鳴らない時計台

神代雪津

鳴らない時計台

突然雨が降った。

傘など持っていなかった僕は、町にある大きな時計台へ駆け込んだ。

一度も鳴ったことがないというこの時計台は、町のシンボルになっていた。


時計台を眺めていると、雨がぴたりと止む。

一瞬、町は静寂に包まれる。

その時だった...。

低い鐘の音が町に響き渡る。

鳴らない時計台が鳴った。


そして思い出す。

時計台の下で彼女のことを...。



あの日も時計台が鳴っていた。

彼女は時計台の音に聞き入っていた。

僕はそんな彼女を体調が悪いと勘違いをして、心配で声をかけたのだ。

そんな僕に笑顔で答えてくれた。

それからよく話すようになった。

時計台の下で、たわいもない話をした。

幸な日々だった。

そして、あの日。

僕はいつも通り彼女に会いに行くと、彼女は深刻そうな表情をしていた。

僕が話しかけると笑顔に戻ったが、どこか違和感があった。

僕がそれを訪ねると、彼女は「告白しなければならないことがある」といった。

僕は彼女の方を真剣に見つめ返した。

彼女は、「私は―――――――。」といった。

僕はその言葉を聞いて唖然とした。

それから彼女と会わなくなったのだ。

それから時計台は鳴らなくなったのだ。



僕はなぜ忘れていたのだろう。

彼女は何と言ったのだろう。

時計台はなぜ鳴らなくなったのだろう。


そして、

時計台が鳴っていたことをなぜ誰も覚えていないのだろう。


僕はひとつの決意を胸に町へと歩き出した。

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鳴らない時計台 神代雪津 @setu_kamisiro

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