ループした人々

相澤

第1話 最初のシルヴィア 1/2

 十二歳で第一王子の婚約者になり、半年後には結婚準備を開始、十五歳で結婚した。

 十八歳で王太子妃になり、二十八歳で王妃になった。王子妃も王太子妃も王妃もそれはもう大変な身分だった。


 夫となったアドリアーノは女性が大好き。特に私とは正反対なのではと思う様な、気が強くプライドの高い女性を好んだ。

 身分的にも教養的にも第一妃として任せられる私を娶った後に、自分好みの女性たちを第二妃、第三妃と娶っていった。


 それはアドリアーノが王太子になって、国王を引退する時まで続いた。常に第五妃までいる状態が数十年も続いたのだ。

 アドリアーノには見た目も含め、女性を惹きつける魅力があったのは認めるし、とにかく口が上手。王子として、王太子として、国王としての手腕も特に問題はなかった。


 だけれど、未だになんでやねん! と言いたい。その夫人の管理は第一妃である私がしなければならなかった。

 気が強くプライドの高い女性たちの扱いは難しく、仕事よりよほど大変だった。特に彼女たちのプライドがどこで傷つくのかがさっぱり分からない私には、きつい仕事だった。


 大切にしたい子どもたちの時間を奪われ、私が激怒したこともある。とにかく腹が立っていて、我慢の限界を超えた。その時の話は私の伝説になっているとか。大袈裟な。


「アネット、ちょっと行って来るわ」

 笑っていない笑顔で物凄く怖かったと後のアネットは語っていた。アネットとは元々友人。

 私が結婚後は侍女として、子どもが産まれたタイミングで乳母としても働いてくれ、私が最も信頼している人でもある。


 後宮での諍いを収められずに私を頼った管理人は、顔面蒼白だったとか。私は管理人を一言も責めていないのに、不思議よね。私は後宮に行き、騒いでいる部屋の扉を無言で開けた。


「うるさいっつってんだろが! そんなにお互いが気に食わないなら、静かに暗殺でもし合いな! 何よりも静かにやれ! そして私が呼ばれるような事態を二度と起こすな!!」


 今まさに掴み合いの喧嘩をしている二人に、息継ぎなしで言い放った。言いたい事はまだまだあったけれど、そんな時間さえ勿体ない。

 二人が静かになったのを確認して、私は後宮から出て行った。


 あの時は流石にどの妃も驚いたらしい。私があれ程激怒するとは思わなかったのだろう。しばらく大人しくなったので、後悔はしていない。

 そして、直ぐに彼女たちは忘れてしまうのか、また同じ事を繰り返す。なので私の怒り爆発は恒例行事となった。疲れる。穏やかに暮らしたい。


 さらにアドリアーノは妃の嫉妬を煽るのが好きだった。女性たちが自分の寵を争って諍いを起こしているのを見るのが趣味とか、本当に理解できなかった。

 それに私をよく利用した。それでいて、私を今の地位から降ろす気は微塵も無かった。ただ少~し匂わせて、彼女たちに私と成り代われるかもしれないと勘違いさせるのが得意だった。


 巻き込まないで欲しい。アドリアーノにとって私を第一妃から降ろすのは危険だった。アドリアーノが他の妃を選ぶ基準は気が強くてプライドが高いこと、美人なこと。ただそれだけ。

 寵姫としてはいいのだろうが、内政や外交に関わるのは無理そうな女性ばかりだった。ただ、女性側から見ると話は違って来る。


 第一妃とそれ以外では、国からの扱いが全く違う。名称に妃はつくが、他国で言うなら私が正妻で他は愛人、愛妾扱い。

 アドリアーノに飽きられたり、死なれたりすれば彼女たちの将来を保障するような制度は全くない。


 一応アドリアーノは飽きた女性たちや行き過ぎた行動に移った女性たちを降嫁させて自分から遠ざけていたが、それを受け入れなければならない臣下も大変だったと思う。


 トラブルを起こさない様によく言い聞かせてから降嫁させたが、プライドが高く気の強い女性ばかりなのだ。静かにしている訳がない。

 王太子や国王の妻から一臣下の第二夫人はプライドが許さない人が多かった。

 言い聞かせている時の反応でだいたい今後の想像が付くようになってくると、臣下に予め連絡をしておいた。


 それによって、最初から別邸へ閉じ込めたり本邸への立ち入りを禁止したりと、夫人を守る準備が出来るので、特に夫人から感謝された。

 そんなので臣下からの苦言は無かったのか。意外にもほぼ無かった。


 彼女たちは嫉妬やら何やらで次第に顔が変わっていくが、基本は華やかでずっと見ていたくなるような美人ばかり。

 そんな彼女たちを夫人公認で第二夫人として迎え入れる事が出来る。性格的に第一夫人は無理でも遊ぶ相手としては最適。

 アドリアーノは嗅覚に優れていて、そういう考えを持つ男性を選んで降嫁させていた節がある。


 また、女性本人が妃になる事を強く望む事が多い。どんな言葉をアドリアーノが囁いているのかは知らないが、彼女たちはいずれ私と成り代わる気しかない状態でアドリアーノの元に来ているのだと思う。


 実家側にも娘を妃に差し出せばそれなりの恩恵、降嫁先になってもそれなりの恩恵をアドリアーノは用意した。

 それなりではあるけれど、言う事を聞かない娘を嫁に行かせられる上に恩恵があるのならば、まぁ従う家が多い。


 アドリアーノは私以外の夫人との間に子どもは決して作らなかった。私は二男一女、三人の子どもに恵まれた。

 王位継承権争いは不要という彼の明確な意思表示に、真面目な仕事ぶり。臣下も悪癖の一つくらいは…と、諦めてしまったのである。


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