第8話 領主と知識と交渉


 科学国家シャルベキストには土地を統べるものはおらず、皆が自由に暮らしている。

 土地を統べるものはいないが皆をまとめる役はいるらしい。

 恐らく、そのまとめ役が異世界人だろう。

 

 宿の店主に話を伺うと、その方が住んでいるのは街はずれにあるらしいが家はでかいので分かりやすいとのことだった。

 その方はまとめ役なだけだからと訪ねにきた人は誰でも迎え入れてくださるようだ。

 今日はその方を訪ねてみようと思う。



「大きな屋敷ですね~」


 街はずれ、自然が少し増えた場所に、ドンッと一軒屋敷が建っていた。

 屋敷の装飾はほとんどなく、見栄えより収納力や部屋の数、広さを優先したような屋敷だった。


 屋敷の扉は少し大きく、わしも屈まなくて良さそうな大きさだ。

 扉にノッカーはなく、しかし扉の横に何やら箱状の物体がある。

 下に丸い凹みがあるからこれを押すんじゃろうか。


ピ~ンポ~~~~~~ン!


「「!!!」」


 びっくりした。

 これがノッカーの代わりのやつか。

 音が大きくわかりやすいが、初めてで驚いてしまった。


 突然の異常に対してわしは慣れているからよかったが、少女のほうは……、


「し、心臓が、と、止まるかと思いました」


 呼吸が荒くなっておる。



『どちら様でしょうか?』


 若い女性の声だ。召使いの者かの。


「昨日この国に訪れたものじゃ。この国のものがすごく発展しておったので、興味本位じゃが領主と話させてもらうことはできんかのぉ?」


『少々お待ちください。主に伺ってみます』


「お願いしますじゃ」


 主と言っておったので、召使いで間違いないじゃろうな(正直どうでもいい)



『お待たせしました。主がお会いになられるそうです。 すぐそちらに案内人を呼ばせます』


 すぐに扉が開き、中から召使いが現れた。美女だった。茶色の髪を肩の高さだ切りそろえている。


「旅のお方、初めまして。この国のまとめ役、ハヤト・シシバ様のメイドをしております、イリシュと申します。主は応接室におりますので案内させていただきます」


「よろしく頼む」


「かしこまりました」



「玄関では靴をお脱ぎになられて、この『スリッパ』に履き替えてください」


 ほう、玄関で靴を脱ぐのか。王も自室では脱いでおられたの。


 廊下が広い。少し進んだところに両開きの扉がある。


「こちらにおられます。武器はお持ちになられても大丈夫です。剣を抜こうとしても止めますので。それと、主は固い言葉はお嫌いですので、言葉は崩されて構いません」


 王と同じだな。王も堅苦しいことは嫌いじゃった。


コンコンッ


 『メイド』が扉をノックする。


「お客様をお連れしました」


「入っていいよ」


 柔らかい男性の声。声の感じからまだ若いのだろう。


「失礼します」


「失礼する」


「し、失礼します」



「ようこそ」


 部屋の真ん中にソファが二つ、机を挟んで並んでいる。

 それに座り、こちらに笑顔を向けているのが、ハヤト・シシバだろう。


「座っていいよ」


「失礼する」


 そう言ってわしは反対側に座る。隣に少女を座らせる。


「それじゃあ、僕から名乗らなきゃね。僕はハヤト・シシバ。この国のまとめ役を任されている」


「わしはエドワード。ただの旅人じゃ」


 念のため、本名は言わないようにする。少女も気づいてくれたらいいんじゃが。


「わ、わたしはサンティーラです。エドワードさんの旅に同行させてもらってます」


 よかった、よかった。ちゃんと本名は言わなかったな。

 じゃが、こやつが異世界人じゃとすると……


 やはり!

 こやつを『鑑定眼』で見させてもらったら、スキルに『鑑定』が入っていた!

 そしておそらく、ちょうど使っているのだろう。見られている感じがする。


 わしの持っとる『鑑定眼』と、異世界人の大半が持っている『鑑定』は同じ系統の別ものじゃ。

 

 『鑑定眼』は一度に見れる対象が一人だけだが、『鑑定』は視界にいるもの全て見ることができる。

 じゃが、見れる対象が多いせいで、脳の容量が限界に達してしまうことがある。

 それを効率良くするため、異世界人は『鑑定』と一緒に『並列思考』というスキルも持っている。

 羨ましい限りじゃ。


 じゃから、既に本名はバレているじゃろう。じゃから……


「早速本題に行かせてもらう。あなたは異世界人であられるか?」


「 ⁈⁈ 」


「わしは昔、異世界人に仕えていたものだ。わしの鑑定を見ればわかる通り、ある国の騎士長をやっておった」


「……ああ、僕は異世界人だ。そんな僕に用事とは、なんだい?」


「先日、この国の『カフェ』という所で食事をさせてもらってな。『スパゲッティ』はわかるのじゃが、『パフェ』、『パンケーキ』、『タピオカ』は王に教えてもらっておらんでな、あれも異世界の料理なのじゃろうか? それとその作り方を良かったら教えてくれんかの?」


「それらは異世界の料理、というか菓子になるよ。『パンケーキ』は昔からあるような……。それに『スパゲッティ』を知ってるみたいだけど……? でも『スパゲッティ』は昔は一般人は食べれなかったって聞いたことがあるような……? 時代が違うのか?」


 最後らへんは独り言のようだ。


「王は1923年にこっちに連れてこられたと言っておったの」


「1923年? 関東大震災? どうだろ。……こんな馬鹿な頭じゃ考えても意味ないや」


 わしは異世界の歴史はあまり教えてもらっておらぬからの。


「作り方かぁ。教えてもいいけどなー。対価が無いのはなぁ?」


 チラッチラッとこちらに視線で訴えてくる。

 予想通りじゃ。フフフ。


「おぬしが作れる異世界の料理はこれくらいかの?」


「まあ、ほかはすべて麺類なんだよなぁ。どうしても『米』が……」


 思った通りじゃ。


「おっと、なんじゃ、この穀物は? 籾を取れば食べれそうじゃのぅ」


 『異空間収納袋』から『米』と、元となる『稲』を1肥取り出す。 

 

ニヤニヤ、ニヤニヤ


「…………な⁈ な、な、なんで持ってるんですか⁈⁈」


フォッフォッフォッ


「この稲を育てれれば、米が食べれるだろう」


「交渉成立です。こちらがレシピ一覧になります」


「フォッフォッフォッフォッフォッフォッ」


 こうして、わしはお菓子のレシピを手に入れた。


 これで菓子に困ることはないぞ。


 






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