二話 全て差し上げます
「分かりました。エドガー様との婚約話は、ティナに差し上げます。ですが、姉の私が未婚のままですと外聞が悪く、ティナの婚約話にも支障が出てしまうかもしれません。ですので、私も別の方と結婚しようと思います。……実は、既に相手がいますの」
そう言うと、三人は驚いた顔をしました。私に相手がいるなんて、考えたこともなかったのでしょう。
「お前の言うことはもっともだか、その相手というのは誰なんだ?」
お父様が不安そうに尋ねてきます。とても心配でしょうね。エドガー様より格上の相手なら、ティナがまた我が儘を言いそうですもの。
「ハンス・リーベルス男爵ですわ。以前から親しくさせていただいてますの」
「ハンス・リーベルスって、あの冷酷非道なリーベルス男爵のことか?!いつの間に……」
ハンスは、薬の研究をしている学者です。研究の功績が認められて、若くして爵位が与えられた稀な人物ですが、冷酷非道な男爵として有名なようです。とても親切な人なのに、不思議ですね。
「前々からお話をしていて、気が合うと思っていましたの。彼は男爵ですが、国王陛下に一目置かれている方です。それにティナが公爵家に嫁ぐのですから、我が家は安泰ですよね?私が男爵家に嫁いでも問題ないはずですわ」
「それはそうだが……我が家の娘が男爵家に嫁ぐなど、許可しがたいな」
お父様は煮え切らないようです。おそらく、我が家と同等の伯爵家に嫁いで欲しかったのでしょう。知ったことではありませんけれど。
流石のティナも、ハンスのことを欲しがったりはしないでしょう。何せ冷酷非道ですからね。エドガー様の方が良いと思っているはずだわ。
ちらりとティナの方を見ると、勝ち誇ったような顔をして笑っています。やはりエドガー様からハンスに乗り換える気はないようね。単純な妹で安心しました。
「これは私の我が儘ですので、ご迷惑をかけるつもりはありません。我が家の財産相続権は全て放棄します。男爵家に持っていったりしませんわ。財産は全てティナにお渡しください」
そう言うとティナの顔が輝きました。本当に分かりやすい妹ですこと。
「サラお姉様がそこまでおっしゃるのですから、お認めになるべきだと思います!愛があれば、身分や財産なんて関係ないわ!ね、お姉さま」
予想通り、財産をチラつかせたらティナが話に乗ってきてくれました。
「うーむ。そうだな、そこまでの覚悟なら認めよう」
「まあ、行き遅れるより良いものね」
「お姉様、おめでとうございます!私、自分のことのように嬉しいわ」
お父様、お母様、ティナ。ここまで計画通りに動いてくれるなんて思いませんでしたわ。
「ありがとうございます。では、私はリーベルス家の人間になります。……ところでお父様、手紙を二通預かっております。どうぞお読みになってください」
お父様は手紙を読むうちに、顔が真っ青になっていきました。
「これは……どういうことだ!」
あまり大声を出さないでいただきたいわ。十分に聞こえていますよ。
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