りんごのボクの旅

ヒペリ

第1話

 生まれてから、ろくなことがなかった。

 母さんは、ボクが生まれた瞬間に死んだ。

 父さんは、ボクを育てるために、働いて。働いて。気が付いたら、いなくなってた。

「もう、いいよ」

 誰かの声がきこえた。誰の声? もういいって?

「ああ、もういいんだ」

 ゆっくりと水の中に、飛び込んだ。


「どっちがいい?」

 ……ん? なにが? どっちがいいって、どういうこと?

「転生して、どっかで自由に人生やりなおすのと、天国でらくーに暮らすのと」

 転生……。天国……。ああそっか。ボク、自殺したんだっけ。

「どうせなら、楽しいとこにいきたい」

 ぼんやり見える、髪の長い女の子は、ちょこんと首をかしげた。

「楽しいとこ……かあ。うー、うーん。楽しいとこなら、転生かなぁ。それなりに、リスクあるけど」

 もういいよ。どこでもいいから。もすこし……寝させて。

「わかった! こっちで処理しとくよ。楽しい人生を!」

 え。どういうこと? ねえ、ちょっとまって!

 まぶたがおりてく。


「……ん。ここは……?」

 ありがちなセリフを言って、ボクは目を覚ました。

 新緑のいい匂いがする。さわさわと心地よい音もする。

「ボ、ボク、ほんとに転生しちゃったの⁉」

 よくあるのが、『異世界転生』というやつだが、どうみてもふつーの森だよなぁ。

「てか、ここどこだよおおっ!!」

 ボクはなにに転生した? ここどこ?

 わからないことが多すぎる!

「もう。どうしたらいいんだよ……」

だいたい、もとはふつーの小学生だ。転生経験なんて、あるわけがないし。というか、転生したら、前世の記憶とかなくすんじゃないの⁉

「まあ、やってみるか」

新しい人生、スタートさせてやる。もし異世界だったら、色々やり放題だな!

ワクワク、ドキドキ。胸が高鳴る。

期待と不安で胸がいっぱいで。自分のすがたなんて、気にするよゆうなんてなかった――。

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