罰ゲームで同級生に告白したら死ぬほど嫌われ、同じ高校に進学した。

バネ屋

#01 プロローグ




 僕、三上アカリは小さい頃から走るのが好きだった。



 一番古い記憶では、保育園の運動会のかけっこで1等を取って、家族や友達から「凄い速かった!」と褒められたこと。


 小学校に行っても走るのが好きなのは変わらず、運動会ではリレーの代表に選ばれ1等を取り、マラソン大会でも毎年学年で1位だった。



 そんな僕は、中学に入学すると迷わず陸上部に入部した。


 短距離でも長距離でもどちらでも良かった。


 兎に角走ることが好きだったし、その好きなことをして周りから褒められたり認められることが嬉しかった。




 走っていると、徐々に頭の中から考え事が抜けて行って、空っぽになる。


 そうなると、周りの景色がモノクロになって、聞こえてくる音も自分の荒い呼吸だけになった。


 息が上がろうが脚が重くなろうが、ひたすら体を動かし続け、走っていた。







 入部して間もない1年の1学期。


 7月にある市内の新人戦の長距離の代表選手に選ばれた。

 部活の顧問や先輩達には期待と応援の言葉を沢山言われ、家族や友達からも「1年なのに凄い!頑張れ」と励まして貰った。


 僕は、みんなの期待や応援を受けても大きなプレッシャーを感じることも無く、大会では無事に優勝することが出来た。





 更に部活だけでなく学校からも期待されるようになり、ますます走ることにのめり込んでいたが、夏休み中の8月の頭、部活の帰り道に交通事故に遭い、大けがを負った。



 そのまま病院に運ばれ手術を受けたが、残りの夏休みは入院生活とリハビリで終えることになった。




 脚には、大きな傷跡と後遺症が残った。


 夏休みが明けた2学期に入っても、学校に通いながらのリハビリを続け、日常生活をおくれる程度にまでは回復したが、以前の様に本格的なランニングは出来ず、選手としては絶望的だった。



 部活の方は、顧問の先生と相談して、マネージャーとして残ることを提案されたが、退部した。


 走れないのに他人の走る姿を見るのは辛過ぎたからね。



 ただ中学校の規則で、いずれかの部活動に所属する必要があったので、文芸部に入部した。


 文芸部のみんなには、陸上部を退部して文芸部に入る経緯などを正直に説明していたお陰か、みんな快く受け入れてくれた。



 それからは、放課後は文芸部に行って読書をしたり、週に2回のリハビリをして過ごした。


 周りの友達は、激変した僕の生活環境に同情してくれて、クラスのみんなは色々助けてくれたし、特に同じ小学校からの友達たちは色々励まそうといつも一緒に居てくれて、休みの日になんかもよく遊びに誘ってくれたりした。






 ある週末、小学校からの友達連中に誘われて、ゲームセンターに行った。


 みんなでコインゲームで遊んでいたんだけど、思春期の謎のテンションで「負けたヤツ、罰ゲームしようぜ!」と罰ゲームを賭けて勝負することになった。


 罰ゲームは、これまた思春期の謎のテンションで「好きな女の子に告白する」ことに。







 勝負には、僕が負けた。


 僕には好きな女の子が居なかったから、どうしたものかと悩んだ挙句、学年で1番可愛いと人気の子に告白することにした。




 1年には二人の有名な可愛い子が居た。



 一人は、森田ミワ。


 目がクリクリとしてて、ニコリとした笑顔が印象的な美少女で、部活はバスケ部に所属していた。




 もう一人が、高梨イクミ。


 女子の中でも身長が高くて胸も大きく、森田ミワが可愛い系なら高梨イクミは綺麗系だった。


 ショートカットが似合う美少女で、バレー部所属で1年で既にレギュラーの期待のエースと呼ばれていた。



 この二人が1年ではもっとも有名な美少女二人で、更にこの二人は同じクラスで仲が良く、美少女コンビとしても有名だった。





 ただ、僕は二人とも話したことは無く、こちらが一方的に顔と名前を知っている程度だったので、罰ゲームはどちらでもいいやと、森田ミワに告白することにした。


 そう話すとみんな盛り上がってくれたので、僕は作戦を即興で考えた。


 クラスは違うし共通の知り合いが居るのかすら不明で、呼び出して告白という発想も無かったので、放課後に森田ミワのクラスに押しかけて、その場で告白すると言うと、みんなは「見届けてやる!」と当日付いてくることに。




 週明けの月曜日の放課後、賭けをした連中を引き連れ、森田ミワの居る7組へ押しかけた。


 教室の中を覗くと、森田ミワはまだ自分の席に座ってて、机の中から荷物を取り出してたりしていた。


 僕は一人で森田ミワの席まで行き、正面に立つと『好きです!付き合って下さい!』とクラス中に聞こえる大声で告白した。




 僕の告白を聞いた森田ミワは、引きつった顔で滅茶苦茶ドン引きしてて、「キモイ、最低」と吐き捨てられた時は嫌悪感丸出しの顔になっていた。




 上手く行くとは思ってなかったし、振られること自体は分かり切っていたけど、予想以上に嫌悪されたのは結構凹んだ。

 それでも一緒に来ていた連中には励まされたり笑ってもらえたりして、帰り道はみんなでワイワイ盛り上がりながら帰った。







 翌日、学校に行くと、僕が森田ミワに告白したことが事件として学年中に広まっていた。


 同じクラスのバスケ部の女子から「ミワちゃんに告白してフラれたんだって?」と聞かれ、森田ミワ本人かその周りの子たちが広めているんだなと理解した。 僕がその女子に『汚物を見る様な目で振られたよ』と教えると、その子は「ドンマイ!」と笑いながら励ましてくれた。


 同じクラスのみんなからは、僕に対して同情的だったが、他のクラス、特に僕と交流の無い人たちからは、敵意を向けられた。


 後でバスケ部女子の子が教えてくれたが、やはり森田ミワが僕に対して相当怒っているらしく、僕に対するネガティブキャンペーンを繰り広げているらしい。



 まぁ、好きでも無いのに罰ゲームで告白。

 しかも大勢の目の前で恥ずかしい思いまでさせられたんだから、森田ミワが怒るのも僕自身が嫌われるのも仕方無いと思えたし、有ること無いこと言い広められても自業自得と割り切って、色々な人から何を言われても反論はせずにスルーし続けた。



 罰ゲームの賭けに参加していた友達連中は、そんな僕の状況に申し訳なく思った様でみんなから謝られたけど、『押しかけて大勢の前で告白っていう目立つ様なことを考えて実行を決めたのは全て自分だし、みんなが責任感じて謝る必要はないよ。気にするな』と、強がった。




 幸い、同じ小学校の友達やクラスの連中、あと文芸部の子たちは相変わらず僕と仲良くしてくれていたので、イジメになるようなことは無いまま1年生を終えることが出来た。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る