第29話

この天界での50年はそこまで長くも感じず、

何かあったかと言われたら何も起きなかったと答える退屈した日々だった。


そりゃあ、壁内は魅力的なものが数多にあったけど、いざ中身を見てみると何か皆んなの活気がなく面白みがなかった。

それで暇を持て余していたから壁外に出れるか試してみたが、とても強い結界が張り巡らされており外に出ることは叶わなかった。

まさに、来るものは拒まず、出るものは許さぬ。そんな意思を感じた。

そのため、大体の時間を脳でのイメージトレーニングに力を注いでいった。ここの世界では食事、睡眠が要らず、歳をとることはないらしいから実に深く頭の中で戦術を練れた。


そんな日々を過ごして今日が丁度100年目なのだが、そろそろ終わっててもいい頃だろう。

少なくて50年とは言っていたが少しこっちがもう根気強く待つのももう楽しくもない。

こんな退屈した日々はもう飽きてしまったからな。全然呼ばれないことを前々から疑問に思っていたが、100年も経ったんだ。様子を見に行くぐらいしないとずっとこのままかもしれない。



神殿前まで100年ぶりに来たが、外装は全く変わっておらず、ここだけは時代が止まっているような不思議な感覚を感じる。


でも以前と変わっているところもあり、

何やら空気が何か慌ただしい。


前に来た時は中に入る時に門番が立っていたが、今は誰もいない。


門は空いていないが、それはこの雰囲気を見れば些細なことだった。


中で何が起こっているのかは知らないけど何かカタルセニカに異変でもあったら大変だ。

外壁を越えるために鍛えた侵入テクニックは

案外馬鹿に出来ないもので高い門も軽々しく飛び越えることができた。


隠密で己の姿を極限まで空気と同化させて

気配を消す。中には隠密をしても気づく神はいるが、少し違和感を感じる程度の反応しかしていなかった。


そこからは滞りなくカタルセニカに追い出された部屋の前に着く。中ではやはり騒々しく何か話し合っているのか。


隠密は偉大なもので扉を開けても反応はなかった。そこには6人ほどの神々がでかいテーブルを囲んで話をしている。


会話の内容は残念ながら上手く聞き取れないが会議をする神たちの顔の気迫は凄まじいもので議題がいい話ではないのがよくわかる。


「…ってあらぁ〜晃くんじゃない〜」


この部屋に入ってから3分もたった頃にようやくカタルセニカが気づいたようだ。


「どうしたんだ?知らない神たちも揃ってこんな慌てて」


「誰だ貴様は!最高神カタルセニカ様に無礼とは…!敬語を使わんか!」


会議の参加者の老齢の仙人のような神が叫ぶ。


「いいのよぉ〜彼は大事なお客ですからぁ〜」


「ですが…っ!」


カタルセニカはいいと言っても老神は食い下がる。その気持ちも分からなくもない。

一応彼女の立場はこの世界でも総てを統べる存在の頂点なのだ。そんな相手にタメ口はやっぱり誰かしらを怒らせるなんてことはもうなんとなく察しはついていた。


「いいから。」


前に見せてきた真剣な表情で黙らせる。

抗議の声もこのひと声で何も出てこなくなった。


「あのねぇ〜とあるイレギュラーが誕生しちゃったのよぉ〜」


「現界でか?あっちは俺がここに来てから1時間も経ってないはずだぞ」


「人の子ってねぇ〜現界の何処かしらではいつも産まれてるのよぉ〜その分死ぬ人もいるからそれで人口の調節がされてたりしてるのよぉ〜」


また知らないことを勝手に教えられた…


「そのイレギュラーってなんだ?」


「直球に言っちゃうわよ。貴方の今生きてる世界で『神殺しトップスレイヤー』のユニークスキルを貰って生を受けた子供が居るの。」


「神殺し?」


「その名の通り私たち神々に対抗しうる力を持ってしまった人間の総称よ。」


「人間なら寿命であんたらからしたら一瞬だろ。」


「残念ながらハイエルフでさ、前の君のように寿命が他人より多いんだ。」


「300年だろうと一緒じゃないのか?」


「その認識は間違いだね。人間の3倍以上の寿命というのはかなり厄介なものなんだよ」


「そういうものか?」


「そういうものなのよぉ〜」


神様の感覚なんて分からないな。


「そんな神殺しはまだ産まれたてなんだろ。自分たちに危機が及ぶのなら早めに対処する方が安心なんじゃないか?俺はそう思わないけど」


子どもを手にかけるのは少し気が引ける。

悪いやつを倒すことにはなんら抵抗はないが、善人や普通の子どもとかが死にそうになってたら…やっぱり助けたくなるものだ。


「そうしておいた方が楽ではあるけどねぇ〜私たちは人の死に干渉することができないのよぉ〜」


まぁ、子どもは好きだし。とカタルセニカは付け足す。


「…って違う違う。俺はその話をしにきたんじゃない。俺の手続きが終わったかの話をしにきたんだ。」


「ごめんなさいねぇ〜この一件はどうしても無視できないからって会議が長く続いちゃって〜…えぇと、手続きは終わってるわ。じゃあチャチャっと最後の工程ね。」


「『神化』」


カタルセニカは辺りに光を放ち、神々しさがある。その光は徐々に一本の光となり、俺に向かって放たれて光は俺を飲み込んでいった。


「…これが『神』か…」


「これで貴方は現界に戻るのだったのよねぇ〜…って最後に大事なことを忘れてたわぁ〜」


「なんだ?」


「貴方には神殺しの処遇を決めてもらいます。っていうのとぉ〜大罪っていうのは7つあるのは分かってるわよね?それぞれの大罪を背負った人を見つけなさい。その罪人は貴方にとってかけがえのない相棒になるわよ。まぁ、光ちゃんは別枠での最高の伴侶枠だからね。」


「ちょっと待て神殺しの処遇の話を流そうとするな。なんだ?処遇を決めるって…殺せってことか?」


我ながら物騒になったものだな。

前半は全く意味がわかんなかったが、

後半は仲間を手に入れろっていうことがわかった。


「違うわよぉ〜彼を善人にするのもよし、放置するのもよしなんでもありよ。別に早速殺してしまうのもありだけど貴方はそんなことしないだろうからねぇ〜取り敢えず神殺しの人生の1ピースに貴方が埋め込まれるようにすることが大事なのよぉ〜」


「そういうものか…」


「っていけない!時間がこっちはないのよ!そろそろ会議に復帰しないと話がまとまらないのよ!てことでごめんね!もう帰らせちゃうわね!」


「はえーよ。…セシアに頑張れとでも伝えておいてくれ」


「承ったわ。…貴方の旅路が面白くなることを願うわ。」


カタルセニカの手から灰色の光が出たと思ったらその光は緑へと変わり、扉を創る。


「じゃあな」


「また、会いましょ〜」


扉を開けて別れの言葉を交わして



神となった己は天界と一度別れを告げたのだった。

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