第2話 アーク

鳴神神なるかみ じんは、運良く撤退する部隊に合流できた。

正体不明の敵に、名前が付与されたと、誰かの持っているラジオが教えてくれた。

そして我が軍は、伝説の武器を探しているらしいことも知った。

”アーク”と言うらしい。

そう、あの、”アーク”である。


アークって、知らない人のために書いておこう。

モーゼと神の契約を記した石版を入れておいた箱のことである。

契約の箱と言われる、神話の時代のアイテムである。

我が軍の本当の目的が、本物のアークを探しているのかどうかなど、疑わしいものだが、アークという武器を探しているらしい。


契約の箱が、武器になるわけがないだろうけれどね。


本郷剛ほんごう つよしなどは、このニュースを耳にした時に、自分聴力を疑う前に、豪快に吹き出してしまったほどだ。

他にも何人か、大声で笑っている者たちが居た。

こんな時に、元気づけようと、ラジオのキャスターが機転を利かせたのだろうと、そういうふうに捉えたようだ。


迷彩を着た兵隊も、戦闘服や軍服を着ないようなスタッフも、笑顔が戻ってきたが、鳴神だけは、このニュースに、笑い出すことは出来なかった。

アークは武器にはならない。

だが、軍は何がしかのエネルギーを引き出す装置になるいると、本気で思っていた。

鳴神は直接捜索に携わったわけではないのだけれど、そのような特殊なものを、早い段階から探していた。

軍はすでに、敵の存在を察知していて、早い段階から準備をしていたのだが、それでも間に合わなかったのだ。


超能力部隊も揃えていた。

霊能力と言い換えても良いかも知れない。

実はそれを指揮していたのが、鳴神神と本郷剛である。

さらにもう一つ研究されていたものがある。

それが、人体を強化した、サイボーグと呼ばれる改造兵士である。

このサイボーグ兵には、志願した国民が選ばれていた。

志願者は障害を持った方が応募した。

身体に障害のあるものは、機械によって強化されて、常人以上によく動く体を手に入れることが出来たし、視覚聴覚の異常は、これを強化してもらえた。

さらに知的障害は、超能力を持つことが出来、さらに知能が常人並みに回復するという副作用もあったことから、家族が手術を受けさせる様になっていったのである。


3年の猶予があったのだが、3年しか猶予が与えられなかった。

3年では力の差は埋められなかったのである。

だから、本郷は、鳴神を殴ったのだ。

戦いに負けたことを怒ったのではない。

死んでいった超能力者たちが守ってくれた命を、簡単に捨てようとしたことへの怒りだった。

神や剛は、あっけなく死んでいった者たちの思いの応えるべく、再起を計らなければならないのだ。


トラックは、大きく揺れて動き出した。


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