第3話 天才と天才の初対面
すれ違う人全てがスマホをいじっている。世の中の人間全てがそんなつまらない電子機器を使っているせいでずっと目線を下に向けとても綺麗な青空を見上げることを忘れる。こんな素晴らしいものをなぜ忘れるのか。生まれて45年。スマホというものを触ったことない私には本当に理解できなかった。
「春日さん」
マネージャーの和田が声をかけてくる。彼は学生時代ラグビーをやっていた影響か肩幅が私の倍あるのではないかと思うくらい広い。
「どうした?」
そう返すと和田は私の前に一通の便箋を置いた。
「春日さん宛にお手紙が届いております。」
いつもの光景だ。私はスマホを使わないため用事がある人は大抵手紙をくれる。
「オファーの話の手紙は全部君に任せてあるが一通だけ持ってくるなんてどんな内容なんだ?」
「わかりません。ですが、裏に、、」
和田を机の上に置いてあった手紙をゆっくりひっくり返す。私は声が出なかった。身体全体が雷に打たれたような感覚になり、鳥肌が止まらなかった。
「和田君。この差し出し人に会えるように手続きしてくれないか。」
「わかりました。」
和田は頭を下げ、部屋を出て行った。
いつものようにつまらない日常に飽き飽きしている。朝起き、学校へ行き、大人たちが支配し、僕たちを前に向かせ黒板にズラズラと文字を書く。それを奴隷のように従い書く僕たち。そんな日々を変えたい。僕はずっと思っていた。家に帰りポストを開ける。いつもの習慣だ。何通かの手紙が入っている。
「今日も入ってないか。まぁ、返ってくるわけないか」
大きな独り言を吐き家に入る。部屋に行きパソコンを立ち上げる。
「ん?メール来てるな」
いつもはメールなんか来ていないがこの日は誰かからかメールが届いていた。
カチッ。メールを開く。そこには
「山下様。この度は私らの事務所にお手紙をお送り頂きありがとうございます。突然なのですが、社長である春日が山下様にお会いしたいということでご連絡させて頂きました。」
堅苦しい言葉でつづられたメール。いつもは返信の遅い僕だがこの日だけはすぐに返した。理由は言うまでもないだろう。これで僕のつまらない日常が変わるかもしれない。いや、変える。
私はこんな感覚になったことがなかった。手紙を出した人物。その相手にとても興味を持った。その衝撃は嬉しくもあり、悲しくもあった。
「山下様にメールしました。すぐにお返事を頂き、明日の10時に事務所でとのことでした。」
メールが返信されたことを和田は春日にすぐに報告した。
「ありがとう。いきなりこんな事を頼んですまなかった」
春日が申し訳なさそうに言うと、
「いえ。私も手紙の相手に興味があります。手紙の裏に書いたたった1行の言葉で春日さんをここまでにした、その相手に」
次の日。事務所に着いた光貴。約束の時間まで30分ある。昔から時間だけはきっちりしている光貴。母親にも部屋は汚いし、頭も悪いけど時間だけはきっちりしているねと言われる程だ。どうやって暇を潰そう。そんな事を考えていると
「山下様ですか?」
いきなり後ろから、自分より二回りデカいんじゃないかと思うほどの大男が後ろにいた。
「はい。そうです。」
少しビビりながら答えた。
「こちらにどうぞ」
大男に案内される。光貴は黙って大男の背中を見つめながら着いて行った。
「ここです。」
案内されたのは見たこともない大きな部屋だった。ん?誰か座ってるな。奥に誰か座っている。ゆっくり近づくとそこには
「よく来てくれたね!山下君!」
春日が座って待っていた。
これが天才と天才の初対面となり、運命の出会いとなるのだ。
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