#13 彼は走り出し、彼女は黒歴史に悶える



イクミとミワ、どちらが大事か、どちらが優先順位が上か。


当然、それはイクミ。

だから先にイクミから話をすることに決めた。



イクミにミワとの現状を包み隠さず全て話す。


タイミングや言葉選びを間違えると、イクミからの信用を失いかねない内容だから、キチンと襟を正して、正直に話す。

イクミにもそのつもりで聞いてもらうように、事前に心の準備をしてもらう必要がある。

いきなり、ヘビィーな話を次から次へと聞かされば、動揺して拒絶反応されかねない。心の準備が必要。


そんな決意をしている僕を余所に、イクミは僕のスマホで僕のことを撮りまくっては写メを確認し、ゲラゲラ笑っていた。

その笑い方が中学の頃と変わってなくて、物凄く安心した。





元旦だと言うのに朝からお邪魔して、随分長居してしまった。


1年半ぶりの再会だし、お互い話したいこと聞きたいことが沢山ありすぎて、時間が足りないくらいだった。

幸いご両親も僕たちのことを応援してくれていて、嫌な顔せず僕のことを貴重な正月休みでも受け入れてくれた。

ただただ有難い。

とは言え、ここで調子に乗ってはいけない、とそろそろ帰ることに。


帰る前に明日のことをゆっくりと出来るだけ丁寧に話した。


『明日、大事な話があるんだ』

『実は、森田ミワのこと。この場で言えるのは、高校ではミワと僕は友達で彼氏彼女の関係じゃないし肉体関係も無い』

『ただ、周りにはそう思ってない人が居てもおかしくない』

『ウチの親なんかも多分僕とミワのことを付き合ってるって勘違いしてる』


『そのことでイクミには、誤解されたく無いし、嫌われたくない』

『だから時間をかけてでもキチンと全部話して、イクミにも理解してほしい』

『面倒な話に巻き込むことになってしまうけど、でも僕はイクミも決して無関係な立場じゃないと思ってるし、なのに何も知らないままというのはイクミに対して不誠実なんじゃないかって思うんだ』


『話したい内容は、イクミにとってショッキングかもしれない』

『いきなり話されるよりも心の準備くらいはしてもらった方がいいと思うんだ』

『だから今すぐじゃなくて、明日、僕の話を聞いて欲しい』


そうお願いすると

「だったら、お出かけ早めに行こうか?午前中に行く?」

『うん、じゃぁ11時ころに迎えに来るよ』

「わかった」


そう約束して、リビングのご両親にも一言挨拶をして、玄関を出た。

イクミも自転車のところまで僕を送りに出てきてくれた。


僕は自転車に跨ってから、片手でイクミを抱き寄せて『おやすみ』と言ってキスをした。

僕が自転車を漕ぎだし離れても、イクミは見えなくなるまで僕を見送ってくれていた。




家に帰ると、親には『明日も中学の時の友達に会いに行ってくる。昼ごはん要らないから』と断っておいた。

ミワにはメールで『古い友達と一緒にいて忙しくてスマホ見る余裕無かった。明日もその人と会う約束あるから、明日も会えないと思う』と送っておいた。






翌日、11時前にイクミの家に迎えに行った。

イクミは僕が来る前にメイクを終えて出かける準備も終わっていた。

改めてオシャレしたイクミを見ると、背が高くスポーツマンらしく引き締まって、でも出るところは出ててとてもスタイルがいい。そして、月並みだけど、何着せてもサマになる。

”綺麗”というよりも”格好いい”のがしっくりくる。


上にコートを着ていたが、コートの下は、ニットのミニスカートのワンピースに黒のタイツを履いており、僕の好みのどストライクだった。

それをそのまま伝えると、イクミは「知ってる」とニンマリしていた。


自転車を置かせてもらい、駅まではイクミのお母さんが車で送ってくれた。


車を降りると、何も言わなくてもイクミは僕の手を掴んで離さなかった。

改札を通るときだけ離したけど、ホームでも電車の中でも、目的地の駅を降りて高校に向かう道すがらもずっとイクミは僕と手を繋ぎ、離さなかった。


何気なく『イクミ、手を繋ぐの好きだっけ?中学の時はそんなことなかったよね?』と聞くと

「昨日、アカリが言ってたでしょ?別れてた時間があるから今二人で手を繋いていられるって。アカリのその言葉が心にストンと落ちてきたんだよね。 そうだ、その通りだ!って。だから今手を繋げる幸せを全力で噛みしめてるの♪」とイクミは嬉しそうに話してくれた。



高校に到着すると、正門は閉じられていて中に入ることは出来なかった。

まだ正月の2日だから仕方ない。

それでも外からでも見たいというので、歩いて学校の外周をぐるっと1周回った。


することが無くなってしまったので、駅まで戻り昼食を取ることになった。


まだ正月休みということで、閉まっている店が多かったが、チェーン店の牛丼屋開いていたのでそこに入った。


イクミは牛丼屋で牛丼を食べるのが初めてだと言うので、ツユダクを教えてあげたら早速ツユダクを指定していた。

二人とも並盛りを注文したが、流石現役体育会系、あっという間に平らげ、物足りなさそうだった。


『帰りにどっか寄ってデザートでも食べようか』と提案すると「買って帰って家で食べたい」とのことで地元に戻ってから買って帰ることにした。


しかし、地元に戻ったが、相変わらずどのお店も閉まっていたので、結局コンビニでスィーツを色々買って、イクミの家に帰った。





イクミのご両親と一緒にコンビニスィーツを食べてから、イクミの部屋に行って、昨日の予告通り、僕の話を聞いてもらうことになった。



昨日みたいな手を繋ぐことはせず、僕はイクミの正面に正座して話し始めた。



『まず最初に。僕とミワは肉体関係は一切ない。だけど、恋人だと誤解されるような行為は沢山してきてる』

そう前置きしてから、順番に話した。


高校入学してからミワと初めて会話するまでのこと。

ミワと和解したときのこと。お互い自分たちがしたことをキチンと反省して謝罪しあったこと。

夏休みに入ってから毎日の様に二人で図書館やウチで過ごしたこと。

仲良くなりすぎて、お互いを名前を呼び捨てで呼び合うようになったこと。

2学期から、毎日教室まで迎えに来るようになり、一緒に登下校していたこと。

その頃のミワのクラスでの状況とクラスに居辛いミワが僕のクラスに入り浸る様になっていたこと。


ミワの僕への独占欲が強くなり、彼女を作らずミワの傍にいることを約束させられ、キスを迫られそれに応じたこと。

言い訳として、最初は散々拒否したが、結局同情心から応じてしまったことも。

一度キスに応じたら、毎日帰り際に要求されるようになり、それにも応じていたことも話した。


ここまで一気に話した。

でも、まだこれで終わりじゃない、と続けた。


『次第に僕のウチにも入り浸る様になって、ウチの家族に完全に溶け込んで、ウチの家族ともしょっちゅう一緒にご飯は食べていくし、大晦日には泊まりに来るし。その時もウチの親もミワの親も外泊することを簡単に許可して全く反対しないし』

『それで大晦日の深夜、ミワはとうとう僕にセックスを要求してきた。でも、セックスだけは絶対に嫌だって拒否しているところ』


『昨日の朝だって、冬休みの間毎日ウチに入り浸って泊っていこうとしてるから、無理矢理ウチから連れ出してミワの家に押し付けてきた』

『ようやくミワから解放されて、ホッとしてそのまま帰ってもまたミワが来ると面倒だから、それで何となくイクミの家の近くまでジョギングがてらに来てみたんだ』


次に、僕の思っていることも話した。

『ミワは、僕に対して依存してて、強い独占欲を持っていて、僕を傍に縛り付ける為に、キスやセックスを強要しようとしていると僕は思っている』


『普通なら縁切り案件かもしれない。素人の手に負えるレベルじゃなくなってるかも知れない』

『でもさ、こんなことイクミに向かって言い訳するの卑怯かもしれないけど、高校入学したとき、本当だったらイクミと同じ学校だったのに・・・とか思っちゃって。で、1学期はクラスの連中が色々仲良くしてくれて気が紛れたけど、夏休みに入って一人になると、また、去年の夏はまだイクミが居てくれたよなぁ・・・とか考えちゃって、結構辛かったんだよ』

『そんな時にミワと友達になって、ミワも寂しかったみたいでずっと僕たち一緒に居てさ、ミワが傍に居てくれたの凄く有りがたかったんだよね』



『だから、ミワのことは友達として、なんとかしたいって思ってる』

『女の子だからとか、中一の時の罪滅ぼしとか、そんなんじゃない』

『ミワも僕にとっては大事な人なんだよ。友達としてね』


『これで話したかったことは全部。 聞きたいこと、言いたいこと、文句でも罵倒でも甘んじて受け入れます』



ここまで真剣な表情で途中口を挟むことなく静かに聞いてくれていたイクミが、話してくれた。


「なんだか予想を上回る話で、ちょっと頭が追い付かないよ・・・」


「でも、私が言えるのは、やっぱりアカリのこと、私は大好き」

「お人好しで、他人への気遣いばかりで、時には自分を犠牲にして、でもそういうのも全部当たり前のことだと思ってて。そんなアカリだから私は中学の時、好きになった。今の話聞いても、今もあの頃のまんまだって思った」


「それと、今の私じゃきっとミワちゃんの力にはなれない。アカリにしか出来ないことが沢山あると思う。アカリがミワちゃんを助けたいって言うなら、私はそれを応援する」


「でも・・・私の彼氏になったんだから、もうミワちゃんとはキスはしてほしくないな・・・」


『うん、そこは絶対に死守する』


「死守って、そんなに強烈なの? アカリにキス迫るミワちゃんとか、マジで想像つかないんだけど」


『うん、凄いぞ最近のミワ。女って言うよりも、メスの顔してくる』

『とりあえずさ、そういうのももう止めてもらう為にも、一度真正面からぶつかってみようかと思う。イクミも中3の引っ越し前に、ミワと真正面からぶつかったでしょ?僕もそれやってみるよ』


「え!?その話、知ってるの!?」


『うん、ミワと仲直りした時、教えてくれた。僕、愛されてたんだなぁ~って凄く嬉しかったよ?』


「アーアー聞こえないー」


『なんでさ!?』


「これ、言った本人は思い出すと滅茶苦茶恥ずかしいヤツだからね!」

そう言ってイクミは、頭を抱えて蹲って「死にたい」を連呼していた。




イクミは僕の話を聞いて、口には出さないけど色々思ったと思う。

でも、僕の気持ちを理解して、そして僕を後押ししてくれた。

やっぱり僕はイクミを好きになって良かった、と心底思った。

イクミじゃないと、こんな面倒な男の話、マジメに聞いてくれないしね。






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