第5話
朱音が外は安全だと教えてくれたのでその情報を信頼し、いざ、外に出てみる。俺たちはドアノブを回し、世界を眺める。
「私はさっきちょこっとだけみちゃったけどやっぱりすごいね…」
2人が見ている景色は永遠に伸びているように錯覚してしまいそうな程広かった。あるところは木が多く群生する森。あるところは綺麗な湖。あるところは天にまで上りそうなほど高い山。さまざまな気候がこの土地を支配していた。その中にはモンスターとも取れる不思議な生物が多く生息していた。光さんの話にいたトカゲのようなでかい竜…いわゆる地龍ってやつなのかな?や、ツノの生えたうさぎ、異世界でお馴染みスライムなど、さまざまな種類がそこに存在していた。
そんな現状を一言で表すと
『こんなにもモンスターが多くて尚且つレベルが高い強種族の割合が多いのですから物好き以外は住もうとしません。そしてこの気候ときました。この転移の館じゃなかったら起きる前にKOですね。』
「そんなヤバいのかここ…」
「この館でよかったです…」
いや、そもそもこの土地じゃなかった方が良かった気が?…いや、考えちゃダメだな。
『転移の館の周りの柵の中まで私たちが許可しないモンスターたちは入って来れないよう大賢者様が結界を張っておいています。ですので、柵さえこえなければモンスターには絶対殺されませんのでご安心を。』
それならよかった…光さんも思いっきり安堵してる…確かにこの館が壊されないのはかなりの安心感だ。
「確かに柵の中は平和そのものだな。」
「そうですね。日向が気持ちいです。」
雑談を交わしていると、急に前方から凄まじい殺意を感じる。
「っ!なんだ?!」
嫌な視線をとばしてきたのは、体は俺2人分をゆうに超えるほど大きい巨体を持った緑色の人間のような化け物で、顔は醜く、手にはその巨体に相応しいほど大きい大剣が握られている。
『あれはゴブリンの最上位種「ルナティックゴブリンロード」です。その大剣を一振りしただけで地面を割るほどの怪力を持っています。』
確かに、あの戦場で戦い鍛え抜かれたような肉体は混沌に蔓延る化け物としての風格がある。そんな化け物は初めてみる俺らを「侵略者」捉えたのか警戒していたようだ。しかし、それは警戒だけでは終わらず大剣を構えて俺らに突進してくる。俺はその速さに着いていけずみることができなかった。
…死ぬ。あいつはそう思わせるような力を放出してきた。
だが、そんな心配でさえ杞憂に終わる。
先程朱音が説明してくれた大賢者の結界が相手の攻撃を全て抑える。そこに相手から放たれた凄まじい衝撃波が視認できたあたり、攻撃力がとてつもなく高いことがわかる。結界が守ってくれたから衝撃波がこちらにくることはなかったが。
すると、結界が一瞬で何重にも重なり圧縮される。1秒ほどで限界まで圧縮されたのか、一瞬の静寂が起こる。ゴブリンロードは動かなかった。その圧縮が限界を越えたのか、凄まじい速度で圧縮が解除され、ゴブリンロードはその勢いに呑まれ、とてつもなく遠くへと飛ばされていった。地平線を越すほどの飛距離だった。
これで今は脅威は去った。館の安全性も確かめられた。
それでも怖いことは怖い。俺はこの場から動けなくなるほど震えて、光さんなんて腰を抜かしてしまったようだ。
結界の能力だけに過信し過ぎていたらダメだ。いつか壊れてしまうかもしれない。
結界の中でしか生きることができないのなら俺らはこの転移の館に囚われたままとなってしまう。
…不意に朱音の声が聞こえる。
『晃様。称号「自由のための翼」を獲得いたします。』
称号?一体なんで。
『こちらの称号の獲得条件は「絶対的な外部的要因により内側でしか生きることのできない生物が縛られたくない。囚われたくない。そんな気持ちを一定以上持つと獲得することができます。』
まさに今の俺のことってか…
『この称号は奴隷などの弱小な存在が得ることの多い称号ですが、晃様はそこまで能力がないわけではありません。むしろ才能に満ち満ちています。現状は相手に太刀打ちができないというだけで、今後あなたは自由を得ることがきっとできます。』
光さんも「感覚共有」を使ったのかこの声が聞こえてるらしかった。
俺らはこの世界で共に生きていくことを誓ったのだった。
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