夢食みジャック ハングドマンとかくれんぼの終わり
白鷺雨月
第1話 白猫
白猫のヨウコが我が家にやってきてから約一年が過ぎようとしていた。
彼女が我が家で生活するようになってから、母の病状は明らかによくなってきていた。
顔色はよくなり、得意だった料理もするようになった。ちなみに母の得意料理はカレーであった。
病院や施設を出たり入ったりしていたのが、まるで嘘のようであった。
こういうのをたしかペットセラピーというのだったかな。
ヨウコのお陰でこの家は平穏を取り戻したといっても過言ではないだろう。
しかし、この白猫を母がどこかから拾ってきて、ヨウコと名付けて飼いだしたときは正直頭を抱えたものだ。
そのヨウコという名前は二十年前に不幸な事件に会い、この世を去った妹の名であったからだ。
二十年前、妹が亡くなり、そのショックで母は精神を病んでしまった。
真夜中に妹の名前を叫びだしたり、町を徘徊してはすでにこの世にはいない妹を探し回ったりした。
父はそんな母をつきっきりで懸命に看病したが、その過労がたたったのだろう、病院からの帰り道に交通事故に会い、他界した。
ふらふらと赤信号の交差点に歩きだし、自動車にはねられたとのことであった。
残された僕は、母を病院に預けることしかできなかった。
まだ幼かった僕には親戚のすすめでそうするしかできなかった。
やがて大人になり、母をひきとったが、最初は苦労の連続であった。
母は長い入院生活でまともに社会生活をおくれなくなっていたからだ。
それが去年、ヨウコがこの家で生活するようになってから激変した。
母は穏やかになり、暴れたり叫んだりすることは無くなったのである。
時々、母は眠っていいるヨウコの背中をなでながらこう言うのである。
「夢食みさん、夢食みさん、夢食みさん。悪い夢を食べてください。いいかい、ヨウコ悪い夢を見たらこう言うのよ……」
その言葉はおまじないのようであった。
かなり奇妙であったが、昔どこかで読んだ童話かなにかのことを言っているのだろうと僕は自分を納得させた。
そのおまじないのような文言をいうだけで、その他はいたって平穏であったのでそんなのは許容範囲といえた。
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