を助けて善行を集めるです! そして呪いを解き放ち、私は夢を叶えます!」

 呪いといっても音痴なだけ。

「それにしても鬼の数が多いね。」

 鬼の種類は火鬼、氷鬼、水鬼、風鬼、雷鬼などの自然系鬼。それから剣鬼、弓鬼、盾鬼、魔法使い鬼、騎士鬼、聖騎士鬼などのジョブ系鬼。更にドラゴン鬼、スライム鬼、ナメクジ鬼、カラス鬼、ガイコツ鬼などのモンスター系の鬼など。

「さすがに私一人では無理ですね。女将さん、助けてくださいよ。」

 おみっちゃんは師匠である女将さんに助けを求める。

「嫌だよ。私は銭稼ぎに忙しいんだ。自分で何とかしな。そうしないと立派な大人になれないよ。イヒッ!」

 決してそんなことはない。

「薄情者! ・・・・・・私自身が困った人になっちゃいました。」

 おみっちゃんは悩み込む。

「私たちが手を貸しましょう。」

 そこに何者かたちが現れる。

「あなたたちは!?」

 現れたのは餓鬼、天狗、河童、提灯お化け、唐傘お化け、のっぺらぼうだった。

「魔王妖怪おみっちゃん様。今後は我々、妖怪がお助け致します。」

 妖怪たちはおみっちゃんに従うというのだ。

「ええ~!? どうして!?」

 驚くおみっちゃん。

「魔王妖怪マヨ様が「私は負けたので旅に出ます。魔王妖怪の座は勝者のおみっちゃんにあげるので、今後はおみっちゃんに従ってください。」とのことです。」

 経緯を聞くおみっちゃん。

「魔王妖怪になっちゃった!? エヘッ!」

 歌っただけで魔王妖怪の座を手に入れた恐るべしエヘ幽霊。

「何でも御命令ください。魔王妖怪おみっちゃん様。」

 妖怪たちは妖怪の頂点に立ったおみっちゃんに忠誠を誓う。

「おみっちゃん様ってやめてもらっていいかな。私のことはおみっちゃんって可愛く読んでね。エヘッ!」

 ここだけは譲れないエヘ幽霊。

「分かりました。おみっちゃん様。」

 忠実に従う妖怪たち。

「だから、おみっちゃんだって。おまえたち! 私の名前は可愛く呼べ! さもないと私の歌を聞かせるぞ!」

 キレるエヘ幽霊。

「それだけはご勘弁をおみっちゃん!」

 やればできる妖怪たち。

「それでよろしい。エヘッ!」

 ご満悦なエヘ幽霊。


「それでは作戦会議を始めます。」

 打倒、酒呑童子の作戦会議が始まる。

「まず、のっぺらぼうさんに私の顔をコピーしてもらいます。」

 おみっちゃんのカワイイ顔をコピーするのっぺらぼう。

「カワイイ!」

 のっぺらぼうはおみっちゃんの顔が気に入った。

「そして鬼たちの中に放り込みます。」

「え?」

 おみっちゃんの言葉に時が止まったのっぺらぼう。

「おみっちゃんだ! 捕まえろ!」

 鬼たちがのっぺらぼうを追いかける。

「ギャアアアアアアー! 助けて!」

 逃げるのっぺらぼう。

「これが本当の鬼ごっこよ。エヘッ!」

 血も涙もない囮作戦を行うおみっちゃん。

「恐ろしい! さすが魔王妖怪おみっちゃん!」

 妖怪たちはある意味でおみっちゃんに恐怖した。

「戦いに犠牲は付き物よ。エヘッ!」

 血も涙もないエヘ幽霊。

「さあ! 酒呑童子を倒しに行くわよ!」

「おお!」

 おみっちゃんたちは酒呑童子のいる大江山に向かう。


「ここは通さない!」

 大江山に着くと酒呑童子の幹部クラスが待ち構えていた。

「何者だ?」

 名前を聞いてあげる優しいおみっちゃん。

「私の名前は茨木童子。そしてこいつらは四天王の星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子だ。おみっちゃん。おまえを酒呑童子様の元へは行かせないぞ。」

 自己紹介は略式で。

「ここは私たちに任せて。おみっちゃんは酒呑童子の元へ。」

 妖怪たちはおみっちゃんを先に行かせようとする。

「ありがとう。みんな。死なないでね。勝ったら茶店でお茶とお団子を食べさせてあげるから。」

 おみっちゃんは先に進もうする。

「行かせるか!」

 おみっちゃんの行く手を遮ろうとする茨木童子。

「おまえの相手は私たちだ!」

 茨木童子の邪魔をする妖怪たち。

「みんな! 死なないでね!」

 おみっちゃんは先に進むことに成功した。

「先におまえたちを倒してやる!」

 茨木童子たちはターゲットを妖怪たちにした。

「どちらかを倒した方が大将の加勢に行けるってことだな。」

 妖怪たちと鬼の幹部の戦いが始まる。


「こんにちは。酒呑童子さん。エヘッ!」

 不気味に挨拶するエヘ幽霊。

「よくぞここまでたどり着いた。幽霊の分際で。ヒクッ。」

 酒呑童子が飲んだくれている。

「ストップ! 私は幽霊ですが、名前はおみっちゃんです。エヘッ!」

 自分の名前には厳しいこだわりがあるおみっちゃん。

「そうかい。なら、おみっちゃん。」

 優しい酒呑童子は名前を言い直してくれる。

「ありがとうございます。酒呑童子さんって実はいい人なんですね。エヘッ!」

 自分の名前を呼んでくれる人は良い人と思っているエヘ幽霊。

「やめろ! 照れるじゃないか! 私は良い人ではなく良い鬼だ。ワッハッハー!」

 酔っぱらって上機嫌な酒呑童子。

「だが、おみっちゃん。毒酒の神変奇特酒もない、名刀、童子切もない。そんな状態でどうやって日本三大妖怪で鬼の頭領の私と戦うというのだ?」

 酒呑童子はおみっちゃんに尋ねてみた。

「大丈夫です。私には夢があります。私はお江戸で歌姫になるという大切な夢があります。こんな所で負ける訳にはいきません。エヘッ!」

 夢の力を信じているエヘ幽霊。

「夢? そんなもんで飯が食えたら苦労はしない。ワッハッハー!」

 夢をバカにする酒呑童子。

「なら私の歌を聞いてください!」

 おみっちゃんは歌を歌うつもりである。

「いいぞ。酒にあう余興だ。歌え歌え。ヒクッ!」

 酒呑童子は完全に酔っていた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「なんだ!? 地割れか!? 火山の噴火か!? 雪崩でも発生したのか!?」

 酒呑童子はおみっちゃんの歌を聞いて酔いが覚めた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に気持ちよく歌い続けるおみっちゃん。

「参った! 歌を歌うのをやめてくれ! 気持ち悪くて吐きそうだ!」

 酒呑童子はおみっちゃんの夢の前に降参した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! 歌って素晴らしい! エヘッ!」

 酒呑童子を倒したおみっちゃん。

「酒呑童子さん。私の善行を返してください。」

 おみっちゃんは善行の返還を酒呑童子に請求する。

「ないよ。全部、お酒のツケを返すのに使っちゃった。ヒクッ。」

 おみっちゃんの善行は振出しに戻った。

「そんな~、ガクーン。」

 項垂れるおみっちゃん。

「それにしてもおみっちゃん。私に勝ったということは日本三大妖怪の残りの2匹からも命を狙われるぞ。それが日本大妖怪チャレンジだ。」

 おみっちゃんは知らない間に日本大妖怪チャレンジに挑戦してしまっていた。

「なんですと!? どういうことですか?」

 訳が分からないおみっちゃん。

「日本の三大妖怪を全て倒すと新たに日本の大妖怪になれるのだ。」

 訳の分からない挑戦が始まっていた。

「別になりたくありません。私は歌姫になりたいんです。エヘッ!」

 可愛く日本の大妖怪になるのを否定したエヘ幽霊。

「まあ、そういうな。残りの日本の大妖怪は九尾の玉藻の前と鬼神の大嶽丸だ。精々、夜道に気をつけろや。ワッハッハー!」

 酒呑童子はまた酒を飲んで上機嫌だった。

「くたびれ儲けの銭失いだわ。帰ったら女将さんに笑われる。ガックシ。」

 気落ちするおみっちゃん。


「ああ! 妖怪のみなさんが生きている! 良かったですね! エヘッ!」

 実は鬼に皆殺しにされていると思っていたエヘ幽霊。

「実は・・・・・・私たちもダメだと思った時に、元魔王妖怪マヨが現れて、小指一本で茨木童子たち鬼を倒してくれたんだ。おかげでなんとか全員無事さ。」

 恐るべし元魔王妖怪マヨ。

「善行を積むなんて、マヨマヨは良い人なんですね。今度はヨマヨマとかソーソーとかも登場してもらいましょう。」 

 魔王妖怪マヨはマヨマヨになった。


「ただいま! 女将さん!」

 おみっちゃんは茶店に帰ってきた。

「おかえり! おみっちゃん!」

 感動の再会を果たすおみっちゃんと女将さん。

「鬼の財宝は手に入ったかい?」

 おみっちゃんの心配より財宝優先の女将さん。

「私の心配はしてくれないんですか? ブーブー!」 

 ぐれるおみっちゃん。

「あんたには叶えたい夢があるんだから、戻って来るのは当たり前だろ。」

 女将さんはおみっちゃんを信じているのだ。

「はい! 女将さん大好きです! エヘッ!」

 見えない信頼で心と心が通じているおみっちゃんと女将さん。

「女将さん、お客様を連れてきました。お茶とお団子を食べさせてあげて下さい。」

 お友達になった妖怪たちである。

「分かったよ。でも、しっかりとお代は頂くんだよ。」

 守銭奴な女将さん。

「大丈夫です。おごるとは一言も言ってませんから。ちゃんとお金は払ってもらいます。エヘッ!」

 最初から奢る気は1ミリもないエヘ幽霊。

「え・・・・・・。」

 時が止まる妖怪たち。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 おみっちゃんの戦いは続く。

 つづく。

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