腐女子のBL作品読書感想文
黒川蓮
山岸涼子先生の『日出処の天子』 ドSな受けキャラの厩戸皇子にクラクラ
大学時代、腐女子のねーちゃんがいる男友達に「この聖徳太子、マジ、ヤバイから読んでみて」と貸してもらったのが『日出処の天子』。
読み終わってマジ、ヤバいと思った。
こんなに切ないBL漫画を読んだのは初めてだー!!(号泣)
以下、ネタバレ入りますm(__)m
時代は飛鳥。
14歳の蘇我毛人(そがのえみし)は天女のように美しい少女に一目惚れをするが、それは少女ではなく10歳の少年の厩戸皇子(聖徳太子)だった。
厩戸皇子は並外れた頭脳、教養、政治的手腕、気品、威厳があるだけでなく、霊能者のような不思議な力を持つ。
このため、実の母に恐れられ、母親の愛情に飢え、苦しんでいた。
毛人は皇子の孤独に気づき、尊敬と畏怖を持ちつつ、寄り添う。
彼は厩戸皇子の超能力を無自覚の中で引き出せる存在だった。
そのような中で厩戸皇子は毛人に恋をするようになり、毛人も王子に惹かれていく。
ところが、毛人は布都姫(ふつひめ)に出会い恋をする。
読みながら「バカヤロー、毛人! そんな女のどこがいい! そこは厩戸皇子一択だろ!」と私が思ったのは言うまでもない。
あまりの怒りに漫画を殴り捨てたくなったが、友達から借りた漫画なので踏みとどまった。
厩戸皇子は嫉妬に悩まされ、布都姫を殺そうとするが、毛人に気付かれる。
厩戸皇子は二人が結べばこの世を意のままにできるから共に生きようと毛人に言う。
それに対し毛人は私たちが共に男として生まれてきたのは一緒になってはいけない運命だからだと断る。
愛している男からの完全なる拒絶の言葉。
全力で切ないっ!!!!!
毛人は皇子を抱きしめてキスをするくらい思わせぶりな態度だったのに……
皇子は孤独の中で政治的な実権を握り、遣隋使の派遣を考えるところで話は終わる。
政略結婚が当たり前の時代。
美しく完璧で何でもできる厩戸皇子が、愛情を欲している母親と男の心だけは最後まで手に入れることができなかった。
だけど、夢の中で毛人と皇子が結ばれるシーンにはキュン死。
美しい男である厩戸皇子と実の妹の刀自古(とじこ)に本気で愛される毛人。
でも愛されている毛人本人は大王の婚約者が好き。
同性愛の男と近親相姦の女、主要登場人物全員ほぼ拗れまくりの恋愛模様。
そして毛人の子を身ごもった刀自古を嫁にする厩戸皇子。
どうなってんのよ、この展開! と読みながらツッコミたい気持ちが抑えられないっ!!!
布都姫を助ける協力を厩戸皇子にお願いする毛人には「いっぺんおまえ、死んでこい!」と思いました。
自分に惚れている男に、自分の好きな女を助けろと言う毛人。
キャラ的には皇子がドSだけど、やってることは毛人が一番ドSだと思った。
直球のエロではないが、厩戸皇子の嫉妬に狂ってる感じが、まるで昼ドラを見てるみたいなドロドロの情念を沸騰させる漫画でした。
最初、絵が怖いなぁと思ったのですが(ごめんなさい)、読み進めていくうちに、その怖さが厩戸皇子の威厳であったり、畏怖の念を掻き立てている感じがし、沼にハマりました。
妖艶かと思えば、尊大、ドSなのに受けキャラ。
嫉妬に燃える女は醜いと思っていたけれど、嫉妬に狂っている厩戸皇子は子宮を抉られるくらい恐ろしくも美しい。
その続編の馬屋古女王(うまやこのひめみこ)では、厩戸皇子の娘である馬屋古と、毛人の息子である山背(やましろ)のエッチシーンがあるのだが、彼女は容姿は厩戸皇子に似て妖艶で美しいけれど、厩戸皇子ほどの個性はない。
でも、本当は毛人と厩戸皇子がこうだったらよかったのになぁと脳内補完するのであった。
最後に厩戸皇子は母親に似た雰囲気を持つ痴呆症の娘を妻にし子供を産ませるが、それほどまでに母親の愛に飢えていたのだと感じた。
そして厩戸皇子を母親が恐れたのは自分にもその不思議な力があったから。
破滅に向かっていく一族。
「全て無駄なことだが、私は生きていく」と言った厩戸皇子。
どんなに素晴らしい才能がある人でも、思うようにいかない恋がある。
そんな現実世界の理を幻想の世界で教えてくれる凄い作品でした。
厩戸皇子がゲイとして描かれているため、聖徳太子への冒涜だと新聞にも載るくらい騒がれた作品ですが、それくらい凄い漫画だと思います。
美しく妖艶なのに気高く畏怖の念を掻き立てる、そんな属性盛り過ぎな皇子の姿にクラクラしました。
山岸先生、こんなにも魅力的で破滅的な厩戸皇子を描いてくださってありがとうございますm(__)m
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