第22話 魔法比べといこうやないか

「新野さん、大丈夫かな……」


 秋篠さんは訓練場へ向かう新野の背中を見つめながら不安そうに呟く。


「相手の恋澄って冒険者は……間違いなく強いんだろうなぁ」


 愛良の実力を物差しにして考えると、恋澄の実力もかなりのものだと予想がつく。案の定、秋篠さんは俺に向かって何度もうんうんと頷いてみせた。


「恋澄さんはAランク冒険者の中でもちょっと特殊というか、魔法使いの中でも別格みたいな人だから……」


「別格?」


「う、うん。それは、えっと、どう説明したらいいんだろう……? とにかく凄い人なのっ!」


「そうか」


 とにかく凄い人らしいことはよくわかった。


 そのとにかく凄い人こと恋澄アンヌは長い金色の髪をかき上げながら笑みを零す。


「あんた魔法使えるんやってなぁ? うちも魔法にはそこそこ自信あるねん」


 色白の肌に整った西洋風の顔立ち。着崩した制服の開けた胸元からは谷間がチラリと覗く。


「奇遇ね、あたしも魔法にはそれなりに自信があるわよ?」


 対する新野も腕を組んで、そこそこ豊満な胸元を強調するように背を反らしてみせた。


 そこ別に張り合わなくてもいいんじゃないか?


「ほんなら魔法比べと行こうやないか。うちはアンナちゃんみたいに手加減はせえへんよ?」


「望むところだわ。あたしも全力で相手してあげる」


 魔法使い同士の戦いとあって、互いに武器を手に取ることはない。代わりに魔法に対する防御効果があるローブが二人に与えられた。効果のほどは知れているが、それでも無いよりはマシだろう。


「そんならさっそく始めよか。まずは小手調べからや――〈氷槍〉!」


 恋澄が放ったのは氷の槍。直径一メートルほどの半透明の槍が新野に向かって一直線に飛んでいく。あんなのまともに食らったら魔法耐性のローブなんて意味を為さないな。


「〈ファイヤランス〉!」


 新野は飛来する氷の槍を炎の槍で迎撃した。氷と炎は空中で激突し爆散。周囲に細かな氷の粒子が舞い落ちる。……さらりとやってのけたが、魔法を魔法で撃ち落とすなんてかなりの曲芸だぞ。さすが元魔王だな。


「なんや今の、めっちゃオモロイことするやんか」

「この程度で驚いていたら程度が知れるわよ?」


「はっ。言うやないかルーキー。ほんなら今度はこれ撃ち落してみぃ!」


 恋澄が大きく弧を描くように右手を振ると、その軌道に沿って幾本もの氷の槍が顕現した。その本数は合計8本。


「〈氷槍爆撃〉」


 それらは一斉に真上へと飛翔した。そのまま天井に突き刺さるかというギリギリで方向を転換すると、四方八方から一斉に新野へと襲いかかる。


 氷系統の魔法に風系統の魔法を掛け合わせているのか……!


 前世ではあまり見たことがない類の魔法だ。まるで誘導ミサイルを連想させる軌道で、8本の氷の槍は新野に殺到した。


「新野さんっ!」


 さすがに危険だと判断したのだろう。秋篠が飛び出して行きそうになるのを、腕を掴んで制止する。


「あいつなら大丈夫だ」

「でもっ……」


 俺たちの視線の先で、新野は一歩も動かなかった。それどころか〈ファイヤランス〉で迎撃しようともしない。ただ殺到する氷の槍を、棒立ちで待ち受ける。


「……ちっ、どうやら目もいいみたいやな」


 一歩も動かない新野を見て恋澄が舌打ちをした直後、8本の氷槍が着弾した。それらは全て新野の足元、ほんの30センチと離れていない床に突き刺さる。新野が立っていたところだけが安全圏。下手に避けようと少しでも体を動かしていたら、今頃彼女の体には大きな穴が開いていた。


「瞬きすらせえへんって、初めから軌道を予測しとったんか?」


「ええ、風魔法の他にも空間魔法を着弾地点の設定に使ったわよね? それを探知して軌道を逆算すれば目を瞑っていても避けられるわ」


「へぇ。なかなかおもろいことするやんか。空間魔法の探知か。魔法もなかなか奥深いもんやなぁ」


「次はあたしの番よ。あなたのおかげで新しい魔法を思いついたわ」


 新野はそう言うと、無造作に右手を左から右へ横に薙ぎ払った。その軌道に出現するのは合計10本の炎の槍。


「おい、まさかそれ」


「〈炎槍爆撃〉」


「パクんなやっ!」


 放たれた10本の〈ファイヤランス〉は滅茶苦茶な軌道を描きながら恋澄に向かって殺到する。恋澄は一切の迷いもなくその場から全力で駆け出した。


 氷の槍と炎の槍の大きな違いは着弾後、床に刺さるか周囲に炎をまき散らすか。着弾した炎の槍は周囲を火の海へと変えていた。先ほどの新野のようにその場に立ったままで居れば恋澄は炎の牢獄に囚われていただろう。


「なかなかエグイ攻撃しよって……! ……って」


 〈炎槍爆撃〉の着弾地点から逃れた恋澄に、火の海の中から3本の炎の槍が追いすがった。


「まだ来るんか……!?」


 不意を突かれた恋澄の回避は間に合わない。7本を囮と目くらましに使い、残る3本が本命。新野の狙いは見事に成功したかに思われた。


「ったく、やっぱ慣れんことするとあかんわ」


 恋澄が胸元から紙のようなものを取り出した直後、3本の炎の槍が彼女に着弾した。


 炎が渦巻き、黒煙が立ち込める。


 その黒煙の中に、ズクリと巨大な影が蠢いた。煙を切り裂くようにして現れたのは、赤い鎧に身を包んだ巨大な鎧武者。その右肩に腰掛けながら、恋澄は悠々と新野を見下ろす。


「あんた、手加減はしないんじゃなかったわけ……?」


「手加減なんてしてへんよ。ただ、同じ土俵で戦ってあげとっただけや。魔法の腕はうちの負け。誇ってええで、ルーキー。うち魔法使いとしてもCランクくらいの実力あるからなぁ」


「それじゃあそのバカでかい落ち武者は」


「落ち武者ちゃうわ! うちの式神〈鬼斬(おにぎり)〉や。美味しそうな名前やろ?」


「式神……ってことは」


「そ。うち陰陽術師やねん」



〈作者コメント〉

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