フロスト・エイジ
アカサ・クジィーラ
氷の下の愛
温度氷点下、常に吹雪が吹き、ごく稀にしか太陽は見えぬ世界。
”フロストワールド”
そこでは、各部族単位で生活圏を営む人間らがいた。彼らは農作ができないので、様々な動物の肉を喰らうことでしか生きていけない。だから、肉は重宝される。各部族間の交易により肉を得る、もしくはハンティング。この2パターンでしか肉は得られぬ。
ここに、ハンティング技術の持たぬ部族がいた。彼らは交易のみしか使えない。だから、すぐに食糧不足に陥るのである。そこに住むエイジ(16才)は母と父を早くに亡くした独りぼっちの少年である。凍てつく吹雪が吹き続ける中、彼はハンティング技術を持たぬ故、交易をするために家を出て、隣の家族に懇願する。隣の奥さんが優しかった故、彼は動物たちの肉を少々もらった。そして、帰る。家で、ただじっと肉を眺め、命の恵みを感じる作業に入る。
その生活が数週間続いた後、ようやく吹雪がやみ、太陽が見える。この時は、とても大事な時間。組み換え式の家を解体し、コンパクトにして、遠くへ出かける。この部族の族長ココサに引き続き、彼らは歩く。ただ真っ白な銀世界を。
歩くこと、数時間。雲行きが怪しくなったので、何も成果を得られぬまま、ここに居住することにした。コンパクトにした組み換え式の家を広げる。食料の在庫は盛ってあと数週間。数週間以内に吹雪がやみ、他の部族と会わねば、彼らは息絶えてしまう。この世界は、そんな過酷で残酷な世界である。
数週間後、エイジは食料を失い、やせ細っていく。ただ止むのを待つだけで、やせ細っていく。家の隅にいるだけで、やせ細っていく。奇跡でも起きない限り、彼は助からないだろう。
しかし、そんな時、窓から明るい光が差してきた。彼は吹雪が止んだと思ったのだろう。ガリガリにやせ細った体を精一杯奮い起こして、ドアを開ける。事実、太陽ではなかった。加えて、吹雪はまだ吹き続いていた。でも、彼は助かる。彼が見た光は、ロココ族の持つ光だという。噂で聞いたことある。この世界で数千年も残り続ける部族がいると。それがロココ族だという。彼は重装備で、光を持ち、武器を持つ。そして、商売知恵も素晴らしい部族。彼は、この部族に助けられた。我々の部族、族長ココサを始め、彼以外は助けられなかった。死因は餓死もしくは、凍死。でも、彼は泣かなかった。そんなことを考えられるほど余裕ではなかったからだ。体も凍りつき、そしてその奥底にある”愛”までも凍りついてしまったのだから。
ロココ族の者共、そんな彼を見て、のちにこう答える。”冷血の少年”と。
■
あれから、2年。彼は18才となり、ロココ族の狩人として彼はしこまれた。彼のような冷血さは狩りをする上で、随分必要な成分である。理由としては、命を頂く仕事だから。動物たちの心を無視しなければいけないから。そして、彼はロココ族で最も最強の狩人になったのである。彼が吹雪の中に出かければ、血まみれになり、10日分の食料を得ることができる。わずか2時間で。彼はもう冷血の少年とは呼ばない。”冷血の戦士”と呼ばれるようになる。
彼が冷血の戦士と呼ばれて以来、彼の元へ多くの女性が向かった。ロココ族では、強い男と金を持つ男が人気のようだ。だから、多くの肉を狩り、多く交易する彼にとって当然のことである。しかし、彼は冷血だ。愛なんて、とっくに冷めているし、まして女なんて興味はない。かつての暮らしによれば、むしろ独りの方が好きなはずだ。
しかし、そんな彼でも昔、どこかであった少女のことを今でも想ってる。彼女の名前は思い出せない。ましてどこで会ったのかも覚えてない。ただ覚えていることは、黒くて髪が長かったことだけ。あの彼女のことだけが凍りついた愛の下に残っている。もう一度彼女に会いたい、そう思っている。
■
ある日の吹雪の夜、本日は今まで一際激しい吹雪だった。そんなときに、いつもの日課として彼は出かける。食料は十分足りているはずなのに、彼は出かける。寝ている途中に何かの声が聞こえた気がしたのだ。ただその様子を見に行っただけである。武器は持たず、防寒着だけを着て、雪と氷の上を歩く。
出かけて、数分が経った。彼は、夢を見ていた。真っ暗闇の白い地面の上にあの子がいたのだ。彼の心は洗われていく、そんな気がしたのだろう。彼女の元へ足を動かした。しかし、いくら走っても彼女の元へたどり着けない。不思議に思った彼は、こう尋ねる。「待ってくれ、今すぐに行くから!」
そんなとき、彼の周りだけ吹雪が止んだ。彼女がじっと見ている。彼は駆け出した。緑の大地を駆け出したのだ。
■
吹雪が止み、夜明け。吹雪が止んだのは、3ヶ月ぶりのことであった。ロココ族の女性陣が何やら騒がしい。そう思った族長は、その音の方へ向かった。何やら、泣きじゃくる者でいっぱいであった。その集団の中心、そこにあったものは、氷づけにされた人間。冷血であった男が最後に笑顔のままで氷づけになってしまったのだ。まるで太陽のように、ただ明るく笑顔のままで...
フロスト・エイジ アカサ・クジィーラ @Kujirra
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