「本物の科学者」になる小学生たち。チャールズ・ピアス「だれもが<科学者>になれる」
小学校を舞台にした理科の本格的な探究学習の本であり、同時に、「実の場」を得た国語の読み書きの本でもある。チャールズ・ピアス「だれもが<科学者>になれる」は、その2つの性格を合わせ持った、とても面白い本でした。お勧めします。
「本物の科学者」になるアプローチ
この本の理科の授業は、「本物の科学者になる」授業。子供たちは自分で探究のテーマと問いをもち、先生と契約を結んで研究の時間を確保します。研究の過程も逐一ジャーナルに記録します。途中で学校の備品にないものが必要になったら、助成金を申請し、それが審査委員会に認められなくてはいけません。その見返りには報告書を書く必要もあります。そして研究の結果は、学会(子ども探究大会)で発表され、論文集という形でも報告されます。「本物の書き手になる」アプローチのライティング・ワークショップが作家のサイクルをまわすのと同様に、子どもたちが科学者としての探究のサイクルをまわすことを主眼においているわけ。
「本物の科学者」と違うところ
もちろん、教育である以上、実際の科学者の営みとの違いもあります。例えば、子どもたちが自分で探究のサイクルを回せるようになるまで、ピアスは「実証できる問いとそうでない問い」の区別を教え、教員が用意した問いが入っている「発見ボックス」を渡して、子どもたちにそれを使って探究するように促します。これらが探究のサイクルをまわすための補助輪になっているのです。また助成金も、実際の研究費と違って「落とす」ことよりも、「通るように申請書をきちんと書かせる」教育的効果を重視しているようです。助成金を申請するプロセスの中で、子子どもが自分の研究について振り返るようになっています。「本物アプローチ」は、こうした「本物とは違う」部分によって、その教育的効果が高められているのでしょう。そうでなければ、もともと素質のある子だけが「勝ち残って」しまう構造になりかねませんからね。
国語の学習としても魅力的
これだけでもとても魅力的な本なのですが、ピアスがこのような「科学者のコミュニティ」を教室に作る中で、読むことと書くことをとても重視している点も、国語科の僕には興味深いものでした。子どもたちはたくさんの科学読み物を読むように促され、自分たちで科学的なミステリー物語を書くこともあります。また、助成金の申請や探究大会への参加申し込みなど、実用的な文章を書く機会も、いたるところに転がっています(子どもたちはこうした文章の審査にも関わります)。探究大会の本番の発表や論文集が話すことや書くことの学習になることも、言うまでもない。よく言われることですが、情報伝達系の読み書きが、国語の授業の中に閉じていては、ただの「ごっこあそび」になってしまう。でも、ピアスのクラスの児童たちは、科学の探究学習の中で自然に国語を学んでいる。このデザインは、もちろん風越学園の探究学習のデザインを考える上でもそっくり真似したいのですが、むしろ教科の壁が高くなりがちな高校でこそ、参考になるのかも。高校の国語の先生、「小学校の理科の本なんて関係ないな」なんて思わず、ぜひ手にとってみてください。
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