屍殺しの電動刃
木根間鉄男
第1話―リビングデッド―
「お兄ちゃん! 離れたくないよ! ねぇ、どうにかならないの!?」
「我が儘言わないの。お兄ちゃんは元気になるために今から眠るのだから」
「次に目を覚ますのはいつなの!? もしかしたら一生お兄ちゃんに会えないかもしれないじゃない!」
「大丈夫よ。きっとすぐになんとかなるわ。お兄ちゃんを元気にする薬がすぐにできるから」
「そんなわけないよ! 病気が広がっていったいどれだけたったと思ってるの!? ねぇお兄ちゃん! お願いだから行かないでよ! お兄ちゃん!」
脳裏に響く幼さの残る少女の高音の叫びが、彼、
「……こ……ゴ……は……?」
声がうまく出ず、擦れてしまっている。颯太は咳払いをしたり、あー、と声を出したりして自分の声を確かめる。
何度かそれを繰り返すと、聞き慣れた自分の声が戻ってきた。それを確認して辺りを見渡す。
「なんだ、ここは……?」
目に入るのは亀裂を帯びた壁や床、その亀裂から伸びた部屋を侵食せんとばかりに覆いつくす草木。そして、ボロボロになった人が入れるくらいの大きさのカプセルたち。
「何かの実験施設か……?」
自分もこの部屋のカプセルでさっきまで眠っていたのだろう。自分だけカプセルが開いており、外へ出ることができた。
しかしなぜこんなカプセルに寝かされていたのか、記憶がぽっかり欠落している。
彼はまず自分のことを覚えているか、確認する。
「俺は、秦野颯太だ……年齢は17。私立A校に通ってる。趣味はゲーセン通い、好きな食べ物はハンバーガー……」
彼は頷く。自分の言葉がまるでパズルのピースが埋まっていくみたいにしっくりきたからだ。
「家族は……なんでここにいる……俺に、何があった……?」
思い出そうとして彼の脳に酷い痛みが走った。
細やかな電流がパチパチと走るような鋭い痛みだ。
彼はそれに耐えきれず頭を押さえ、思い出すのをやめる。
「さっきの夢は……」
自分をお兄ちゃんと呼んでいたあの声。聞き覚えがあるが、一体それが何だったのか思い出せない。
自分の記憶なのか、それとも夢が見せた幻か。
家族のことを思い出せない今、それを確かめる術はない。
「カプセルを調べれば何かわかるかもしれない……」
颯太はカプセルの一つに近づき、それを調べる。
カプセルは人一人横になるにはちょうどいい大きさだ。それに顔があるであろう部分が透明なガラスになっており中の様子が見えるようになっている。
「これは……凍っているのか? カプセルは、開かないな……」
ガラス面は分厚い氷に覆われ、中の様子を見ることができない。
カプセルを開けようにも取っ手のようなものが見つからない。ボタン操作かと探したがそれも見当たらない。
遠隔操作で開くのかもしれない、と諦めて他のカプセルを覗き込んだ。
その中にあったのは黒い塊。
「なんだ? まるで焼け焦げたみたい……まさか」
その正体を予想した瞬間、彼は強烈な吐き気に襲われ、思わず地面にうずくまる。
嗚咽を漏らすが、胃の中に収まっているものは何もなく、ただねっとりとした唾液が喉奥から吐き出されるだけ。
彼が予想したもの、それは人間の焼死体だ。
このカプセルの中で何かに熱されて死んでしまったのだろう。
「あの氷漬けのカプセルにも人がいる……? いや、考えるのはやめよう」
他のカプセルもどうせ死体が入っているのだろう、とふみ彼はその部屋を後にした。
死体入りのカプセルを探すより、研究資料やカルテなどを探したほうが精神衛生上よっぽど良いと感じたからだ。
扉を開けて部屋の外に踏み出した瞬間、颯太はどうしようもない寒気を覚えた。
ギュッと体を抱きしめ、気が付いた。
自分が手術の時に着るような布切れ一枚しか纏っていないことに。
それに割れた窓から覗く空模様は曇天で、温かな日差しなんて見えない。
「資料の前に服を探さないと……」
彼は廊下を歩く。一歩歩くことに、ピシっ、とか、ガチャっ、とか床が異様な音を立てている。
もしや底が抜けやしないか、と慎重に歩いた。
「ほんと、ここはいったい何なんだ?」
少し歩いてみて気が付いた。この施設はカタカナのコのような作りになっている。
そして凹んでいる部分が中庭になっているようだ。
しかし中庭の様子は育ちすぎた木々が邪魔をし、窓からは見ることができない。
いったいここはどういう施設なのか、一つ一つの部屋を探るが資料の一つだってありはしない。
「おっ、ロッカールーム。ここなら服があるはずだ」
職員用だろうか、ロッカールームがあった。
手近なロッカーを開けると、そこにはロンTとジャージが上下セットで収まっていた。
それに未開封の下着もある。
「ラッキー。誰かわからないけど、もらっていくからな」
彼はさっそく着替えてみる。サイズはぴったり。
体を支配していた寒さも十分ましになった。かびた臭いもするが、贅沢は言っていられない。
「ポケットに何か入ってるな……カギ、か?」
ポケットに収められていたのは小さなカギだった。
いったいどこのカギなのだろうか。今は使い道がなく、彼はまたポケットにそれを突っ込んだ。
「他には何かないか?」
ロッカーの中を探ると、一冊の本が見つかった。
「小説か。聞いたことない作家だな……」
彼はぺらぺらとページをめくる。そのたびページに付着していた埃やカビが舞い散り、咳き込んでしまう。
ページをめくっていた彼はそこで気になる記述を見つけた。
「発行は……2078年9月12日……バビロン文庫……今は2020年のはずだろう……? 眠っている間に、60年近く時が過ぎてたって? まさか……」
彼の表情はみるみる青ざめ、ふらり、と姿勢が揺らめいた。
立っているのもやっとなほどの眩暈に襲われ、彼は地面に崩れるように座り込んでしまう。
「おいおい、これって……悪い夢か?」
古典的なやり方だが頬をつねってみる。痛みが走る。
「ははっ……現実、かよ……」
颯太は本を力なく放り捨て、ばたり、床に寝転がった。
「目覚めたら60年後? 60年前の俺は何してたんだよ、ほんと……」
現状を飲み込めない、しかし飲み込まなければならない。
彼の内側では異なる二つの考えが衝突しあい、そのたびに途方もない疲労が身体を包み込んだ。
もしこのまま眠ってしまえば、どうなるだろうか。
夢の中の夢でした、で終わるはずはない。多分ひび割れた天井が自分を迎えてくれるだろう。
「こんなところで死ぬのか、俺……いや、死んだほうがましか?」
彼は呟いて瞳を閉じた。そのまま永遠の眠りに付ければ、そんな考えが鎌首をもたげる。
だが彼はとっさに起き上がった。
「何もわからず死ぬなんて、嫌だ……」
せめて何が起こったのかを知るまでは死ねない。
彼はいまだに揺らぐ視界を、パチン、と頬を叩き矯正する。
そうして歩き始める、抜け落ちた時間を探すために。
それから数十分と捜索するが、何も見つからない。
まるで何者かがここのすべてを破棄したと思えるくらいに。
「げほっ! くそ……埃っぽいしカビ臭い……こんなところにいると体壊しちまう」
颯太は大きく咳き込んだ。いったん外の空気を吸わねば、と中庭へ出た。
「ふぅ……外の空気は気持ちがいいな」
伸び放題になった草木からマイナスイオンでも出ているのか、外の空気を吸うと彼の気分は一気にすっきりとする。
室内にいるより呼吸もしやすく、大きく息を吸い込んだ。
空気がこんなにおいしく感じるとは、彼は小さな感動を覚える。
「少し休憩するか……ン?」
颯太はぐっと伸びをして気が付いた。自分の頭上に、何か巨大なものがあるということに。
彼はその正体を探るべく見上げる。
「なんだこれ! ガンダムみたいだ!」
頭上にあったのは白と赤で塗装された巨大人型兵器だった。
ひざを折った形で放置されているが全長はざっと10メートルは超えるだろう。
「木が邪魔で窓から見えなかったのか」
その機体は周りの木々で身を隠すかのように鎮座している。
まるで誰かから隠しているみたいに。
「かっこいいなぁ……ほんとガンダムみたい。こんなのが作れるなんて……腕にチェインソーが装備されてる! これで敵を倒すのか……いや、待てよ……敵って、なんだ?」
機体の両腕に装備された鈍色の輝きを放つチェインソー。
それを操り戦う相手とはいったい何なのだろうか。
「アニメみたいにロボット同士で戦うのか? すげぇ未来っぽい!」
颯太は何を隠そうロボットが大好きだった。
ゲームセンターでもほとんどをロボットゲームに費やしたくらいだ。もちろんロボットアニメは欠かさずにチェックしていた。
故にこんな機体を見せられてしまうと、未来に目覚めたのも悪いことじゃないな、なんて思い始めてしまう。
「いやいや、待て……落ち着け、俺……」
ふぅ、と息を吐き自分の心を静める。
「ロボットもいいが、俺のことが大事だろう?」
言い聞かせるようにそう呟いた。しかし颯太の中の悪魔が囁く。
ロボットのほうが大事だろう、と。
「ロボットの操縦席に何かあるかも。そう、これは捜索だ。決して操縦してみたいとかじゃないからな」
誰に言うわけでもなく言い訳して彼はロボットに近付いた。
「アニメとかの鉄則なら、コックピットは胸元だよな」
この機体も赤く塗装された胸元が四角くでっぱっている。
多分そこがコックピットだ。颯太は推理したが、そこに辿り着く手段がない。
「どうやってあそこに行けばいい? こいつをよじ登るか? いや、腕のチェインソーが邪魔だな」
コックピットは地上から5メートルくらいのところにある。
出る時は気をつけて飛び降りればケガはしないだろう。
しかしどうやって入るのだろうか。
「ターンエーみたいにコックピットが下りてきたり? う~む……わからん」
彼は諦めてその場を泣く泣く去ることに。
「こいつの操縦方法も余裕があれば探してみるか」
また建物内に戻り5分ほど捜索した時だった。
彼の目が壁によりかかるように座っている人間を見つけた。
遠くからではわかりづらいが、体格からして男だろう。
「人だ! すいません! 起きてもらっていいですか?」
颯太は男に向かって大声で言った。しかし男は彼の言葉など聞こえていない風に反応しない。
何かおかしい、颯太は男に近付く。
近付くと男の姿がはっきりとわかる。
男は軍服を着ていた。
「まるでコスプレみたいだ……いや、あんなロボットがあるくらいだ。ジオン軍みたいな連中がいるんだろうな」
颯太は男の肩を揺さぶり起こそうとした。
「あの、すいませんが……うわぁ!」
しかし彼が肩を揺さぶると男の身体は力無くぐらり、と地面に崩れ落ち、ウジに塗れた顔で颯太のことを見たのだ。
「死んでる!? うっ……!」
颯太はまた吐き気を催し、うずくまってえづいてしまう。
「なんなんだよ……くそぉ……」
颯太は男のウジだらけの顔を見ないように、彼の身体を観察していく。
「軍服、どこかの国の軍だろうか? まさかあのロボットのパイロットか? なんで死んだ……拳銃を持ってる……」
颯太は思い出した。さっき男の顔を見た時、こめかみに穴が開いていたことを。
またこみあげてくる吐き気を抑えながら、彼は苦しげに呟いた。
「自殺、か……」
いったい彼がなぜ自殺したのか、疑問は残るが今は後回しだ。
「ライフルも持ってるのか……日本は銃社会じゃないのに……やっぱり、戦争が起こってるのか?」
こんな武器を持っているくらいだ。戦争が起こっていたっておかしくない。
もしかすると彼はこんな僻地で敵に殺されるくらいなら、と死を選んだのかもしれない。
「何かあったときのためだ……これ、借りていくぜ」
颯太はライフルを手に取った。ずっしりとした重みだ。
ゲームセンターでシューティングゲームの時に使っていた銃型のコントローラーとはまるで違う重み。
命を奪う重さだ。
「使い方は……たぶんわかる」
シューティングゲームのおかげで銃も好きになり、ネットで使い方を調べたことがある。
その時の記憶は確かに残っていた。
「よし、行くか……」
彼はここで死んだ男に手を合わせ、また探索へと足を踏み出す。
その時だった。がじゃり、床が軋む音が聞こえた。
自分の足が鳴らした音ではない。誰かがいる。
音が聞こえたのはこの廊下を曲がった先からだ。
がじゃり、がじゃがじゃ……音が次第に近づいてくる。
「誰だ!」
颯太はとっさに銃を構え叫んだ。しかし反応がない。
代わりに返ってくるのは床を踏みつける音だけ。
銃を構えた手が震えている。今この先にいるものが誰なのか、という恐怖もあるが、もしそれが敵だった場合自分は撃てるのか、という不安がある。
何も知らずに死ぬのは嫌だ、彼はその一心だけを思い、何者かが角から姿を現すのを待った。
「はぁはぁ……」
呼吸が荒ぶる。つつぅ、と額に汗が浮かんできている。
彼は焦る自分を抑えながら待った。
そしてついにその時がやってきた。のっそりと角から黒い影が、姿を現したのだ。
それは人の形をしていたが、人ではなかった。
赤黒い筋肉を露出させ、ところどころが腐敗したように紫とも黒とも取れない異様な色に染まり、けたけたとまるで操り人形みたくぎこちなく動くその姿。
「……ゾンビ?」
そう、それはゲームで何度も見た、ゾンビの姿そのものだった。
ゾンビは首をゆっくりと颯太の方へ向け、大きく裂けた口からだらだらと唾液を垂らした。
粘性の強い液体がドロリ、と地面に落ちた瞬間、それは駆けだしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!」
だが動いたのはゾンビだけではなかった。
颯太も叫びながら、引き金を引く。
ババババババッ!!!
ライフルの先端が強烈な閃光を放ちながら、銃弾を吐き出していく。
銃撃の反動で思わず背後に吹き飛ばされてしまう颯太。
しかしゾンビも、乱雑に撃ち込まれた弾丸に頭を貫かれ、後方へ吹き飛んだ。
「や、やった……?」
反動でビリビリと痺れる手が、思わずライフルを落としてしまう。
がたたっ、と音を立ててライフルが地面に転がった。
しかし銃を撃った衝撃で放心してしまった颯太はそれを拾うことができなかった。
そう、それが彼の命取りとなった。
「ごぎゃぎゃ……ぐぎゃぁぁ!」
吹き飛んだはずのゾンビが叫び、映画のエクソシストみたいにブリッジ姿勢のまま颯太に襲い掛かる。
その速さはクモやゴキブリと同じだ。ずざざざざざぁ! と颯太に近づき、飛び上がったのだ。
「や、やべぇ!」
颯太は全神経を集中させ回避に徹する。
足に力を込めて思い切り地面を蹴り上げ、転がるように前方へ飛んだ。
そして颯太は気が付いた。回避する瞬間見えたゾンビの背に、もう一つの頭が付いていたことに。
「頭が二つ!? 一つ潰した程度じゃ死なないのか!?」
ゾンビの鉄則、頭を潰したら死ぬ。その法則に従うなら、このゾンビも頭を二つ潰さなければいけないことになる。
颯太を仕留め損ねたゾンビは、姿勢を保ったままぐるりとターンし、もう一度飛び上がった。
「二つも残機あるなんて、聞いてねぇぞ!」
颯太は地面に転がっていたライフルを手に取り、思い切りぶっ放した。
銃弾の嵐がゾンビを貫く。もう一つの顔面も撃ち抜かれ、ゾンビは空中で勢いを失い、べちゃり、と地面に叩きつけられるように倒れた。
そしてもう二度と動くことはない、本当の屍に戻ったようだ。
「ふぅ……なんだよ、これ……まさか未来はゾンビウイルスに支配されていたのか?」
ウイルス、その単語を聞いた瞬間に彼の頭にビリリとした痛みが走った。
「ウイルス……そうだ……ウイルスが流行って……ウイルスが……感染して……誰に? 俺に?」
だんだんと思い出されようとする記憶。
しかしそれを遮るみたく、ずずん、と地鳴りのような音が響いた。
「な、なんだ……?」
それは中庭とは反対側の窓の外から聞こえてきた。
驚いた颯太はとっさにそちらの方を見やる。
「こいつは……」
そこにいたのは10メートルほどの巨大なバケモノだった。
膨れ上がった体に、無数に付いた瞳がぎろりと一斉に颯太を見つめている。
人型で四肢はある、しかし四肢とは別に体のあちこちから生える小さな腕がこちらを捕らえんと伸びていた。
まさに異形、バケモノだ。
「こんなのって、無いだろ……」
バケモノが動く。そのたびにずしん、ずしん、と大きく地面が鳴った。
その衝撃が建物にも伝わり、天井からぱらぱらと砂煙が落ちてくる。
ここにいてはまずい、こいつを倒さなくては。でも、どうやって?
「あんなのにライフルなんて効かないだろうし……逃げてもあの巨体じゃ一瞬でぺちゃんこだ……どうすれば……」
こんなところで死ねない、彼は思考をフル動員し突破口を探る。
「そうだ、あのロボットなら……いや、あれはコックピットに入れない……くそ!」
何も突破口はないのか。彼は忌々し気にバケモノを睨みつけた。
バケモノの瞳があざ笑うかのように彼を見つめた。
そんな時だった。それはほんの一瞬の出来事。
バケモノの身体が、爆散したのだ。
そして降り出す、肉片を帯びた赤黒い雨が。
「え……?」
颯太は目を凝らして、赤い雨の先を見た。
そしてその双眸は捉える。
巨大な銃を構えた、オレンジ色のロボットを。
すらりとして機械的でない丸みのある細身のボディ、しかし肩やひざにあたる部分は分厚い装甲に覆われている。顔には大きな赤い瞳が一つ、光っている。そして何よりも目を引くのが巨大な銃だ。
見た目はP90に似ているが、銃身がスナイパーライフルのように長く作られている。
その砲身から煙が上がる。それはまるで敵を殺した勝利の狼煙のように颯太の目には映った。
「ねぇ、そこのキミ! どうしてそんなところにいるの!?」
ロボットから女の声がする。パイロットだろうか、やや甲高さが残る子供のような声だ。
「どこから来たの? 所属部隊は? それとも居住区の人? バビロンってわけじゃないでしょ?」
「一気に質問しないでくれ! 俺だってわからない!」
彼は窓から身を乗り出して叫んだ。
「わからない? ならキミは……待って。キミが着てる服……
「輝樹!? 誰だそれ! そんな奴は知らない!」
「嘘だ! そのジャージは輝樹のお気に入りだった! 輝樹はどこ!?」
知らない、そう叫ぶ颯太にロボットは詰め寄るように近寄った。
どすん、どすん、と巨大な地響きが近付き、あっという間に彼との距離はなくなってしまう。
ロボットがしゃがみ、胸元のコックピットが颯太の目の前に。そしてそれが開き、パイロットが姿を現した。
「キミ! 輝樹のこと、少しでも知ってたら教えて!」
「……」
しかし颯太はその言葉に返すことができなかった。パイロットの女の子に見惚れてしまっていたから。
彼女は凛々しい目付きだが、顔付きはどこか幼く愛らしい。長い黒髪をポニーテールにしており、顔を動かすだけでそれが揺らり、と空で遊ぶ。
ぴっちりとしたオレンジ色のパイロットスーツが彼女のスレンダーな体系をつぶさに描き出している。
年齢は颯太と同じくらいだろう。
まるでマンガから出てきたみたいだ、颯太はそう思わずにはいられなかった。
「キミ! 聞いてるの!? ねぇ!」
彼女の強気な双眸に睨まれ、颯太はハッとして首を横に振った。
「俺だって何が何だかわからない! さっき目覚めてここが未来だってわかって……ゾンビに襲われたりでっかいロボットに助けられたり、わけがわからないって!」
「さっき目覚めた……? ということは冷凍保存の? でもそのほとんどが死んでしまったはず……」
「何ぶつぶつ言ってるんだ? 何か知ってるなら、俺にもわかるように説明してくれよ!」
そう言った時だった、遠くからずずん、ずずん、と地を鳴らす轟音が響いた。
それも一つではない。幾重にも合わさって聞こえるその音は、何かが群れでやってくることを物語っている。
「ちっ……アディムズの群れか……キミ! 乗って!」
「え?」
呆けた颯太を、彼女は顎でこちらに来い、と示す。
「いいから早く! 死にたくないでしょう!? あたしだってキミに死んでもらったら夢見が悪いし!」
颯太には迷っている時間はなかった。
足音は刻一刻近づいており、またあのバケモノに襲われればひとたまりもない。
彼は窓に足をかけると、足をばねにするイメージで思い切り飛んだ。
そしてコックピットへ。と、思ったのだが予想以上に飛距離が出てしまい操縦席の彼女の胸元へ顔面からダイブしてしまった。
「いってぇ……」
女の子としてはなにぶん物足りない胸元は、颯太を優しく受け入れることはできなかった。
もしも彼女の胸が大きければクッションのように優しく受け入れてくれたのだろうか、颯太は痛む頭を撫でながらそう思った。
「ねぇ、キミ? 何か変なこと考えてなかった?」
「え? えっと……別に?」
彼女が目を細め、にこにこと颯太を見ている。しかしその目元は完全には笑っていない。
颯太は苦笑いを浮かべ、首を横に振ったが、彼女にはお見通しだったのだろう。
「どうせあたしは貧乳ですよぉだ!」
ばこん! と、ぶつけた頭にさらにげんこつが飛んできた。
じぃん、と揺れる頭を抱えながら颯太は操縦席の後ろに回る。
そこは荷物置きなのだろうか、小さなスペースがあった。彼はそこに体を縮めて納まった。
「そうだ、キミ。名前は?」
「今自己紹介するか? バケモノが近づいてきてるんだろ?」
「だからこそだよ。あたしは今からキミの命を預かる。そんな重大な任務だってのに、守るキミの名前も知らなきゃダメでしょ?」
「ダメってわけはないけど……まぁいいや。俺も守ってもらう子の名前は知りたいし。俺は秦野颯太だ」
颯太の自己紹介が終わると、彼女は振り返りはにかんで言った。
「あたしは
彼はその笑みに、久しぶりの太陽を見た。
「あ、あぁ、よろしく……百瀬さん」
「黄泉でいいよ。そういう他人行儀なの苦手なんだ。だからあたしもキミのこと、颯太って呼ぶね」
いきなり女の子に呼び捨てされてしまった。
女の子に縁のない学生生活を送っていた颯太にそれは刺激が強く、思わず赤面してしまう。
しかし黄泉は操縦席で機械をいじるのに夢中でそんな彼を見ようともしない。
颯太はそれにほっと息を吐いた。
何とか自分を抑え込み、身を乗り出して黄泉の目の前のモニターを見た。
そこにはバケモノが4体、映っている。
「これ、外の様子?」
「そうよ。ただこの子は遠距離狙撃用に設計されてるからあんまり広範囲は見れないけど……って、颯太、臭いよ。離れてよ」
「く、臭い……ち、違うし! 俺じゃなくてこのジャージが臭いの!」
「どっちでもいいよ、そんなこと! 臭くて集中できないから離れて!」
女の子に臭いと言われるのは堪える、颯太は黄泉から身を放すが、視線だけはちらちらと彼女の操縦の様子を見る。
彼女がレバーを動かすと、ぐごぉん、と機体が動き始めた。
「うおっ!? 衝撃がすごい!」
「颯太、シートベルト付けてないんだから吹っ飛んで頭とかぶつけないでよね! 今から飛ばすから!」
がぐん、がぐん、と機体が動くたびにコックピットが揺れ、颯太の身体も宙に浮かびそうになる。
彼は手近にあった取っ手を掴み、足に力を入れて衝撃に耐える。
「まずは一体目!」
機体は後方へ動き、まずは一体撃ち抜いた。
だがそのせいでバケモノがこちらに気が付く。しかし黄泉は華麗な操作で敵と距離を開けながら、射撃をする。
撃ち抜かれたバケモノは爆散し、肉片へと帰っていく。
気が付けば残り一体だ。こんなにすさまじい性能だとは、驚きだ。
「ラスト! こいつを仕留めれば……何!?」
と、その時だった。コックピット内にけたたましいアラームが鳴り響く。
それは危険を現している、何も知らない颯太でもそう感じ取れた。
アラームが鳴り、5秒もしないうちに巨大な地鳴りが地面を揺るがせた。
モニターを見ると地面からバケモノが二体、姿を見せた瞬間だった。
先ほど襲ってきたバケモノとは少し違う、身体が岩のようにごつごつとしている。
「ハーディムズ! こんな時に厄介な……」
黄泉はそのバケモノたちに向かい銃を撃つが、その体を貫くことはできない。
表面をわずかに削るだけがやっとだ。
「やっぱり硬い……! ハイパワーで撃てばあいつの中身を露出させることはできる……けど、再充填してる間に回復されたら……」
「黄泉、どういうことだよ!? 中身? 回復? 何の話だ?」
黄泉はその問いに静かに答える。
「あれはハーディムズ。鉱物を食らって生まれた変異アディムズ。岩みたいなあの体は普通の武器じゃ傷つけることができない。でもハイブーストバスターを使えば表面をはがして脆い中身を露呈させることができる。後は中身を攻撃すればいいんだけど、ハイブーストを使うと充填時間に入るから銃は使えない。その間にあいつの装甲が復活すれば、あたしたちの負けだ……」
「つまりあいつが回復する前にもう一度攻撃できればいいんだな……?」
「えぇ、そうよ。けど、颯太には何か考えがあるの?」
「あぁ……もう一機あれば、できるよな?」
颯太はそう言ってにやり、と笑った。
「この病院の中庭に機体があったんだ。腕にチェインソーが付いたやつが!」
「それって……輝樹の!?」
「誰のかはわからないが、隠すようにしてあったんだ。それで、俺が操縦してあいつらを倒す!」
「無理よ! キミはまだパイロットとして訓練受けてないでしょう!? そんなキミが操縦したところで足手まといよ!」
「いいや、黄泉が操縦してるのを見て思ったんだ。この機体、アサルトアーミーズってゲームと同じ操縦方法だって!」
アサルトアーミーズ、それは颯太がゲームセンターで好んでやっていたロボットアクションゲームだ。
コックピットのような媒体に入り、レバーやボタンを駆使して全国のプレイヤーと戦うというものだ。
その操作方法とこの機体の操作方法がほとんど同じだということに颯太は気付いたのだ。
「俺はゲーム内じゃランカーだったんだぜ? 任せてくれよ!」
「そもそもキミはカギを持ってないでしょう? カギがないと起動しないの」
カギ、そう言われて颯太はポケットをまさぐった。
もしこれが黄泉の言う輝樹のお気に入りの服で、あの機体が輝樹のものだとすればこのポケットのカギはあの機体のものということになる。
颯太はポケットからカギを取り出して黄泉に見せた。
彼女はそれを見て、深く頷く。
「……わかった。今は猫の手も借りたい気分だしね。そこに案内して」
颯太の案内で中庭へ向かう。幸いこの機体の機動性はよく、バケモノたちとの距離は十分に開いている。
「こんなところにあったのね……颯太、あいつらとの距離が開いてる今がチャンスよ。早く乗り込んで」
コックピットが開き、機体の手が颯太を迎える。彼がそれに飛び乗ったのを確認して、白い機体のコックピットまで運んで行った。
「どうやって開くんだ?」
「外から開くにはコックピット横のハンドルを回すの」
黄泉の言うとおり、横に小さなハンドルが付いていた。それを回すとぶしゅぅ、と大きな音とともにコックピットが開く。
「……今からこいつを操縦するんだ」
颯太は高鳴る胸を押さえながら、機体を見上げた。
今はエンジンが起動しておらず眠っている機体。こいつに火を灯すのは自分なのだ、その現実に彼は頬がにやけるのを我慢できずにいた。
「颯太! 早く乗って!」
「あぁ、わかった!」
颯太はコックピットに飛び乗り、操縦席へ座った。操縦席は思ったよりも柔らかく、座り心地がよい。
彼はまず鍵穴を探し、ポケットのカギをそこに差し込んだ。
するとぎゅいぃん! と駆動音が響くと同時、薄暗いコックピットに光が満ち溢れた。
「すげぇ!」
これはまさに子供の頃憧れた、アニメの中の世界だ。
夢にまで見たロボットのコックピットに今、彼は座っている。
目の前の巨大モニターに文字が浮かんでは消えていく。セットアップの確認の表示だろう。
そしてパッとモニターが外の景色を映し出したと同時、シートベルトが自動で颯太の身体を固定した。
「これが本物のロボット……よし、操縦席はゲームと同じだ……なら」
颯太は両手の側にあるレバーを掴んだ。
「右は腕を、左は足を動かす……」
レバーを握った瞬間思い出されるゲームを操作している時の感覚。体が全部覚えているのだ。
彼は心を落ち着け目を閉じ、大きく息を吐いた。
そして目を見開き、憧れていたセリフを口に出す。
「颯太、行きまーす!」
両のレバーをうまく操作してやると、機体はずずぅん、と立ち上がった。
体に覆い被さっていた草木が剥がれ落ち、白く巨大な全貌があらわになる。
『颯太、聞こえる?』
と、スピーカーから黄泉の声が聞こえた。彼はそれに返事をする。
『よかった。聞こえてるみたいね。いい? 今からは連携が大事なの。あたしの指示をちゃんと守ってね』
「わかった。で、どうするんだ?」
『まずはあたしがハーディムズ、あの岩みたいな奴をハイブーストバスターで撃ち抜く。そうしたら柔らかい中身が露出するからそこをキミのチェインソーで突き刺してほしい。もう一度ハイブーストを撃つには放熱に3分必要よ。あたしのジェット・スナイパーは装甲が薄い、だから3分間全力であたしを守って。以上!』
「了解だ!」
黄泉の機体、ジェット・スナイパーが右側にいる岩のバケモノを狙う。
銃身にエネルギー波が溜まり、限界まで溜められたそれは一気に放出された。
目が眩むほどの眩い光を放つレーザー砲、それはバケモノの硬い甲殻を吹き飛ばしていく。
『颯太、今よ!』
「おう!」
黄泉の合図で颯太の機体は駆けだした。がしゅん、がしゅん、と駆動部をうならせながら機体がバケモノに近付く。
颯太はすかさず右のレバーに付いているスイッチを押した。
すると両腕のチェインソーがぎゅるぎゅると回転を始める。
ジェット・スナイパーがレーザーを吐き出し終えた。バケモノの岩のような装甲が一部崩れ落ち、ピンク色の中身が現れている。
「そこだぁ!」
颯太はそこに、両腕のチェインソーを突き刺した。
ギャリギャリと肉を抉る歪な音が響き、返り血が白い機体を赤く染めていく。
バケモノは痛みに呻く声を上げ続け、その声が聞こえなくなったと同時、地に崩れ落ちた。
後に残るはチェインソーに付着したねっとりとした赤黒い血と肉塊のみ。
「俺だって、やればできる!」
それを見て自信をつけた颯太は普通のバケモノのほうに飛びかかり、チェインソーで一気にその体を切り裂いた。
呻き声をあげる間もなくバケモノはただの肉塊へ。
残るは後一体、硬いバケモノだけだ。
「これも俺が仕留めてやる!」
『待って! 放熱が終わるまでは下手に戦わないの!』
しかし戦いの快楽に完全に飲まれてしまった颯太にはその声は届かなかった。
血で赤く染まった機体がバケモノの身体を貫かんとチェインソーを突き刺した。
だがそれは硬い身体に弾かれてしまう。
「くそ! なら表面を削れば!」
刺突がダメならば削り落とせばいい。颯太はバケモノの表面を撫ぜるようにチェインソーを走らせていく。
ばちばちと火花が散り、徐々にだがバケモノの装甲が削られていくのがわかる。
「このままいけば!」
『ダメ! 避けて、颯太!』
黄泉の忠告が颯太の耳に届くころには、彼の機体の頭部にバケモノの硬い拳がめり込んでしまっていた。
よろめき後方へ倒れる機体。ノイズを吐き出すモニター。
「モニターが半分死んだ……くそ!」
『颯太! 早く起き上がって! 避けるの!』
「え?」
と、疑問を浮かべている間に、機体に重い衝撃が走った。
何が起こったのか颯太にはわからない。
壊れたモニターの死角からバケモノが襲い掛かってきていたのだ。
バケモノの連続パンチが襲い掛かり、その衝撃で徐々に機体が地面にめり込んでいく。
中の颯太にも衝撃が走り、先ほどからガンガンと操縦席に頭をぶつけてしまっていた。
席が柔らかくなければもう死んでいたかもしれない。
「ぐっ……黄泉……あとどのくらいだ?」
『あと1分!』
「1分も耐えれるのか……? こんなところで死にたくないっての……なにもわからずに死ぬなんて、ごめんだ!」
颯太は機体を傾け、モニターにバケモノの姿を捉えた。
巨大な腕が迫るが、それを受け止め、何とか防御する。
「そうだよ……俺はまだ何も知らない……こいつにも乗ったばかりだし……わけわかんねぇ世界で叶った夢を、手放せるかよ!」
颯太は叫び、左レバーにある引き金を引いた。
それは機体が背負ったジェットパックのエンジンだ。
ごごぅ! とジェットパックが火を噴き、機体を浮かび上がらせようと唸る。
『颯太! あと30秒!』
「わかってる! この……!」
彼はレバーを強く操作し、バケモノの拳を押し返そうとする。
徐々に機体が浮き上がり、バケモノを押し返す。
「今だ、黄泉! 撃ち抜けぇ!」
黄泉の銃の放熱が終わり、もう一度高出力のレーザー砲が撃ち放たれた。
それは颯太の機体すれすれを通り、バケモノの身体を撃ち抜く。
そしてとどめとばかりに颯太はチェインソーを突き刺し、ようやく戦いが終わった。
「はぁはぁ……これが、戦いか……」
颯太は額に浮かんだ汗を拭った。気づけば手のひらも汗ばんでおり、自分がどれだけ戦いに集中していたのかわかる。
戦っている間はアドレナリンが放出され気付かなかったが、一歩間違えば自分は死んでいた。
その恐怖がいまさらになって沸き上がり、手が震える。
「俺は……今、生きてるんだよな……」
ぐったりと操縦席に倒れこむと、機体も同じように地面に倒れこんだ。
モニターにはバッテリー切れを示す表示が。
『お疲れ様、颯太。よくやったわ』
黄泉の声に返事するのも億劫だ。颯太は手の甲を額に当て、大きく息を吐いた。
その時ポツリ、とモニターに雫が当たった。
ぽつり、ぽつり、雫は増えていき、本格的な雨に変わった。
降り注ぐ雨が、機体の血を洗い流していく。
機体から落ちた血は地面に赤い水たまりを作るが、雨がそれを薄め、やがては透明な水たまりに戻る。
戦闘の跡は、彼に残る疲労しかなくなった。
彼はその疲労に身を委ね、やがて闇に意識を手放した。
「ん……俺、眠ってたのか?」
颯太はゆっくりと瞼を開いた。ゴウゴウと体が揺れているのを感じる。
「あ、起きたんだ。もうすぐで着くから起こそうかと思ってたんだけど」
操縦席から黄泉は彼の顔を覗き込んだ。彼女はニコニコと嬉しそうだ。
颯太は辺りを見渡す。どうやら彼女の機体のコックピットらしい。
「俺の機体は?」
「まだキミの機体じゃないから。とりあえずこっちからバッテリーを半分分けて自動運転にしてる」
モニターにこちらについてくる白い機体が映る。
「そうか……雨は止んだんだな……」
まだ寝ぼける頭が徐々に覚醒して、颯太は突如起き上った。
自分の過去を思い出してしまったから。
「黄泉! 俺を下ろしてくれ!」
「は? どうして?」
「俺はたぶんウイルスに感染してるんだ! こんな狭いところにいたら黄泉も感染する!」
自分はウイルスに感染したからあの施設にいた。
仔細なことはまだ思い出せないが、その事実だけは思い出していた。
それを聞いた黄泉は一瞬きょとん、とした顔を浮かべるが、次の瞬間にはこれでもかというほどの笑い声を漏らした。
「ははは! ウイルスってハイコロナのこと? はは! そんなのいつの時代の話だって。あたしたちには生まれた時から抗体があるし、市販の薬で治るから! それにキミ咳とかの症状ないし、違うって」
「え? でも……」
「キミ、記憶がないの?」
「ところどころ、な……俺があの場所にどうしていたのか、それが思い出せない。それに家族のこととか……」
ふーん、と彼女は頷き、何か言いたげに口をもごもごさせる。
そして決心したのか、ゆっくりと口を開いた。
「キミがいたのは当時治療薬の完成が絶望と言われたハイコロナ患者を冷凍保存して未来の医療に託そうっていう頭のおかしい奴が考えた施設なの。ハイコロナって覚えてる?」
その単語を聞き、颯太は徐々に記憶が蘇ってくるのを感じた。
「あぁ、思い出してきた……コロナウイルスの変異種で、治療法がなく感染すれば死を待つしかないっていう……自然治癒しても後遺症が残ったりするんだよな」
「ま、当時はね。でも今じゃすぐに治る病気になった。キミが眠っていた60年の間にね。キミの中のウイルスはこの60年で死滅した、もしくは誤診によって冷凍保存された。昔は結構誤診があったって聞くし」
そして彼女はにやり、と口元に三日月を浮き上がらせこう言った。
「そうだ。ようこそ、颯太。2080年、アディムズあふれる絶望の時代へ」
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