#29 彼女と友達とその妹は泣く





僕にダイブして抱き着いてぎゃんぎゃん大泣きするイクミ。

わんわん大泣きしながらイクミに謝罪するミワ。

とりあえず何言ってるか判らんけど、えぐえぐ言ってひきつけ気味のミク。

左手と首が動かないのを無理して、イクミをなんとか宥めようとする僕。

さっさと病室から退避したウチの母親。


ここが個室でよかった。

相部屋だったら迷惑この上ない。

誰か助けて・・・


で、看護師さん来て、イクミ引き剥がしてお説教してくれて、ようやく静かになった。





落ち着いて話せそうになったので、イクミから順番に話をした。

イクミは僕の手を握りながら聞いてくれた。


しばらくイクミはこっちに居ることになった。

学校は、家庭の都合でしばらく休むと、イクミのお母さんが手配済とのこと。

こっちに居る間、昼間は僕の付き添いをしてくれることになった。

あと、パワータイプのイクミに抱き着かれるとケガ悪化しかねないので、「もう少しソフトにね?」と遠回しに加減して貰うようにお願いした。



次にミワ。

ミワは、ティッシュで鼻噛みながら聞いてくれた。


僕の記憶や後から聞いた事故当時の状況から、ミワは何も悪くない。

責任を感じる必要は何もない。

責任を感じて勝手に暴走されると周りに迷惑がかかるから自重するように言い聞かせた。

あと、学校の授業が遅れてしまうので、僕が復帰したら遅れを取り戻す勉強に付き合って欲しい、その分授業をちゃんと聞いておいてとお願いした。



そして、ミク。

この子が一番重症。ずっと下向いて何度も手の甲で涙拭いながら聞いてくれた。


ミクの場合は、実際に僕がミクの身代わりになっており、気にするなと言っても無理があるので、退院したらリハビリに付き合うことで、チャラにするようお願いした。

中一の時に事故のケガでリハビリした経験から、一人よりも誰かに付き合ってもらった方のが助かるからと理由を付けて、納得して貰った。


ミクは、事故前のツンツンが嘘の様に素直に僕のお願いを聞き入れてくれた。



あと、心配だったのが、ミワとミクの精神面。

目の前で交通事故、しかも知りあいが跳ね飛ばされるのを見ているので、一度お医者さんに相談した方がいいんじゃないかと思い、後日勧めておいた。




只でさえ体しんどいのに、ここまで話して疲れちゃったので、休ませて貰うことにした。

この子たち、こんなに手のかかる子たちだったかしら。

ケガ人の僕が一番冷静で、気を使ってたよ・・・



ミワとミクを連れて母親が帰り、イクミと二人きりになって、改めてイクミのことを見つめた。


すっぴんだし目元は真っ赤で、慌ててコチラに向かってずっと泣き腫らしていたんだろう。

綺麗な顔が台無しだなぁってぼーっと見つめてたら、イクミも自分の顔が酷い自覚があったのか「顔洗ってくる!」と言って、病室から出て行った。


イクミが戻って来てから、心配をかけたこと、イクミにも新学期早々学校を休ませてしまうことを改めて謝った。

でもイクミは「事故の連絡受けたときは凄いショックでホントに怖かったけど、ミクちゃんの身代わりになって轢かれたって聞いた時は、アカリらしいって思っちゃった。 今こうして目の前で生きてることが確認出来たからこんなこと言えるけど、やっぱりアカリは格好良くて、私の自慢のカレシだよ」と言って、ケガしていない右手の甲にキスしてくれた。

僕も『僕の事故のこと聞いて、遠いのに飛んで駆けつけてくれる自慢の彼女だよ』と言って、イクミのほほを右手で撫でた。




翌日、軽トラ運転してたジジィの家族が謝罪に来たが、面会は一切拒否した。


過去の経験から、安易に会うべきでは無いと判断した。

つーか、家族じゃなくてジジィ本人来いよ!クソジジィ!




体の方は、目が覚めた日に比べ、翌日からいくぶんマシになっていった。

起き上ってトイレに行くことも出来る様になって、晴れてオムツも卒業出来た。

この歳になって、汚れたオムツを他人に交換してもらうの、想像以上に屈辱だったんだよ!



ただ、体が動かせるようになって判ったことだけど、脚のダメージが意外とあったみたいで、特に以前ケガした左脚が重くて言うこと聞いてくれず、頑張って歩こうとしてもすぐ疲れてしまう。

新たにキズ跡が出来ることは無かったけど、中一の時よりも厄介なことになってる気がした。





事故の日から1週間で退院が決まり、その翌日には退院することになった。


入院中の間イクミは、自分の実家で寝泊まりして、朝病院に来て僕の世話をして夕方実家に帰る生活をした。

僕の体がなかなか言うこと聞かなくなっていたこともあり、実際のところイクミの献身は非常に助かった。トイレや湯浴みも嫌がらずに付き添ってくれた。

イクミには改めて、お礼をする約束をした。


他に入院中には、ミワやミクもちょくちょくお見舞いに来てくれ、二人とも、もう病室で泣いて騒ぐことは無かった。







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