第26話 特別クエスト

 ちょっとした事故も起こりつつ昼食を食べ終えた俺たちは、冒険者協会から送られてきた『新宿ダンジョン中層領域探索クエストへの参加要請』について話し始めた。


 冒険者アプリを起動し、改めて冒険者協会から送られてきたメッセージを開く。記されている内容を要約すると以下の通りだ。



◎新宿ダンジョン中層領域探索クエストへの参加要請


クエスト内容:新宿ダンジョン中層領域の探索による異常の発見及び報告。異常が発見されなかった場合にも報告を行う事。また、可能であれば異常の発生原因を特定し報告されたし。


参加人数:10名程度を予定


報酬:参加で一人頭10万円。異常の発見、報告により各15万円の上乗せ。また、異常の発生原因の特定や原因解決で15万円以上の追加報酬を支払う。


日程:4月24日(土)~4月25日(日)を予定。4月24日AM9:00新宿駅地下東京メトロ新宿ダンジョン方面改札前集合。




「これが秋篠さんのお兄さんが言ってたやつよね? 協会に便宜をどうとかって」


「おそらくそうだろうな」


 それがこんなにも早く来たということは、エレベーターで話している時点でこのクエストを俺たちに受けさせる前提で話していたに違いない。


 確か新宿ダンジョンの中層にはDランクの立ち入り制限があった。この前の昇格試験は、それをクリアさせて俺たちを中層に送り込むためのものだったわけだ。


「参加だけで10万に、各15万の上乗せ。それだけで40万の報酬って凄いわね」

「そこにさらに15万か。他のクエストと比べると破格の報酬だな」


 もう既にいくつかDランクのクエストも受けているが、報酬の相場はここまで高くない。税金で2割は引かれることになるとはいえ、一つのクエストで最大50万越えは見たことのない数字だ。こんなクエストが掲示板にあったら争奪戦になりそうなものだが……。


「そのクエスト、掲示板には掲載されていないからたぶん特別クエストだと思うよ」

「特別クエスト?」


「簡単に言うと冒険者協会が冒険者やパーティを指定して依頼するクエストのことだよ。緊急を要する場合や、今回のようなダンジョンの調査を目的とする場合に多いの」


 秋篠さんによると、特別クエストに選ばれるのは協会から信用を置かれている冒険者の証だという。冒険者の中にはクエストの結果を誤魔化して報告する奴も居るようで、そういった事を防ぐ意味でも冒険者の指名が行われているようだ。


「今回は俺たちの他にも参加者が居るみたいだな」


 クエスト要項を確認すると参加人数は10名程度を予定と記されていた。新宿ダンジョンの中層がどれほどの広さかわからないが、参加人数としては少なく感じるな。


「あ……。冬華ちゃんからクエスト参加の確認来てる……。これ、もしかしたら二人の受けるクエストかもっ!」


「冬華ちゃん?」


「あっ、えっと。わたしが所属するパーティのリーダーだよ。その人からパーティのグループチャットに新宿ダンジョン中層の探索クエストに参加するかどうかを決めようって。たぶんクエストを受けることになると思うから……」


「秋篠さんと一緒のクエストになるってことか」

「そうっ! 楽しみだなぁ……えへへ」


 秋篠さんは「もちろんだいじょうぶだよ」と声に出しながら返事をスマホに入力していた。


 関所での一件以来、秋篠さんとはダンジョンに潜っていないから俺も楽しみだ。前回、秋篠さんが持っていた脇差はスペアって言っていたからな。彼女本来の武器での戦い方が見られるかもしれない。


「クエストを受けるのは確定として、ちょっと問題があるわね」

「装備をどうするかだよなぁ」


 関所での一件で協会から支払われた協力金。あれでとりあえず鍋やまな板という冗談みたいな装備からレザーアーマー一式へ装備を新調することはできた。だが、武器は安価な木剣だ。ヒノキの棒よりはマシだが、攻撃力と耐久性に不安しかない。


 新野の方も魔法使いという役割上、できればMPの回復効果がある装飾品を用意したいところだが……。


 やはりそういった装飾品は値が張るもので、相場はどれだけ安くても10万を超えてくる。週末のクエストの日までDランクの依頼を受け続ければ一つは購入できそうだが、そうなると他の所に手が回らなくなるんだよな……。


 俺の武器と新野の装飾品。それだけではなく、本格的にダンジョンへ潜ることが初めてな俺たちには足りないものが多すぎる。それらを揃えていこうとすると、とても週末には間に合いそうになかった。


「あ、土ノ日くんっ! そのことなんだけど……っ」

「ん?」


「じ、実はねっ! 今日、メンテナンスに預けてた武器を取りに行くことになっててっ! それでね、もしよかったら土ノ日くんも一緒にどうかなって!」


「俺も?」

「う、うんっ! 葛飾区にある国友さんの工房なんだけど……」


「国友って……」


 協会本部ビルのショップにあった八千万の刀の人か……! 後で調べたら世界的に有名な刀匠さんらしく、海外では数億円単位で取引されているというネット記事が出てきた。そんな人に武器のメンテナンスを頼んでいる秋篠さんやべぇな……。


「でも、俺が行っても邪魔になるだけじゃないか?」


「そ、そんなことないよっ! それに紹介したいのは国友さんのお弟子さんというか、わたしの友達で。もしかしたら、刀を安く譲ってくれるかもしれないの」


「本当かっ!?」


 それはかなりありがたい話だ。国友さんの刀とまではいかずとも、ちゃんとした刀なら木剣なんかよりずっと頼りになる。


「秋篠さん、ぜひお供させてくれ」

「う、うんっ!」

 


〈作者コメント〉

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