第87話 晩御飯は油そば
帰宅早々、ちょっとした騒動が起きようとしている。
森の人とチビが睨み合っているのだ。
チビ?小型犬ポメラニアンのあなたでも、森の人に本気になったら殺せちゃうからね。
ワン(この娘、可愛いの可愛いの)
そうですか。
森の人が恐る恐る手を伸ばすと、チビはベロンと舐めて歓迎を表す。
森の人は途端に顔がぱあっと明るくなり、チビを抱きしめた。
チビは尻尾をぶんぶん振り回して喜んでる。
まぁいいか。大丈夫そうだ。
こっちでは、馬鹿姉妹が2人して冷蔵庫を開けて飲み物の物色を始めている。
並んで尻を振り振りしてんだよね。こちらも仲の良い事。
「凄い。何ですかミズーリ様この小屋。冷や冷やしてます。お水が冷たいです。氷室では氷も出来てます。」
「これもトールの発明品。いつでも冷たい飲み物が飲めるし、お肉やお野菜も長期保存ができるの。ミクがトールから貰った水筒の水がいつも冷たいでしょ。」
食材は万能さんから取り寄せるから、いつでも新鮮なんですけどね。冷蔵庫の中には、アイスやデザート、ジュースばかりだし。
「凄いです。旦那様。」
考えてみれば姫さんはこの家の中では、寝てるか土下座してるか飯食ってるかミズーリやチビのおもちゃになっているか、どれかでしたね。まともに過ごして無かったかも。
少しは寛いても良いでしょう。
さて、晩御飯ですが。どうしようかな。
「はいはいはい。ラーメン!!ラーメンが良いと思います。」
ミズーリが冷蔵庫の前で無理矢理振り返るから、姫さんと床にひっくり返り絡まったまま右手を挙げてる。
晩御飯にラーメンですか。私の感覚だと、昼食か夜食なんですけどね。あと、姫さんと森の人はお箸を使えないでしょ。
「ラーメンって何ですか?」
「トールが作る食事には中毒性の高いものがあるの。とっても美味しいんだけど、栄養学上食べ過ぎると身体に悪いからとなかなか食べさせてくれないの。そんな料理の一つ。美味しい美味しい麺料理。」
「旦那様のとっておきですか。じゅるり。それは楽しみです。」
すっかりはしたなくなったなぁ姫さん。
森の人も私達の元に近づいて来た。あれまチビに乗ってだ。仲良き事は良き事かな。
で、と。箸じゃなくフォークで食べ易い汁無しラーメン(汁有りラーメンは、また2人に戻ってからでもいいでしょう)を作ります。
麺は太麺を煮立てます。ラーメンどんぶりに胡麻油と醤油、中華スープで作ったタレを敷き、半熟卵・メンマ・刻み叉焼を具に揉み海苔と削り節粉をたっぷり振りかけて油そばの出来上がり。付け合わせには餃子といきたいけど、一度作っているし気分をかえて肉たっぷり焼売にしよう。
野菜が足りないからブロッコリーとコーンをオリーブオイル・塩胡椒で味つけた温サラダ、茹で海老も追加しちゃえ。
森の人用には全部小型化(万能さんは食材まで小型化してくれた。今更ながら凄え。)したものも食卓に並べる。生ニンニク入りだし口臭エチケットの為にジャスミン茶をたっぷりと用意しよう。
では、いただきましょう。
「いただきまーす。」
「頂きます。旦那様。」
「(頂きます)。」
最初におかわりを要求して来たのが森の人だったのは、昼の様子から何となく予想がついたけど、馬鹿姉妹も全メニューおかわりしてくるのはちょっと。太るし塩分過多になりますよ。
「おっぱいの為よ。」
「そうなんですか、ミズーリ様。」
「よく食べてよく運動してよく寝る。これが一番。あとトール?鳥の唐揚げとキャベツを今後要求するわ。おっぱいの為よ。」
「唐揚げとキャベツがおっぱいに良いんですか?」
「おっぱいが大きなグラビアアイドルが、唐揚げとキャベツと運動でおっぱいを成長させた事例があるの。」
「ぐらびああいどるとやらが何者なのかは分かりませんが、そんな事があるんですね。」
ミズーリさん。私は前世でもグラビアアイドルにそう興味があった方ではありませんが、私の記憶のどこを引っ掻き回して得た知識ですか?
…
貴様か万能!
「なんにせよ旦那様。おっぱいは夫婦和合の要です。将来生まれてくる私達の子供にも大切な問題です。」
「!。そうだわ。ミツルとミチルの為にも幸せなおっぱいが私達には必要じゃない。」
久しぶりに出てきましたね。その妄想兄妹。
「どなたですか?」
「私とトールの子供よ!」
「え…。ミズーリ様経産婦なんですか。その身体で。」
「愛の前に不可能はないの。次はミクよ。トールの子供で帝室を埋め尽くしなさい。次の皇帝は傀儡なんかじゃ無いわ。中興の祖として帝国の歴史に残る偉人皇帝に育てるの。」
「は、はい。目指せ一個小隊です。」
…なんですか?森の人さん?
いや、彼女達の言ってる事は冗談だから。
あなたとの子作りとか、サイズ的に無理だから。あなたまで脱いでどうすんの。
馬鹿騒ぎは閉塞した私達には大切な行事なので、私は流される様にしている。
女3人がエロに偏っているのは、早急に是正しておきたいところなんだけど。
何はともあれ、スイッチをすぐに切り替える事が出来るのも私達の良いところだ。
「今日の出撃はおそらく副司令の命令だと思います。総司令官の私が行方不明になっていますし、コマクサ侯の圧力か自身の保身の為かは分かりませんが。」
「次に彼らが取る手はなんだろうか。」
「東部方面軍が全力を上げて破れました。森を焼くという方法は我が軍の最終手段でもあったんです。」
「ミズーリが雨を降らせて撃退した訳だけど、彼らはどう捉えるのだろうか。」
「分かりません。見ていた私にだってわからないんですよ。ただし、矢による飽和攻撃が通用しないどころか、同じ手で逆襲された事は衝撃的だったと思います。他に取れる方法は剣による斬り込みしかありませんが、旦那様が遠距離にいる段階で待ち伏せに気がついた事も承知しているでしょう。正規軍が正攻法でも遊撃戦も通用しない。普通の指揮官なら。」
「なら?」
「二度と手を出さないでしょう。」
「普通じゃない指揮官なら?」
「全滅覚悟で全軍特攻ですね。」
現場指揮官ではどうしようもない上層部の政治的な判断でそうせざるしか無い。
パリは燃えているか?状態ですか。よくある事ですが、それは亡国の道です。
さて、どうしよう。
「全部殺して殺して殺し尽くしちゃうのが一番手っ取り早いわ。」
そうもいかないでしょ。ほら姫さんが泣きそうになってますよ。
「旦那様はいつになったら私をミクと呼んでくれるのかなぁ。」
違う理由でした。
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