第5話
雲一つない晴天。
これだけ晴れ渡った空を見ていると、不思議と気分も健やかになるものだ。
しかし残念ながら、僕の心は曇天の如く暗かった。その原因は、僕を取り囲む三ギャルの所為である。
どうしてだか、ここ最近安藤さんを中心に三人の強ギャルが陰キャラオタクぼっちの僕にちょっかいを掛けてくるのだ。お蔭で僕は、イジられ疲れて夜しか眠れない。
こんな陰キャをイジって何が楽しいんだろう……。
そんな悩みを抱え重い足取りで校門を潜ると、後ろから声を掛けられる。
「おはよう、黒崎君」
「そ、園原さん……」
声をかけてきたのは、同じクラスの学級委員長、園原唯さんだった。
クラスの学級委員長にして、清純派美少女。
腰まである艶やかな黒髪に、処女雪のような白い肌。普段は美しいのだが、笑うとキュン死してしまいそうな可愛いさを兼ね備えている端正な顔。
ほどほどによい膨らみがある胸にキュッとしまった腰と細い足。
外見スペックだけでも完璧なのに、彼女は内面でも非の打ち所がない。
成績優秀で、誰にでも優しく陰キャな僕にだって声をかけてくれる。
オタクの理想をこれでもかってほど詰め込んだ女性なのだ。
一言で表すとマジ天使。
正直に告白しますと、園原さんは僕の好みにドストライクだった。彼女を彼女として妄想して、彼女で何回息子のお世話になったか分からないくらい僕は彼女のことが好みなのである。
あれ?これってもう好きってことじゃない?
マジ恋、始まっちゃいました?
と、中学までの僕なら玉砕覚悟、ワンチャン狙いで園原さんに告っていたかもしれない。
けど、絶対にその恋は実らないと分かっているし、告白した次の日には学年全体に噂が広がっているのだ。
「ねえ聞いて、黒崎ってあいつに告ったらしいよ」「マジかwウケるわww」「吊りあってないってわかんないのかねww」と、話したこともない生徒に笑われるのがオチである。ソースは僕です。
とどのつまり、美少女から優しくされたとしても、陰キャは絶対に勘違いしてはいけないという事だ。
「いい天気だね」
「う、うん」
「なにか、辛いこととかない?」
「え……急にどうしたの」
「そうだよね、急だったよね、ごめんね。黒崎君、席替えしてから安藤さん達と話してるじゃない?からかわれて、辛くないかな~って、ちょっと思っちゃったの」
「園原さん……」
「もし耐えらなかったら、私が力になるから言ってね。これでも私、学級委員長だから!」
小さくガッツポーズをして、太陽のような明るい笑顔を見せる園原さん。
そんな優しい言葉を受けて、僕は心の中で絶叫していた。
(好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)
好き好き好き好き好き!!
なんでこんなに優しいんだろう!?マジ天使!!いや天使こえて女神やん!!
こんなん勘違いしてまうて!!好きになっちまうて!!
もうやばいやん、陰キャラ童貞殺しにきてるて!!
落ち着け、落ち着くんだ陰キャラオタクよ。
ここで動揺して取り乱してしまったら、彼女にキモイ奴と思われてしまう。そうなった場合、もう園原さんから優しく声をかけられる事もなくなってしまうじゃないか。
それだけは嫌だ。
灰色の高校生活でも、園原さんから声をかけられる事が僕の唯一無二の生き甲斐なんだ。
それを失ってなるものか。
「えっと、ありがとう園原さん、心配してくれて。でも僕は大丈夫……安藤さん達とは、普通に会話しているだけだから。い、意外といい人達なんだよ」
「へぇ」
「っ!?」
なんだろう……そう言った瞬間、園原さんの瞳が一瞬キツくなったような気がした。
いやいや、そんな筈がない。園原さんに限って、あんな冷たい目をする訳ないじゃないか。
「そっか、私の勘違いだったみたい。ごめんね、突然変なこと言って」
「ぜ、全然変じゃないよ。むしろ声をかけてくれて、凄く嬉しかったです」
「くす、何それ、変なの」
口元に手をあてて柔らかく微笑む園原さん。やっぱりさっきのは僕の見間違いだったみたいだった。
僕等は靴から上履きに履き替え、階段を上る。その時、園原さんが足を滑らせたのか後ろから倒れそうになる。
「きゃっ!」
「園原さん!」
僕は慌てて、園原さんに手を伸ばす。彼女の華奢な身体を抱きしめ、下敷きになるように位置をかえつつ落下した。
ドン!と背中に衝撃が走り「ぐぇ!」とカエルのような濁音を発する僕。
(あれ、前が見えないぞ?なんか暗いな。というか、顔を包むこの“生”暖かいものはなんだろう。ちょっと待って、息が出来ない!?)
く、苦しい!!
なんだこれ!柔らかくて暖かいのもが僕の顔に乗ってるぞ!!重くて顔を動かせないし、息が出来なくて凄く苦しい!!
「むーー!」
「っっっ!!??」
声を発しようとすると、それはパッと顔からどけられた。
すう~はぁ~、と呼吸を整える。本当にもう、死ぬかと思ったよ。あっ、園原さんは無事かな?
心配して彼女の方に視線を向けると、園原さんは何故か両手でスカートを抑えて顔を真っ赤にしている。
「園原さん……大丈夫?」
「っっ!!」
「あっ、園原さん!!」
何故か園原さんは身体を反転させ、凄い勢いで階段を駆け上がっていく。彼女の後ろ姿を眺めながら、僕は脳をフル回転させた。
何で園原さんは恥ずかしそうに顔を赤く染めていたんだろう。
あの優しい彼女が、助けた僕にお礼を言わず一人で立ち去ってしまうのも解せない。
いや待て黒崎光太、問題はそこじゃないだろう。
問題は、彼女がどうして恥ずかしそうな態度を取ったという事だ。
そこで僕は、自分の顔を包んだぬくもりを思い出す。
(柔らかくて、暖かくて、重い……まさか!!)
閃いた僕は、答えに辿り着く。
(あれは園原さんのお尻だったのか!!)
そうだ、そうに違いない。今考えてみれば、あれは間違いなくお尻だ。でなければ、園原さんが恥ずかしそうに立ち去る理由が思いつかない。
そこで、ちょっと待てよ?と僕は首を捻る。
確かあの時、“生”暖かったよね?パンツという布越しのような肌触りではなく、もちもちとした柔らかくて暖かい感触だったのを、はっきり思い出せる。
それで導き出される答えとは……。
(もしかして園原さん……ノーパンだったのか!?)
僕の中で積み上げた、園原さんの清純派イメージが崩れ去っていく気がした。
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